HIDT Forever 18話「光と闇」
HIDT forever 18話
第2章 ー異世界との繋がり編ー
「光と闇」
「HI起きなさいー!!学校の時間よ!」
いつものように母親の声が、HIの住む小さなアパートの一室に響き渡る。
HIは重い腰をあげ、目を軽くかくと、自分の部屋のカーテンを開けギラギラと光り輝く太陽の方に目を向ける。
「いつもの朝や。」
外務省での一件が終わり、アモルについても新たに分かってきたことが多くなってきた。
音は相変わらず家に帰ることはなく、HIの家の一員として暮らしており、今日も妹と一緒に朝食の手伝いをしている。
ここだけを切り取れば、こんなに充実した生活を送っていいのかと思わんばかりの幸せさだった。
しかし、HIにとってこれは終わりではなく新たな試練の始まりにすぎなかったのだ。
「今日の飯はなんやー」
HIはこの前音からもらったミサンガの付いている左足を、軽く掻くと、自分が朝食の時に必ず座る定位置に座った。
「HIにぃ!今日は大好物の、プリンだよ!私と音ちゃんで作ったの!」
「朝からプリン作り!?バレンタイン前だけにしてくれよそういうのは...。そんなん食っても全然頭に養分回らんやろ。」
「ひどいっ!!じゃあHIにぃの分はなしだ!
ねぇ、ひどいね音さん!こんな男に将来ひっかからないようにね!」
音は妹の辛辣な一言に対して返す言葉がうまく見つからず、うじうじとしている様子だった。
「悪かった悪かった。プリン俺好きなんや、ぜひ食べさせてくれ。一緒に食べよう?な?」
「えーー、おそいなーー。せっかく作ったんだからなんかご褒美ちょうだいよじゃあ!」
「ご、ごほうび!?何が欲しいんや。」
HIは自分のためにあまりお金を使わないため、月のお小遣いがどんどんと貯まっており、今となっては小学生のころから愛用している豚の貯金箱に10万円以上はお金が貯まっていた。
「うーーん。なんでもいいよ! ついでに女の子へのプレゼントのセンスがあるかどうか試してあげる!」
「あぁ、でたでたそういうやつ...。音ーこう言う時って何買えばいいんだ?」
「だめーーっ。音さんに聞いちゃ!あ、ちなみに、音さんの分と2人分だからね!よろしく!」
「はぁ。」
厄介なことになってしまったなと少しめんどくさそうにHIはため息を吐いた。
HIは女性経験のなさから、女子という女子にプレゼントを贈ったことなんて今の一度もなかったからだ。
唯一HIが女子にプレンドをあげたことがあるとすれば、中学校の時のバレンタインの日。HIはもらえなすぎたせいか、男子が逆にチョコをあげるいわゆる逆バレンタインをかまそうと思ったらしい。
それで、当時好きな女子にお小遣いを全部叩いて「よっちゃんいか」の箱セットを送ったことがあった。
当然ウケがいいわけがなく、その日から毎日のように、イカクセェと言われるようになった。
イカクセェのはまた別の理由な気がするが...。
妹と音が作ってくれたプリンをありがたく食べ、朝食を終わらすと自分の部屋に戻り身支度を開始した。
今日は日曜日なので本来なら休みのはずなのだが、以前生徒会長からもらった名刺にかかれていた生徒会の集まる基地のような場所に封筒と行くことになっていた。
生徒会には同じような境遇な人たちが集まっていて、仲間が作れることを期待していたからだ。
HIは昨日の夜、徹夜で作った新作の発明品をバッグの中に入れ、封筒との待ち合わせ場所に向かうべく外に出た。
外は梅雨の時期にさしかかり、夏休みを目前に控えていた。
先週末から毎日ように雨予報。こんな日は外には出ずに、家の中でできることをするのが一番良いのだが、今のHIはそこまで暇ではない。
1年前に妹からもらった大好きなアニメのキャラクターの傘を堂々とさしながら、人通りの多い大通りをどんどんと歩いていく。
「よっ。HI待ってたぜ」
そこには、同じアニメでもう一人の人気キャラの傘をさしながらファミチキを咥えている封筒が立っていた。
「お前相変わらずその傘.....」
「その傘..?」
「イカしてるじゃねぇか!!」
「あたりめぇだろ相棒!!こんな可愛いキャラクターこの子以外いないんだからよ。」
「いやこっちのキャラの方が可愛いぜ封筒。さらにこちとら妹から買ってもらったって言う箔がついてるからな?」
「な、なんだと...?」
「ふっ、お前には到底むりなことや..」
いつものくだらない会話をかましながら待ち合わせ場所である建物の五階へと足を運んだ。
建物の見た目は明らかに廃墟...と言うわけではなく、普通に整備されたビルのような場所だった。フロア別の店名を見てみると五階には「FURIA」とかかれた喫茶店の名前がかかれていた。
「なるほどあいつらはココの喫茶店をねじろにしてるってわけか..」
「よっし、行こうぜHI」
「おう」
2人はエレベーターで五階まで上がり扉に手をかけると鍵がかけられていることに気づいた。
「おいおい、ここ鍵かかってるぞ。おーーーい!誰かいねぇか。」
ゴンゴンッ
「あぁ?お前ら誰だよ。俺らになんのようだ?」
扉から出てたきたのは身長約185センチの巨体とありえないくらい太い腕に筋肉を宿した人物だった。よくみるとHIたちと同じ制服を着ており、体の大きさと見合ってないからか、張り裂けそうになっていた。
「俺はHIって言うんだが、生徒会長からこの名刺をもらってな、ここまできたってわけだ」
HIは会長からもらった名刺を差し出した。
「ガハハッ!!こいつらがあの例の!これこれは失敬したぜ。まさかこんなに弱そうなやつが雪華の姉貴を助けるとは思わなくてな。ぜひ入ってくれ、歓迎するぞ」
「あぁ!?俺らのことなめてんのか!なめてたらやっちゃうからな?」
封筒はこう言う時に空気を読める人間ではない。完璧にやられる側なのにも関わらず舐められないように高圧的な態度を貫き通した。
「ガハハ!嫌いじゃねえぜ、そう言う性格のやつ。お前は封筒?だよな。聞いてるぜ、まぁとりあえず中に入れや」
「しょうがねぇなぁ...?ちょっとだけだぞ?」
こっちからきておいて封筒の態度は意味がわかなかった。きっと先の一件を解決したことで自分に自信を持ってしまったのであろう。
自信は時には自分を鼓舞するエネルギーになるが、使い方を間違えると慢心に繋がり隙が生まれてしまう。まだ封筒は自信の使い方がなっていなように感じた。
店の中の様子だが、やはりserenaと同じようにたくさんの本が棚には置かれており、奥の方にバーカウンターがあった。おそらくこの場所にもアモルに関する文献が山のように貯蔵されているんだろう。
「まぁ、ゆっくりしていってくれよ。今日は俺だけしかいねぇんだがな。」
「え、なんでだ?生徒会の本拠地なんだろここは?」
「まぁそうだが、他の奴は全員所用で外に出てるんだ。だから本当は今日は休みのつもりだったんだが、雪華さんが客がくるから1人はいておけって言うから、ここに残っているってわけだぜ」
「そうか、それは悪いことをした。」
「いや、いいんだぜ兄弟。あ、名乗り遅れた。
俺はライト。ダグラス•ライトだ。よろしく頼むな。」
「俺はHIだ。よろしく」
「俺は封筒や。HIとは昔からの親友や」
封筒と出会ったのは4ヶ月前くらいだし、全然親友ではないんだが、今はその細かいところを突っ込む気力がないので放っておこう。
「それで?俺らはなぜここに呼び出されたんだ?」
「そうだな。俺の方に雪華さんから、頼まれていることがあるからまずそれから終わらせてちまうぞ。」
そういうと、ライトはバーカウンターから何やら水晶のようなものを取り出した。
「なんだこれは?」
「お前ら飲んだんだろ?例の薬?これはその薬を飲んだやつが、能力を覚醒したか、それともアモル欠乏症になってしまったかをみることができる検査キッドのようなものさ。雪華からこれをやらせておけって言われているからな。」
「僕だけが飲んだだけだから、封筒の方はやる必要はないぞ」
「お、封筒。お前は飲まなかったのか。びびっちまったのか?」
「ちげぇよ!俺だって飲もうと思ったが、親友がまだ飲むなって言うからよ..」
「まぁ、リスクは少ない方がいいだろ?こいつはこれがなくても十分戦える。そう判断したんだ。来る時がくれば飲ませるかもな。」
「そうかそうか!お前らは信頼しあっているんだな!いいことだ!チームワークがあれば普段以上の力を出すことができるからな!」
ライトは二人の友情に感心したようで、その場で大きな声で笑い始めた。
「それで?これはどう使えばいいんだ?」
「そうだったな。すまんすまん、お前はこの水晶に手をかざすだけでいい。もし能力をゲットしていれば光り輝くはずだ。」
「わかった。やってみる」
HIは水晶の前に立つと、右手を水晶にかざした。水晶は綺麗な透明な色から徐々に色を失っていき、みるみる黒くなっていくのが見えた。
「おいおい、どうなってんだHI!光るって言うか、なんか闇のオーラみたいなの纏い始めてっけど!」
「なんだこりゃぁ!?俺も見たことねぇからわからんぞこりゃ。」
水晶は黒く濃く濁り、まるで水晶の中で落雷と竜巻が発生しているかのように荒れた模様になった。
「なんだなんだ!!」
水晶はHIの前で浮き始め、そのままHIの前で粉々に割れてしまった。
「....」
「....!?」
一同は言葉を失いその場に立ちすくんでいた。
「これは...能力を手に入れられてんのか?」
「いや、わからん」
「いや、わからん」
HIとライトの声がその場でハモった。
「これあれか?闇の力がまとっちゃった的な?チート能力ゲット的な?」
「いやいや、そうなのか?これ雪華さんに聞いてみないと全然わからんけど、そうだったらめっちゃ熱いぞぉ!」
「HIさすがやぁ!俺の見越したお・と・こ!」
なぜか2人は意気投合し、目の前の状況にとてもテンションを上げ、喜び始めた。
「これ、大丈夫なんか?本当に...とりあえず雪華に聞いておいてくれライト..」
「わかった。聞いておこう!」
「頼んだ。」
そういうと、ライトはバーでご自慢のコーヒーを淹れ封筒とHIに振舞ってくれた。
「せっかくきたんだもう少し話していこうぜ兄弟!何か聞きたいことはあるか!」
「そうだな、生徒会についてもう少し聞きたいな...」
「おう!いいだろう!俺ら生徒会の主要メンバーは全部で5人だ。生徒会長の雪華。そして副会長、あとは幹部が俺含めて3人だ。」
「全員能力者なのか?」
「まぁそういうことだ。全員ありがたいことに能力に覚醒している。だが、俺も含め家族がアモル欠乏症になっているやつらがほとんどだ。」
「なるほどなぁ」
「俺らの目標は、家族の病気を治すこと、さらにはこの腐った世の中を変えることだ。お前らも知っている通り、この世の中はアモルの能力を利用したアホな大人たちが仕切っている。このままだと選ばれるものだけが幸せになり、選ばれなかったものだけ死んでいく、本当の地獄みたいな世の中になっちまう。それを阻止するためにももっとアモルについて理解し、世の中を変える必要がある。それで結成されたのが俺らってことだ。」
「生徒会のやつらはみんな強いのか?」
ライトはコーヒーを一気に飲み干すと、ニヤリと笑みを浮かべ話を続けた。
「俺らの生徒会長、雪華の能力は化け物じみているいるとは聞いているが、俺も正直詳しいところはわからねえ。まあ、能力っていうのはあまり教えない方が強いだろ?あと副会長もあまり会わないからな、能力のことは教えてくれねぇんだ。でも俺なんかが太刀打ちできる奴らではないことは事実だ」
「えぇ、、あいつってあぁ見えてあんな強いやつだったのかよ...HIやべぇなその能力ってやつ。」
「あぁ、予想以上に厄介な能力を持ってるみたいだなあいつは..。ちなみにライトはどう言う能力なんだ?」
「俺の能力は全然強いものじゃねえぜ。いわゆるサポート系ってやつだ。能力の名前は「ブレインシェア」他人の見えてる世界が共有されるからチームで動きやすくなる。まぁそんな感じかな。」
「おまえ、その見た目でその能力はびっくりだな。」
「能力が微妙だから体を鍛えてるんだ!だから物理戦闘なら任しとけ、ベンチプレスは250キロまでいけるからな。」
「ベンチプレス250キロってゴリラじゃねえかよ。怖っ。」
「まぁフライパンを一気に5個折り曲げてギネス記録貰ってるからな。」
「なんだそのいらねぇ記録は」
「そんなこと言うなって兄弟。まぁ俺らはもう仲間だ、いつでも俺のことを頼ってくれよな!ガハハハッ!」
「それは、助かる...。じゃあ封筒。俺らはそろそろ帰ろうぜ、例のアニメをオンエアで見ないといけないからな」
「例のアニメとはなんだ?まさか、プリプリ海牛くん3号のことか!?」
「おっ、よくわかったな。今季1番の推し作品、プリプリ海牛くん3号だ!」
「おおぉ!おまえもプリ牛を見ていたとはな!気に入った!!お前たちには連絡先を渡しておこう。受け取れ!」
「お、ありがとな」
3人は今季再注目のアニメ「ぷりぷり海牛くん3号」の話で意気投合したようで気づいたらさらに仲良くなっていた。
「じゃあな、兄弟!今日の最新話が終わったら感想戦でもやろうぜ!」
「おうよ!兄弟!任しとけ!」
「そうだ最後に言い忘れた、お前らは先の一戦の影響もあってかお尋ね者さ。政府が本格的にお前らをつぶすために動いてるらしいからな。十分用心しろよな。自分や、自分の周りを守れるのはお前ら自分自身の力だけだからな。」
「ああ、気を付けるよ。ありがとな。」
感想戦の約束と忠告を受け、2人はその場を後にした。
HIは帰り道を封筒と歩いていると、今朝妹と、音になにかプレゼントを買うという約束をしたことを思い出した。
「封筒すまん。先に帰ってくれ。急用を思い出した。」
「お、そうか?じゃあ、気をつけて帰れよなー」
HIは封筒と別れると、雑貨屋さんに入った。
「これでいいかなぁ...」
HIは3時間以上悩んだ末一つに決め、レジでお金を払い、店を後にした。
(プルプルプルッ【着信音】)
「誰だ、この電話番号?はい、HIですけど。」
「お兄ちゃっ....!。」
電話の先からは妹の声が確かに聞こえた。
普通ではない、HIの感は危険信号を体全体に訴えていた。
「HI。お前の妹は預かった。返してほしければ追って連絡する場所にこい。変な真似をしたら妹とは一生会えなくなるだろう。」
(プツッ【切れる音】)
「おい!!おい!お前誰だ!!なんだそれは!ふざけんな!」
もう切れているため、電話からの返答はない。
「うあああああ!!!」
HIは大雨の中、プレゼントを片手に天高らかに大きく怒号を響かせた。
ー18話完ー
ーあとがきー
ついにHIDT Foreverも新章に突入!
さらなる秘密がHIたちを襲う!?
今後の展開にとうご期待!!
私事ですが、昨日、新型コロナウイルスに罹患してしまいました。
たくさん小説書ける!やったあと思ってましたが、なぜかあまりやる気が出ず、更新が遅れてしまい申し訳ございません!
これからも毎週水曜日(次回8月24日)に標準を合わせ、毎週投稿していきたいのでこれからもよろしくお願いします!
感想待ってまーす!
HIDT Forever 17話「終わりと始まり」
hidt forever 17話
「終わりと始まり」
外務省での一件が終わり、謎の生徒会長雪華から妹のこと、欠乏症のこと、世界のことを聞いたHIと封筒はひとまず事件の際に助けになったマスターに感謝を言おうと、「Serena」に向かった。
「HI。俺らの難事はここから始まったよな。今となっちゃ懐かしいことだが。」
「いやいや、俺ら入学してからまだあんまり経ってないだろ。逆にこんな短期間でここまで思い入れができるって、どれだけ濃い経験をさせられてんだ。」
HIは道の端に孤独そうに落ちている石を思いっきり蹴り飛ばした。
HIから思い切り蹴られた石はコロコロと転がり、まるで石に意志が有るかのように自由自在に転がり始めた。
「HI、めっちゃ飛ばしたなお前。いつからそんなにサッカー上手くなったんや。この前の授業中なんか立ちながら寝てたくせに。」
「うるせぇ、適当に蹴っただけや。」
蹴られた石はそのまま奥の電柱にぶつかり大きな音を立てた。
その拍子に電柱の裏から驚いた少女がふと現れた。
「お、音...?なにやってんや、帰っておけって言ったやんか。」
「しん..ぱい...で..」
今にも泣きそうな声で音はHIに想いをぶつけた。
「おいおい、HI。お前、女の子を泣かせちゃいけねぇじゃねえか。今思えば、音ちゃんを一人で帰らせるなんて俺は男として失敗だった...すまんな..!!」
封筒は音に対してどのような感情を持っているのだろうか、恋愛感情、はたまた妹のような存在?そもそも音の方が年上のため、どれも当てはまらないような気もする。封筒の本心はどこまでがネタでどこまでが本気なのか今だによくわからない。
「それもそうやな。音。とりあえず僕らはSerenaに向かう。あの時助けてもらったマスターもそこにいるはずや、挨拶しておこうと思ってたしちょうどいいんやないか?一緒に行こう。」
「うん!」
音は嬉しそうにHIと封筒の間に入り込んできた。
HI達の一つ年上とは考えられないほど小さな体の女の子を連れるHIたちは周りから見れば、死ぬほど訳ありの兄弟とその妹のようにも見えるだろうか。それでも今この瞬間になにか、感じたことのない新鮮な幸せを感じたのだった。
3人はたわいもない話をしながらしばらく歩いていくと、いつも通りの道の奥にSerenaの看板が見えた。
HIはノックをし、ドアを開ける。
それに続いて、少し体を丸めながら音と、完全にお兄ちゃん気分で鼻息を立てている封筒が続く。
「マスター!いるかぁ!」
HIは大きな声で叫ぶと、奥の本棚から黒いtシャツに加え、腰に茶色のエプロンをかけたサラッとした男性が現れた。
「HIくんか。よくきたね。それと封筒君も。
後ろの子はあの時の音ちゃんかな?」
音は封筒の後ろから軽く会釈をして感謝を示した。
「マスター。あのあと色々あってな。俺らの学校の生徒会長と話してな....」
「あぁ、あの学校の生徒会か、多少は情報を持っているがよくわからなかったからな。詳しく聞かせてくれHI君。」
HIはマスターにあの事件の後のこと。とりわけ生徒会のこと、この世界の秘密、そして、能力を手に入れるためにHIは薬を飲んだことを話した。
20分近くマスターはHIの顔から一度も目線をそらすことなく、真剣に話を聞いてくれた。そういったところを見るとやはりマスターの大人っぽさ、頼りがいを感じることが出来た。
「そうかHI君。君は飲んだのか薬を」
マスターは思ったよりも冷静な反応をした。
HIはマスターにいうと怒られるのではないかと思っていた節があったので最初は不安に思っていたが、少し安心した。
「マスター。思ったよりも冷静ですね。この薬を飲むことに対してマスターは抵抗を示すと思っていたのに。どうもミスったら欠乏症に罹患するようですしね。」
「そうだな、何の思いもなしに飲んでいたら、まぁ救いようがないアホだと思っていたよ私も。でも君はこの件については関係が大いにあるからね。君の覚悟もよくわかってるいるし。」
「本当にそれだけですか?」
「何が言いたいんだねHIくん。」
「マスターは僕らに何か隠しているような気がするんです。例えば僕の父と前の母のこととか。」
「そうか、そう思うのはなぜかな?」
「まぁこれと言って理由はないですけど...」
マスターはコーヒーを人数分淹れて、HI達の目の前に出した。
「そうか。まぁ時期にわかるだろう。すぐに来るはずさ、君の数奇な運命と、今までのことが繋がる時がね。」
「そうですか」
HIは難しい顔をしながらコーヒーを一気に飲み干した。あまりに話に集中しすぎたせいか、砂糖を入れ忘れたようでHIのコーヒーはまさにブラックでとても苦く、その場でむせてしまった。
「ゴホッ、ゴボッ」
「おいおい、大丈夫かよHI。」
隣で封筒は、砂糖の包みを10個以上も開封していて、これでもかというほどコーヒーにぶち込んでいた。
「お前どんだけ甘党なんや。そんな苦いの嫌いなら最初からコーヒー飲むなや」
「恋も人生も、何もしなきゃ最初の死にほど苦いコーヒーと同じくまさに苦汁(渋)を飲むことになるんだぞ?苦い時こそ適度に砂糖を混ぜて自分の好きなちょうどいい甘さに調節する。何事も同じだろHI?何もせずに突っ込んでいって振られるモテない俺は卒業さ。」
「深そうであんま深くないこと言うなよ封筒」
「フフっ..」
なぜか音だけは二人の隣でくすくすと笑っていた。封筒のイキり発言に笑みを浮かべる優しさを持っているのはこの世界に音を除いてはいないようにも感じた。
「そうだHI君。君たちはこれからどうするかわからんが、確実に世界政府は君に目をつけているよ。普通の生活を送れる保証はどこにもないだろう。」
マスターは自分で入れたコーヒーを一気に飲み干した。そして、新しくコーヒー豆をすりはじめた。
「さてと、これからの話だが・・・・。君たちには仲間が必要だ。どんな時も同じ境遇の仲間がいた方が過ごしやすいし、助け合えるだろう?」
「そんな仲間どこで手に入れるんや。俺らにはもう封筒と音がいるから大丈夫や。」
「まぁ彼、彼女も十分に強い人たちであることは先の一件で十分見せてもらったよ。それでも相手は世界政府だ、多いに越したことはないだろう。」
「それじゃあどこにいけばいいんや?」
「そうだね。君たちはもうそのヒントを胸ポケットにしまっているはずだよ」
「胸ポケット?」
HIは自分の胸ポケットに手を入れた。
そこには先程、雪華からもらった彼女の電話番号が書かれていた。
「いやいや、あいつの手を借りるのは嫌だ...妹をあんな目に合わせたやつだぞ一応」
「そうじゃない。その裏さ」
「裏?」
HIはその裏を開くと、本校生徒会の詳細と、会合が行われる場所と時間が書かれていた。
「今考えてみると、ここの学校って生徒会室なんてあったっけ?HI?」
「ここまで訳ありとなると、生徒会も表立って行動できないと言うわけや。毎回のように場所を変えて秘密裏に会っていると言うわけや。」
「そう言うことだ。君たちはそこに行くといい。きっといい仲間が見つかるはずさ」
そこには2日後にとある建物の五階に来るようにと書かれていた。
「それじゃあ、検討を祈るよHI君達。それと音さんもこいつらをよろしく頼むよ。」
「うん...」
音は大きく頷いて、自分の分のコーヒーを飲み干した。
少し熱かったようで、唇をすぼめ、むすっとした顔を浮かべている。
「とりあえず今日のところはここで帰ろう。音、封筒、行くぞ。次の集合は2日後やな。それまでに各自とりあえず疲れを取っておこうや。」
「別に敵地に乗り込むわけでもないんやから、そこまで気を張る必要なんてあるのか?HI?」
「人をそう簡単に信じるなよ封筒。人はすぐに裏切るぞ、常に疑いから入らないとな。」
「おまえまさか俺のこともまぁ疑ってたりするか?」
「最初は疑ってたけど、こいつ思ったよりアホだなって思ってからは、疑うだけ無駄なような気がして今は信頼してるぜ、多分。」
「なんか信頼の形に絶妙な嫌味が入っている気がするするだけどまぁいいや。相棒よろしく頼むぜ」
「おう、とりあえず帰ろう」
HIはドアを開けると、思い出したかのように後ろを向きマスターに向かって問いかけた。
「そういえば、僕の彼女は今どこにいるんだマスター」
「ああ・・・・・・・。」
マスターは急に口がつまり、周りをきょろきょろと見渡し始めた。
「マスター。彼女は元気か?それだけ教えてくれ」
「それだけは心配するなHI君。この私が何が何でも守るつもりだ。」
「そうか・・・・・。」
HIはなにかを悟ったような顔をすると、マスターに背を向けまた歩き始めた。
「まだ僕が会うには早すぎるか・・・。」
「HIどういうことだ?なんだ早すぎるって」
封筒が不思議そうな顔をしてHIに聞いた。
「いやっ、何でもない僕の話や。そんなことより帰ろう、おいしいご飯が待ってるぞ」
そして、HIと音はHIの自宅に、封筒は自分の家に向帰っていった。
時間は夜7時を回り、夕日が完全に落ち、目の前を照らすのは、街灯と騒がしい車のライトだけになった。
「HI...これ。」
音はそういうと、ポケットからミサンガを取り出した。
紫色のそのミサンガは繊細に編み込まれ、素人目でも手が込めて作られていることが一目でわかった。
「お姉ちゃんから昔...教えてもらった...ミサンガ..。」
「お、ミサンガじゃねえか、これあれやろ。切れるまで肌身離さず持っておけば願いが叶うっていうやつやな。俺にくれんのか?」
「チーム...証...信頼の...証..」
「チームの証ね。いいなそれ。ありがとう。封筒にはあげないのか?」
「もう..あげた..」
「あげたんかもう。いつものあいつだったらすぐに自慢してきて、「俺だけもらったぜー!いぇーい!」とか言ってきそうだけどな。嬉しすぎて自慢することも忘れたんかな?あいつ。」
「まぁ、ありがとうな音。これが切れた時にどんな願いが叶えられるか楽しみや。」
HIはそういうとミサンガを自分の左足の足首につけた。
音はそれを見ると嬉しそうににこやかな表所を浮かべ、自分の左足首をじっと見つめた。
終わりと始まり。まさしく毎日とは日が沈み、夜が始まり、いずれか日が昇り朝が始まる。始まりがあれば、必ずと言っていいほど終わりが来る。そんな目まぐるしい毎日に翻弄されながら歩くHIの姿は昔と比べてとても大きく強く見えた。
【1章 アモルの秘密編 完】
ー後書きー
どうも。2週間以上執筆せずにこの作品を完璧になきものとしそうになった犯人のたにしです。
とりあえず一章がおわり、物語がひと段落したことはとても嬉しいです。
なかなか現実世界でも一度決めたことをやり切る!ってことは難しく、途中で飽きてやめてしまうことが多いので、17話も話を作って書き続けているの割と奇跡です。
そういえば、ワンピースの映画を見に行きました。作品を見ているときは常に鳥肌が止まらず、アニメが人に及ぼす影響は凄まじいものだと肌で実感しました。
いつかそんなものを書けるようにゆめはでかく持って頑張ります。
ではまた来週👍
HIDT Forever 第0話「作品紹介」
こんにちは!たにしといいます!
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小説用 たにし 📕小説アカ (@tanishinovel) / Twitter
小説を始めたきっかけは、ポケモンをやっていた際に仲良くさせてもらっていた友達の「童貞こじらせ」を作品にしたら面白いのではないかというめちゃめちゃ身内乗りな理由です。
しかし、書いていくうちに次第に小説を書くことに楽しさを覚え、物語が次々と浮かんでくるその感覚に快感を覚えるようになりました。
身内乗りで始まった小説がどのような形で完結するのか。かなり世界観は凝って考えたので、ぜひ暇なときに見てもらえると幸いです。
自己紹介は置いといて、そろそろ小説の概要紹介に入っていきたいと思います。
やはり事前情報なしで、ゼロから読み始めても、初心者が書いた文章なのでとても読みづらいと思います。
この紹介だけでも見て、少しでも面白いと思ってもらえたらぜひ作品を見てみてください!(現在1話約4000文字ペースで毎週投稿中。現在全16話 7月22日現在)
※初めのほうは身内乗りみたいのを入れて書きすぎたので少しずつ修正していく予定です。
特に大きな目標はなく、趣味で書いているのですが、小説好きのいろいろな方からアドバイスをもらったり、ぜひいろいろな小説を読んでいきたいです!DM待ってます(笑)
HIDT Foever 作品紹介
~主要登場人物~
・HI
この物語の主人公。モチーフである友達のtwitter名をそのままパクったため、普通の小説では出てこない奇抜な名前になっているのが特徴。
中学時代のいじめ、複雑な家族関係をきっかけに、重度の童貞(以下DT)をこじらせる。
大好きゲームはポケモン。趣味はモノづくり。作中でも様々なものを開発し、困難を乗り越える。
・封筒
この物語の主人公であるHIと高校で知り合ったHIの心の友。
こちらもモチーフである友達のtwitter名をそのままとったためすごい名前になっている。
HIと同じく極めに極めた根っからのDT。HIといつか卒業することを誓い合う。
頭の悪さ、気持ち悪さが目立つがなんだかんだ人情深いいいやつ。
・謎の少女
HIがいじめられていた中学時代に唯一仲良くしてくれた謎の女性。
彼女のことを思い出すとなぜか頭痛が走る。
謎多き人物
・私立ランクマ高校
HIたちが通う高校。生徒会には何か秘密が、、、。
学校で起こる数々の不思議な出来事、、、。
※他にもいろいろな人物が出てきますがここでは省略
~作品概要~
この世の中は腐っている。
権力者の前では服従し、才能のないものは形亡き者として扱われる。
どんなコミュニティーでもそうだ、学校、職場、日本政府、世界構造。小さなものから大きなものまで、すべてが権力者主体の独裁国家のようなものだ。
しかし、このような世界構造が作りだされたのには理由がある。
この世界に蔓延る謎の物質「アモル」の存在だ。
アモルは人間の記憶媒体、いや、人間そのものを形成する特別な物質だといわれる。
この物質の発見を境に力を持つものと持たざる者が生まれ、世界に大きな格差を生んだ。
物質をめぐる各国の野望……。
アモルの正体とは?
ここで登場するのは、なんの特徴もない地味な高校生……。名をHIという。
HIはこの世の中の闇を暴き、世界を変えられるのか?
HIの壮絶な過去とは?
HIたちは無事DTを卒業することが出来るのか?
超絶イケてない男が送る 人生をかけたSFラブコメ
まあ作品概要をかくとこんな感じです!
ぜひ読んでくれた方は感想等どこでもいいので残してもらえるととてもうれしいです
( *´艸`)
それではここまでの閲覧ありがとうございました。
HIDT Forever 第16話「決断と挑戦」
HIDT forever 16話
少女奪還作戦から二日が過ぎた。
HIと封筒は慣れない運動のせいか、全身が筋肉痛で悲鳴を上げていた。
彼女の名前は上村音。恥ずかしさからか名前で読んだことはなく、「君」や「ねぇ」などの指示語で呼ぶことが多かった。
今は安全のことも考慮し、HIの家族の一員としてしばらくの間小さなアパートに一緒に暮らしている。
無論、部屋は分けられていて、音は妹と一緒の部屋が割り当てられた。
音は物静かだが、HIの家族はそんな音を歓迎していた。
「よっし、学校行くか...」
HIは重い腰をあげ、学校に向かう準備をする。
夏休みは目前に迫り、一学期の期末テストまでは残り数日、学校では勉強ムードが漂う。
HIは最近のこともあってか、なかなか勉強に熱が入らず、授業中も居眠りを決めることが多かった。隣の封筒もひたすらよくわからないことをぶつぶつ呟いているだけで、授業を真面目に受けている様子ではなかった。
話によると音は学年でも最高峰の成績らしく、暇な時に僕たちに勉強を教えてくれた。
彼女の聡明な姿を見ると、見た目からは感じられないが、頼り甲斐のある年上のお姉さんという印象をなんとなく受ける。
事件から数日が経った。
ある日、封筒とHIと音はいつも通り3人で学校へ登校していた。
下駄箱で靴を脱ぎ、上履きに履き替えようとした瞬間、HIの下駄箱に何か紙が挟まっているのに気づいた。
「なんやこれ..?俺ついに虐められたか?」
「いやいや!!これはあれや、下駄箱に手紙が.....きっとラブレターや!そうに違いねぇ!あのHIが、ついにモテ期到来か!?」
封筒は一人でHIの下駄箱に入っていた手紙で盛り上がっている。
冷静にHIはその封をあけ、中身を確認した。
【HI、封筒。君たちに試練の結果報告と成果報酬の授与及びに、伝達すべきことがある。放課後、例の駐車場に二人でくるように。】
「これ、お姉ちゃんの字だ。」
となりにいた音が小さな声で呟く。
「そういえば音のお姉ちゃんから意味わからんこと言われて護衛についていたんだったな。完璧に忘れてたわ。」
「HI!こいつに"なんで音ちゃんを最低な目に合わせやがったんだ"って問い詰めてやろうぜ。俺は許せねぇよ…こんな可愛いくていい子を...」
「あぁ、もちろんや。とりあえず放課後になったら俺と封筒の二人で行ってくる。音はこのままクラスに向かってくれ。あと、今日は遅くなりそうだから一人で帰ってくれ。」
「わかった。」
音はそう呟くと、スタスタと自分の教室まで歩いていった。
「HI。大丈夫か?覚悟はできてるか?」
「あぁ。もちろんや。なぜかはわからんが、この事件は他人事ではない気がするんや。俺がやりきらないといけない、そんな感じがする。お前も最後までついてきてくれるか?」
「もちろんだぜ相棒。お前と会うまでは、生きることに全く意味を生み出せず、空虚で意味の無い、真っ白な日々を繰り返していた。こんな俺に、ここまで色をくれたのはHI、お前のおかげや。お前が彩ってくれた俺の命、お前に賭けてやる。」
「嬉しいが、それは言い過ぎや。意味のない命なんてものは存在しない。人は皆、十人十色の人生を歩むんや。他人の色に染まりきるな。ただ俺は.....。なんでもない。お前の人生だし強制はしながな。」
「水臭えなぁ、HI。俺ら童貞同士、頑張ろうぜ。兄弟みたいなもんだろ?」
「ここで童貞ネタ出してくるんか。お前も変わんねえな。」
「褒め言葉ってことで受け取っておくぜ。」
「とりあえず、話の続きは放課後や。テスト近いんだから、寝るなよ?授業中に。」
「それはお前だろ...。」
「うるせぇ。」
その後、HIと封筒は疲れもあってか、死んでいるかのように寝た。このまま寝続けたら、オーロラ姫をキスで目覚めさせた王子様の如く、王女が目覚めのキスをしてもおかしくない程の深い眠りについていた。
4時間目の体育のサッカーでさえ、立ちながら寝ていた。彼らは文字通り、睡魔に取り憑かれているようだった。
ー放課後ー
♪キーンコーンカーンコーン♪
「あぁ?もうこんな時間か。おいHI起きてるかー。行くぞー、生徒会長のところ。」
「あ、あぁ。寝まくってたわ。」
HIは机に突っ伏していた顔を上げると、綺麗に教科書の型が顔についていた。
まさにその姿は鬼。
「お前も鬼にならないか。」と、言わんばかりの、強面の顔になっていた。
「おい、HIおまえすごい型ついてるぞw。クソウケるわw」
「うるせぇ、行くぞ。」
「おう。」
授業を聞いていなかったせいで、また音に勉強を聞いて迷惑かけてしまうなと思った。
そんな気持ちと共に、HIは封筒と集合場所である駐車場に向かった。
そこには以前と全く同じ場所に、例のレイと呼ばれる執事と、彼らの愛車であるジャガーEタイプが停められていた。
僕たちが車の目の前までいくと、助手席から雪華がゆっくりと降りてきた。
「待たせたね。中に入りな。」
二人は言われた通りに中に入った。
「まずは試練お疲れ様。君たちはよくやったよ。」
「おい、まずは色々俺たちから聞かせてくれ。そっちの話はその後や。」
「まぁまぁ落ち着いて。君たちが聞きたいことはなんとなくわかるよ。まぁ一つずつ答えてあげるから、まずは落ち着いて。」
HIは深呼吸をして、封筒と目を見合わせた。
「まずは音についてだ。彼女は君の妹だと言っていたが、それ間違いないな?」
「そうだ。音は私の大事な大事な妹だ。」
「それじゃあ、なぜ彼女があんな危険な目にあったんだ?君はそれを知っていて僕らに試練を出したのか?」
「そうだね。君たちも知っての通り、彼女はアモル欠乏症だ。このままだと彼女は消えてしまうだろ。それは私自身ももちろんわかっていたよ。」
「彼女が、危険な目に遭ったのは?わかっていてやったのか?」
「そこに関しては、私たちも予想外だったさ。不測の事態にもかかわらず妹を助けてもらったからね、君たち二人にはとても感謝してるいるよ。」
「俺らにじゃあ何をさせたかったんだ?俺らに彼女を探させて、知り合ってもらうことが本来の目的だったのか?」
「当たらずとも遠からずって感じかな。君たちも知っているかもしれないが、私の妹以外にも、アモル欠乏症の人なんてものは沢山いる。その中で君たちが、私の妹を引き当てたとはね。これは運命なのかもしれないね。」
「あまり、答えになってない気がするが...まぁいいや。」
HIは一旦、彼女の事情を理解した。
そして次に、外務省とそこで見たことについての話を続けた。
「音が連れ去られた場所は外務省だった。確か、君の父親も外務省勤務だったよな。何か意味があるのか?」
「それについては発言を控えさせていただくよ。家族のことだ。君たちにはまだ教える義理はなさそうだからね。」
「そうか、じゃあ次に、外務省の地下では何かをワープさせるような大きな機械があったんや。それについて知っていることを教えてくれ。」
「そうだね。君たちに私たち生徒会と、私たちの持つ情報を教える時が来てしまったみたいだね。覚悟はできてるかな?君たちはもう逃げれなくなるよ。」
「そんなものはとっくにできてる、そうだよな?封筒?」
「もちろんだぜ。」
二人の意思は強かった。
以前までの中途半端だった思いが、絶対的に揺らぐことのない信念に変わった、そんな瞬間だった。
「いいね。君たちなら大丈夫そうだ。まずはあの機械について知っていることを教えてあげよう。あの機械のワープ先はアメリカの研究施設だ。日本の外務省はアメリカの研究施設に送ることができる装置を開発し、ある人々を送っているんだ。」
「ある人々?それは誰だ?」
「言わずもがな、君たちならわかるだろう?アモル欠乏症の人たちだよ。」
「.....」
二人は言葉を失ったように静かになった。
「な、なっ、なんのためにそんなことを?」
震えた声を振り絞り封筒が質問を続けた。
「そうだね。まずこれを見てもらおうかな。」
そう言うと彼女はレイに指示をし、車のポケットから黒いアタッシュケースを取り出した。
ケースを開けると中には、以前も見たビンのようなものが二つ入っていた。
「これはこの前も説明したけど、僕たちが能力を手にするための薬のようなものさ。でも、これを飲んだすべての人が能力を手に入れるわけではない。手に入れられるのは認められた者だけさ。」
「これが、アメリカの施設に送ることとなんの関係があるんだ?」
「HIくん。君はこの薬はどうやってできていると思う?」
「....。普通に考えたらなんか、いろんな成分混ぜて作るんやろ。よくわからんけど。」
「まぁそうだね。この薬には特別な成分が使われている。通常は取ることのできない異世界からの成分さ。」
「異世界!?そんな世界があるのか?この世界にも?」
「あぁ、あるさ。その世界はとても危険と言われていて、一度入ったらまず生きて帰ることはほぼ不可能と言われている。」
「そうだとしたら、兵器とか使って偉い奴らが取りに行かずに、なんでわざわざ欠乏症の人たちが行かされているんだ?」
「それは、簡単さ。その世界には選ばれたものしか入れない。そう、欠乏症に罹患したものだけがその世界には入ることが出来るのさ。」
「「!?」」
HIたちは言葉が出なかった。そんな世界がこの世の中にあること、欠乏症の人たちが集められている理由、それらの謎が一つ一つの点から、一本の線のように全てが繋がった瞬間だった。
「言った通り、欠乏上の人たちは政府にとってはただの駒。彼らは何もしなけりゃ勝手に消える、だからそんな危険なところにぶち込んで薬を取らせることに、一切の躊躇がないのさ。」
「でもなんのために、その世界に入って薬を作る必要があるんだ?そんな危険なところにわざわざ入って薬を作って何がしたいんだ?」
「そんなものは決まっているよ。権力が欲しいんだ。薬を飲み、選ばれたものには能力が与えられる。様々な能力があるが、その分色々な方法で悪用することができるんだ。例えば、裏で糸を引いて、世界を牛耳ることすらもできる能力があるかもね。」
「薬を飲んで、能力が覚醒するのは一部だって言ったよな...?副作用とかってあるんか?」
封筒の率直な疑問だった。
「封筒君、いい質問をするね。そこがとても大事なところだよ。この薬は適応がない人に能力をもたらすことはない。適応のない人はもれなく、アモル欠乏症に罹患し、この世から消えていくことになるのさ。」
「嘘だろ....」
「これが世の中の全てだよ。才能のあるやつが、常に上に立ち、ないものはあるものに使われる。どんな社会もそんなもんだろう。わかったかな君たち。」
「そ、そんな.....」
封筒からは衝撃からかいつものアホらしさが完璧に消えていた。
「で、雪華。君はどうしたいと思っているんや。何か行動をしているように見えるが。」
「私は妹を助けたいんだよ。このままだと音は消えてしまう。何かこの病気に対しての対抗薬があるかをずっと調べているってことなんだ。わかってくれるだろ君たち。今まで黙っていて申し訳なかったね。」
「それじゃあ、生徒会って...?」
「そうだね、その被害者の集まりといったら聞こえが悪いかな。私たち生徒会はそう言った集まりさ、これ以上は聞かないでもらえるかな。」
「そうか....。事情はわかった。それにしても、何か策はあるのか?その対抗薬に関しての情報というのは。」
「今のところよくはわからないが、作る成分が異世界にあるってことは、それを治す成分もその世界にあると考えるのが自然だろう?さらに、その成分の情報はアメリカの施設に保管されているということも風の噂で聞いている。まぁ私たちにはどうしようもできないくらい大きな話なんだけどね。」
「なんで……」
「ん?」
「なんで諦めるんや。」
HIの渾身の一言だった。
「諦める?君は私が諦めているって思うのかな?」
雪華は少し怒った口調で、HIに問いかけた。
「ああ、そうだ。そこまで情報が出てたら、後はやること決まってるじゃん。しかも雪華さんは選ばれた側。能力者でしょ?戦えるはずや。確か妹を助けたい?って言ってたよな。その能力と情報があるのに動かないなんて、俺からしたら逃げていることと何も変わらない。」
「君は相手が誰なのかわかってるのか?」
「アメリカ?政府?世界?そんなん関係ない。俺にはもう失うものはないんや、変な自尊心やプライドもない。俺は無敵の人や。どの時代もも無敵な人がこの世界をいいようにも悪いようにも変える。俺がいいように変えてみせる。そう決めたんや。」
「ふふふ。君は本当に面白いね。気に入ったよ。」
雪華は不気味な笑みを浮かべた。
「そうだHI君と封筒君。約束だったよね。この薬2つ分。めちゃめちゃレアな物だよ。でもさっき言った通り副作用はあるから飲むか飲まないかは君たちの気持ちに任せるよ。」
HIと封筒は目の前のビンを一つずつもらい、それをじっくりと見て、お互いに目を合わせた。
「封筒。俺は飲む。これで何かを変える力を手に入れる。一か八かや。」
「お前正気か?間違えたらお前も病気になるんだぞ?」
「あぁ。封筒。お前は頼むからまだ飲まないでいてくれ。二人とも飲む必要があるとは限らない。なるべく犠牲は少ない方がいいからな。まずは俺が飲む。」
「で、でも...」
「いいんや。お前は能力に頼らなくても戦えるやろ。そのくらい強くなったはずや。」
「わかった。HI頼むぞ。お前は必ず選ばれる。そういう人間だ。この俺が言うんやから間違いない。」
「そうか...なんかお前に言われてもあんまり嬉しくないけどな...まぁ、ありがとう」
HIは目の前のビンの栓を開けそのまま一気に飲み干した。
「ウッウゥゥゥ!!」
HIは獣のような呻き声と共に、その場で苦しみながらもがき始めた。
「おい、大丈夫か?」
HIは落ち着いた声で話し始めた。
「.....。これはどっちや。」
「力!手に入れたのか?」
「わからん....でもなんか変な感じがする..」
「とりあえず無事でよかったぜ。相棒。」
「ふふふ。効果が出るまで数日かかるからね。まだわからないよ。とりあえず話はここまでさ、無事を願うよ。」
そう言うと雪華はHIに自分の連絡先が書かれた紙を渡し、その場を後にした。
「始まるな。封筒。俺らの戦いが。」
「あぁ、そうだな。見せてやろうぜDTの底力。」
「もちろんや。帰りにserenaによろう。マスターともいろいろ話したいし、僕の彼女もいまどうなってるかわからんしな...」
「そうだな。」
そうすると二人はserenaに向かって歩き始めた。
彼ら二人から隠れるように、太陽が静かに沈んでいくのが見えた。
〜後書き〜
HIDT foreverも16話目に入りまして、話は新章に突入していきます!
最近はテスト勉強、塾にプラスで知り合いからビジネスの勉強もさせてもらっていて死ぬほど忙しいです。
完全に趣味ですが、最後まで付き合ってもらえると幸いです。
(いつかちゃんと清書して、どっかに投稿したいっていう裏の目標がある)
東京ではコロナが3万人。周りにもコロナにかかっている人が増えてきましたね。
体調には気をつけて、自分のペースで人生長いので楽しみましょう!
ではまた来週。
遅れて申し訳ございませんでした😭
HIDT Forever 15話 「Think rich, look poor.」
HIDT forever 15話
(残り 30秒です。 転送準備に入ります。)
地下室にはアナウンス音と共にエネルギー音とも呼べそうな音が大きく響き渡る。
「残念だったな。ここまできたらもう終わりだ!あと30秒で何ができるって言うんだ、お前ら小童によぉ?
止められるものならやってみろよ。お前らにその力があるならな!アハハ!」
男は転送装置の前で高らかに笑いながら転送の時を刻一刻と待っていた。
「おい、新人。とっととこいつらを始末しろ。お前の初めての任務だ。しっかりとやれよな」
「.....。」
「おいHI!どうする!お前のことだ。なんか作戦があるんじゃねえのか?」
「あ、あぁ。お前がライトを灯してくれたおかげでまだ策はある。よくやった」
カプセルのようなものは薄いガラスのような扉で表面が覆われている。
細長いカプセルの上にはチューブのようなものが繋がれており、そこから大量のエネルギーを送り、中に入っている対象物をある場所に送る仕組みのようだ。
「いいか、封筒。まずはあの子を助けるために、あのガラスをぶち壊す必要がある。それはわかるよな?」
「あ、あぁ。」
「あれをぶち壊したら、あとはあの子をお前が中から引き出すんだ。あの子の顔を見てみろ。かなり消耗している。自分で動くことはもう難しいだろう。」
「え、その役職めっちゃかっこいいやん。死ぬほど憧れてたんだけどそういうのww」
「お前ならそう言うと思ってその役割を任したんだ。その役割をこなせばあの子は絶対お前のことを意識するだろうな....ラノベにはそう書いてあった。」
「おいおい、マジかよ。ついに俺も童貞卒業への一歩を踏み出せるってわけか😭」
「まぁ全ては上手くいった後に考えろ。もう時間はない。今は全ての邪念を捨てて、一旦目の前のことに集中するんや。」
「おまえ、かっこよくなったな。男ながら惚れちまうぜHI。俺はお前を信じるぜ、お前も頼んだぞ」
「あ、あぁ。」
「よっし、作戦開始!」
「おぉ!」
封筒の作戦開始の合図と共に、封筒は勢いよくカプセルの方へと走り出した。
彼は運動神経に特段長けているわけでもない。また、素晴らしい人間性を持ち合わせているわけでもない。彼は、ただただまっすぐなアホなのだ。
しかし、そんな彼の背中が今日はHIにとって大きく、そしてたくましく感じられた。
「よっし、俺の発明品。これを試す時がきたのか。」
HIは腰につけているベルトのボタンを押した。
ベルトからしわしわなドッジボールの球に空気が送られ、目の前には空気満タンのドッジボールが現れた。
そのボールには彼らのチーム名であるforever puddingという文字と謎のマスコットキャラクターのようなものが描かれていた。
さらにHIはポケットから手袋を取り出し装着し始めた。
異色の経歴をもつ母親から何かあった際にと、まさしくこの日のために教えたらもらった必殺の構え。
(4年前 球技大会予行練習にて)
僕の小学校では6年生の最後、各クラスで選抜されたメンバーだけでチームが結成され、地元最強の小学校を決めるコンペが開かれていた。
長年、僕らの学校は一位を取り続け、今回の球技大会でも優勝することが期待されていた。
僕は昔から運動神経が良かったわけではないが、ドッジボール特有の逃げスキルに特化していた。そのため、ボールを避けて生き残る担当としてチームに選抜された。
「おい、HI。お前は逃げるだけでいいからな。球持つなよな。弱いんだから。」
「う、うん。」
男子友達は口すっぱく毎度のように僕にボールを取らないように促してきた。
「逃げ回ってばっかでださいよねー。HIくん。逃げる担当って恥ずかしくないのかなぁ笑」
「そうよね、全く。それに比べて、新井くんってばめっちゃかっこいいわよね!ボールもたくさん取ってるし、投げるボールも速いし!」
こういった女子のいじりは本番当日まで毎日のようにつづいた。
そう、本番当日までは。
HIは本番1週間前、家に帰ると母親にこのことを相談した。
実はHIの現在の母親は、当時の母親が行方不明になってから新しくできた母親のため今とは違う。
4年前、元の母親は「国を護る職業」というものに就いていたと昔いっていた。
類いまれなる頭脳とずば抜けた運動神経によって他とは一線を引かれ、圧倒的な強さを誇っていたらしい。
「お母さん。僕、毎回ドッジボールでバカにされるんや、逃げ回るなって。逃げる担当なんてものはいらないって。」
「HIちゃん。男っていうのはいつか必ず闘う時が来るのよ。いくらこの国が平和主義だからと言ってもね。私は昔、女子だからという理由で色々な差別を受けた。でも、諦めずに強さを求めて毎日のように訓練をした。いつか来る、大切な人を守る時のために。」
「お母さん...」
「HIにドッジボールで大切なことを教えよう。なぁに、お母さんに任せなさい、ドッジボールも国を守ることも同じようなものだから。
HI、あなたがドッジボールの時みたいに将来、大切な人の目の前で逃げ回ったりしないように、私はあなたに私の持つ全てを教えるわ。」
「母さん、頑張るよ!僕!」
期間は1週間。その日から母親はたくさんのことを僕に教えてくれた。
今となっては覚えていることは少ないが、いざという時に働く僕の無自覚な力は、全てその時の母さんから譲り受けたものだろうと感じる。
「ボールは腕の力だけで投げるのではありません。しっかり足を踏み出して、体重移動させながら腰を捻り、肩に力を伝えるんだ。こんなかんじにっ!」
母親は一振りで目の前の木を全て跳ね飛ばした。
「す、すげぇ...てか、いかつい..」
その日から二人の秘密の練習が始まった。
来る日も、来る日も、1週間毎日のように、練習に明け暮れた。
「明日は本番だね。HI。お母さん仕事があって直接見ることは出来ないけど、活躍を心から祈ってるよ。絶対にHIなら大丈夫、自分を信じて。」
「1週間ありがとう!お母さんのおかげで僕頑張れそうだよ!」
「そうだ、HI。私がよく仕事で使っているこの手袋、特別にHIにあげよう。大事な時必ず力になるはずだよ。」
「うわ、カッコいい!ありがとう!お母さん!」
母親はその日以降、HIの目の前に現れることはなかった。
ー当日ー
その日何年にもわたる伝統ある球技大会で生まれた伝説は、以後みなの心の奥にしまわれることとなった。
HIの所属している小学校は決勝戦まで順調に駒を進めていった。
決勝で当たったのは前回準優勝だった隣の小学校だった。
案の定決勝までHIに球は回ってこなかったため、得意の避けスキルでどんどんと球を避けていった。
それぞれチームのエースには特別なワッペンが付けられるようになっていた。
諸々の打ち合いの結果、まさか、コートに残ったのはたったの二人。
相手チームにはワッペンのついたエース。名をジョニーニャという。彼は黒人留学生だったこともあり、体格、腕力共に一般的なアジア人をはるかに凌駕するものを持っており、そこが評価されてエースに選ばれていた。
一方、HIチームに残ったのは、筋力、頭脳は並レベル。謎の避けスキルでここまで避け続けたHIだった。
「ジョニーニャさんやっちまってください!」
「最後はHIかよ...おわったわ…」
周りからはさまざまな野次が飛び交った。
そんな中、球はまずジョニーニャに渡った。
ジョニーニャが必ず投げる前に言うセリフだった。
「ALIVE!!」
HI渾身の叫びだった。
「youは男ダネェ...。必殺技でキメテアゲルヨ」
ジョニーニャは力を込めて大きく腕を振り上げた。
「THE DEAD WAY!!」
時速は120キロを超えるだろうか。
HIにボールが渡るためには、まずこのボールを受け止める必要があった。
「おぉりゃあああああ」
HIは全身でその球を受けた。
腕はボールの摩擦でとても熱く、体全体がヒリヒリと痛かった。
「really?」
HIはかのジョニーニャの球を止めたのだった。
あの逃げ続けてばかりのHIが初めて正面から立ち向かった、そんな瞬間だった。
周りからは歓声が湧いた。
一ミリも信頼してくれていなかったチームのみんなも、声色がかわりHIを応援した。
「Think rich, look poor.」
この言葉は、HIが母親に教えられた名言だった。
考えは豊かに、見た目は貧しく。
国家のために働いていたという彼女にとってはとても大事な言葉らしい。
無駄に派手に着飾ることで、無駄な警戒心や隙が生まれてしまう。彼女はそれを嫌い見た目は貧しく、だが考えは豊かにということを大切にしていたらしい。
ドッジボールを投げるときも同じことが言える。無駄に大きなフォームは返って力の無駄遣い。エネルギーには必ず限界がある。そのエネルギーを一点に集中し、そして放出する。そのためには余計なフォームは不必要なのだ。
大振りなジョニーニャのフォームに対して、HIのフォームは至ってシンプルだった。
そんな中放たれた1発の弾丸は、ジョニーニャの足元にあたり、そしてそのボールは地に落ちた。すると、あたりは歓声に包まれたのでだった。
そして新たに伝説が生まれたのだった。
ー現在に戻るー
「Think rich, look poor.」
HIは深呼吸し、ボールを構えた。
辺りは凍え、HIの呼吸の音だけが大きく聞こえた。
「フッ!」
HIから放たれた弾丸は真っ直ぐに転送装置のガラスに当たりガラスを粉々に砕いた。
「HI!ナイス!!よし、帰るぞお姫様。」
封筒は疲れ切って動けなくなった彼女を抱えその場から離脱しようとした。
「封筒!!!後ろ!!」
これは一瞬の出来事だった。
封筒の後ろには、銃を構えている例の男がいた。
「まずいっ...!じぬぅうう!」
(バーーンッッ!!)
辺りに銃声が響き渡った。
「嘘だろ。まさか君がいたとは....」
「おい、俺助かったのか..?」
倒れているのは例の男だった。
その前で銃を構えていたのは男から雑用と呼ばれていた新入りの男だった。
「HIくん。よくやった。君たちがここに来るとは想定外だったがね。」
目の前に現れた雑用の正体は。僕らが、カフェ「Serena」で出会ったオーナーだった。彼の能力は記憶操作。
能力の存在を知っている僕たちには効かないはずだったが、顔を見る余裕もなかったため全然気づかなかった。
「私もここに潜入して、彼女を助ける作戦を実行していたんだよ。そしたら君たちがたまたま来て....。本当に助かった。」
「どうやってここまで?」
「能力を使って、新人としてこいつの記憶を操作して近寄ったんだよ。まぁ歳っていうこともあってなかなかギリギリの賭けだったがね。」
「お゛じ゛さ゛ーーん゛ん゛ん゛っ゛!!あ゛り゛が゛ど゛う゛!た゛す゛か゛っ゛た゛ぁ゛!!」
「こんなところで泣いてる場合なのかい?封筒くん。君は彼女を守り抜き、無事に家に送り届ける。それが君の仕事だろう。泣くのはそのあとだよ。」
「カッケェェ!そうだな。よし脱出や!」
「ここまで派手にやらかしたってことは、君たちは国家を敵に回したってことだ。追手はすぐ君たちの方に向かうだろう。私の能力で時間は稼ぐ、だからその隙に、君たちは今すぐここから脱出して彼女を安全な場所へ。」
「了解!」
そうして、二人はオーナーを置いてその場を後にした。
封筒は彼女をおぶりながら外務省から出て、すぐに彼女の家に向かおうとした。
「HI。この子をこのまま家に連れて帰ったら逆に危なくないか?またいつ襲われるかわからないし。それに加えてこいつのお姉ちゃんは全然信用ならないしよ。」
「確かにそうだな。封筒。お前の家に匿えないか?」
「いやーー。俺の親絶対許さないよ。でも、まじでこの子と一緒に生活できたら天にも登る気持ちなんだけどよぉ..。
HI、おまえは?」
「そうやな。一応聞いてみるわ。」
HIは母親に電話した。
意外なことに、事情を全く出すことなく、なぜかすぐに許可がおりた。
HIたちは彼女のことも考えて、HIの家でしばらく匿うことに決めた。
「そんなことより、この後はどうする?俺ら、ここまで来ちゃったらもう逃げれないぞ。」
「はなっから、逃げるつもりなんてないわ。もう逃げないってずっと前に決めたんや。お前も俺について来い。最後まで戦い抜くためにはお前が必要や、相棒。」
「いいこと言うじゃねえかHI!!最期まで付き合うぜ、お前の人生によ!」
「今後のことだが、まずは、俺にこのミッションを与えたこの子のお姉ちゃんであり、俺らランクマ学園の生徒会長のアイツのところに向かって、事を報告をしよう。話はそっからや。色々話したいこともあるしな。」
「あいつなら色々知ってそうだしな!あいつからとりあえずありとあらゆることを吐いてもらおうぜ!」
「そうやな。」
今後の作戦の話をしていたら、あっという間にHIの家の前までついていた。
「じゃ、HI。話のつづきはまた明日。学校で!この子のことよろしくな〜」
「あ、あぁ。」
こうして、HIと封筒は長い1日を終え、別れた。
「どうしようかなぁ...」
彼女は未だに目を覚まさない。
彼女の肌はとても綺麗に透き通った白色で艶やかだ。おまけに、まつ毛なんかとても長く、唇はとてもふわふわしていて...と思いながら、HIは、彼女のことをしばらくの間、薄気味悪い顔で観察していた。
気づいたら。夜になっていた。
HIは彼女に自分のベッドを貸して寝かしつけ、自分はゲーミングチェアの上で寝ることにした。
ー翌日ー
「HIさん...。ご飯...。できた...」
彼女はエプロンをし、HIの目の前に立っていた。彼女の声はとても小さいため、これでもかというくらい、HIの耳元に近づいて囁いていた。
「ぅおっ、ありがとぉお!??」
HIは寝ぼけていたため、最初はなにもわからなかったが、彼女がすでに家族の一員として朝の身支度をしている光景を見てとても驚いた。
「HIにぃ!お姉ちゃんめっちゃ料理上手だし、可愛いし!最高だね!私に本物のお姉ちゃんができた気分!」
HIの妹は、新たにできたお姉ちゃんのような存在に嬉しさをあらわにしていた。
「HIー!学校行くんでしょー!3人ともはやく支度しなさいよー!」
お母さんもいつもと変わらずといった感じだった。
「この適応力すごいな...」
HIはこんな平和な毎日がこれからも続けばいいなと心から思ったのだった。
15話 END
~あとがき~
どうもたにしです。
毎週投稿で書くことはや2か月。はやくも15話までかけたことに驚きを覚えています。
はじめはHIさんをいじり倒すためだけに始めたネタ小説で、3話もいかずに終わるだろうなと思っていたのですが、いざやってみると、頭に書きたいストーリーが浮かんできて、気がついたら15話まで来てしまいました。
ここまで読んでくれている方々には引き続き感謝を伝え、このストーリーを最後まで終わらせられるように頑張ります!
最近リアルでは、テスト期間ということもあり多忙な毎日が続いていますが、日々学ぶ気持ちを忘れずにさまざまなことを全力で頑張りたいと思います。
(今回からじょにーが助っ人として、誤字の訂正、管理を手伝ってくれています。ありがとう)
また来週!
HIDT Forever 第14話 「2分間の救出作戦」
HIDT forever 14話
この作戦がHIの場合
「しぇーしぇー!ニーハオ!フウトウ、、後は頼んだぞ。」
「オウヨbrother!」
HIはそのまま真っ直ぐ伸びる通路を走り出した。その道はとても薄暗く、この先の彼らの行方を暗示しているようにも感じた。
それでもHIは力強く一歩ずつその道を確かに歩んでいく。
「よっし、作戦成功や。あとは封筒頼んだぞ。」
HIは作戦の第一段階成功に安堵を浮かべた。
そしてすぐさまポケットからHI自作の探知機を出し、彼女の行先を探知した。
「この先か。それにしても妙だな。なぜこんなにも人がいないんだ?本来ならもっと外務省勤務の人でごった返してるはずじゃ。」
HIは当然の疑問を浮かべた。
今日彼等が会ったのは唯一入り口で出会った彼一人だったからだ。
すでにこの場所が常軌を逸している何かおかしい場所だということを察するには事足りる事象が揃っていた。
「なんだこりゃ」
HIは封筒から別れた道を真っ直ぐに進み、トイレの方向とは別の方向からレーダーが反応したためその方向に歩みを進めた。
たしかにレーダーの反応は強さを増しているが今いる場所から離れれば遠くなり、戻っても遠くなるといった反応を見せた。
「こりゃこの地下っぽいな。でもどうやって...」
HIはあたりを見渡した。
よくあるアニメのパターンでは近くに秘密のドアがあり、そこから中に入れるようなことがあると思ったからだ。
周りには長年使われていない排気口と、怪しげな非常ボタンがあった。
「なんだこのボタン。」
HIがここに来るまでにもこれでもかというくらいに沢山
の非常ボタンがあった。
ボタンの形は至ってシンプルな赤い配色に「SOS」の文字。しかもなぜかSOSは文字盤になっており、文字を動かせるような仕組みになっていた。
なぜこんなにもボタンがあるのかはよくわからなかったが、何か違和感を感じた。
「おい、この文字。(SOS)じゃなくて、よく見たら(SO Ƨ)って書いてやがる。sの文字が反対や。」
「SOSってそもそもなんの略だったっけ....なんかどこかで聞いたことがある気が...」
HIの目頭が熱くなる。必死に何かを考える時、いつもHIは決まったポーズをする。
手をグーにしてその親指と人差し指を顎の下に当てる。なぜかはわからないがこうやっている時が一番集中できる。
HIは15年前のある日、お父さんと過ごしたある思い出を思い出した。
〜15年前〜
HIは昔お父さんとある島にサバイバルに行ったことがあった。これはHIがまだ4つのときだ。
今はアメリカに出張に行ってしまっているため、滅多に会うことはないが、昔は休日によくHIと遊んでくれる理想の父親だった。
「お父さん!こんな大きな魚つれた!」
「すごいな、HI。俺は全然釣れねえや。嫌われてるのかもな😭」
「そんなことないよ!keep trying だよお父さん」
「お、いい英単語知ってるじゃねえかHI。どこで覚えたんだ?」
「この前アニメで言ってた。どんな事も、たとえばかにされても挑戦し続けることが大切だって。」
「あぁ。いい言葉だ。俺にもめっちゃ刺さるよ。そういえばHI、この世で一番意味の多い英単語ってなんだと思う?」
「えいたんご? 英語ぜんぜんわかんないけど。fu◯kくらいしか」
「お、おう。お前その単語はあまり俺以外には使わない方がいいぞ...。いや俺にも使うな。
そうだな。SOSって知ってるか?」
「うん。しまでひとりぼっちになったひとがすなはまにかくやつ。」
「まぁ、おおむね正解だ。SOSっていうのは何か異常事態を伝えるために長年使われてきた。意味としてはSave our soulsやSave our shipなんかと言われてるが、これは全部俗説だ。意味が決まってない分、ある諜報機関ではその意味を独自に設定し、それを暗号として使うことがあるらしい。」
「そうなんだ。じゃあ僕とパパの二人のでの意味を決めようよ」
「いいな。じゃあ....」
HIの父親は砂浜に大きくSOSを書き始めた。
どこで拾ったのかわからないとても大きな木の棒で、砂浜という白いキャンパスに力強くゆっくりと。
「おれらはピンチすらもチャンスにかえる。
........っていう意味にしよう。」
「うん!」
この時父がなんて言ったかは鮮明には思い出せなかった。
でもこの砂浜での思い出は忘れることなく、HIの頭にしっかりと残っていた。
そしてこの先も数少ない父親との思い出として残りつづけるだろう。
〜今に戻る〜
「そうや、たしかSOSの本来の意味はSave our soulsやSave our shipという意味って聞いたことがあるが、確かどれも俗説。特に本来の意味はなかったはずや。」
HIは昔父親が言っていたことをふと思い出した。
「意味がないということは、その使い方次第で色々な意味に置き換えることもできるってたしか昔お父さんが言ってた。
そうなるとこれは...何か意味があるはずや。次に進むための何か意味が。」
HIはその場で立ちすくみ、小さな脳みそをフル回転させて考えた。
「そうか。わかったかも。」
HIはそういうとおもむろに、文字盤に手を伸ばし、(Ƨ)の文字を本の形に直した。
ガチャッ
大きな音と共に目の前の壁に亀裂が入り、地下に続く階段が現れた。
「switch(back) opposite Ƨ 反対になっているsを戻せという意味やな。日頃からポケモンで思考能力は鍛えてあるからな。俺にとっては簡単や」
HIは謎が解けた自分を自慢げに思った。
階段は光も灯ってないため真っ暗で、3、4段ほどしか先が見えない。
「俺にはこれがあるからな。まじで便利やなぁ俺の作品は..」
HIのバッジにはライトの機能も搭載されているため足元を照らし安全に階段を降りることができた。
ライトで階段を照らしてみても終わりは見えず、HIはとりあえずこのまま階段を進んでいくことにした。
しばらく階段を降っていくと
大きな広間のような空間に着いた。
(ゴオオォッ)
そこでは奇妙な機械音が響き渡りHIの恐怖感を更にあおいだ。
「なんなんだここは。なぜ外務省の中にこんな施設が?どうなってるんや。」
HIは動揺しながらも広間を足元を照らしながら慎重に前に進んでいく。
すると少し進んだところである男たちの話し声が聞こえた。
「お前も残念だったな、こんなところに連れてこられて。すぐ父親に会わせてやるよ。」
「......」
「お前のその病気はなったが人生の終わり。次のリーダーを生み出すために命を捨てることになる。感謝しろ。お前みたいな無能が無能なままで終わらず、次の世代への糧になるんだからな。ハハハ」
「部長。転送装置。そろそろ準備ができました。」
「よくやった。お前みたいに可愛いやつをあっちに飛ばすことは少し痛まれるがこれも仕事だ。この世の中を作るためにとても大事なな、ハハハッ」
「ちっ、どうなってやがる。」
HIの目の前にはあの時の女の子と男が二人。その前には転送装置と呼ばれるとても大きな機械があった。
転送装置は大きなカプセルのような形をしており、特殊な仕組みでどこかに送ることができる瞬間移動装置のように見えた。
周りの音が大きなことと、彼ら二人が目の前の彼女に集中しすぎている事もあり、HIの存在には全く気付いてないように見えた。
「よくわからんが、あそこにあの子が入れられ、あの二人にボタンを押された瞬間に俺らのミッションが終わるって言った感じだろう。
幸い敵は二人や、まだなんとかなりそうや。でもどうする。封筒を今すぐ呼んで2vs2をしかけに行くべきなんか?....」
HIはとりあえず近づくために前に出た。
距離として約10メートル。
HIは広間に雑にたくさん捨てられている段ボールの裏から男二人と彼女の様子をみた。
(プスゥゥン.....)
「ん?音が小さくなっていってるぞ....」
「部長。すいません、ちょっと調子が悪いみたいです今すぐ修理しますので少々お待ちを。」
「ったく。何やってんだお前。早く修理しろや新人が。全く使えねぇな...」
「すいやせん....」
「なぜかトラブってるみたいや...これはチャンス。なんとかして彼女を奪還して封筒と一緒に逃げなくては。」
(トーン トン トーン トン...)
「ん。これは...」
HIは彼女の方を見る。
するとHIは彼女と目があった。
彼女は今にも壊れてしまいそうなくらい恐怖に怯える顔をしているのが遠くからでもよく感じ取れた。目から涙を堪えるあまり、顔に力がこもりひどくこわばった顔をしていた。
彼女は地面を叩きながら何かを伝えているように見えた。
「これは、、モールス信号や。昔お父さんからなぜか覚えておけと言われたことがあってなんとなくわかる。」
(トン トーン トントン....)
「これは、ニ ゲ テ。いやいやいや、俺がこの場から逃げるわけないやろ。諦めんな。」
HIはモールス音を返した。
(トン トーントントン....
ア キ ラ メ ル ナ)
「とりあえず封筒を呼ぼう。えーっと。まって暗号って何回やったっけ....。たしか、ピンチの時に早く助けにこいってやつと、来なくてもいいから逃げろの2個作ったよな。やべえ、どっちだ。あいつのことだから、後者をやっちまったら絶対逃げるぞ誓って。」
HIは時間もなかったため、曖昧な記憶の中とりあえずバッジを取り出し、一回音を鳴らした。
「あぁ。違かったら終わりや。自分で作ったのにこんな時に忘れるとは....」
「準備できました。すいやせん。いつでも送れます。」
「モタモタしやがって新人....よっし、転送を2分後に設定しろ。そしてこいつをぶちこむぞ。」
「了解。2分後転送準備。」
彼女は大きなカプセルのなかに強引に入れられた。
大きな音とともに機械に2分のタイマーが現れ時間を刻み始めた。
「チッ....あと2分で勝負が決まる。せめてまだこの場所が明るかったら策はあるんだが....。」
(残り 1分50秒です)
機械のナレーション音が辺りに響き渡る。
(残り1分30秒です)
「ハハハ...!!お前ももう終わりやな。向こうでお父さんと会えるといいな嬢ちゃん。まぁ無理かハハハ!」
「......」
(残り1分です エネルギー放出体制に移行します。)
「くっそ....ここまでなのか!?封筒は何してやがる。」
(パッ)
その瞬間辺り一面に光が灯った。
「な、なんだ!?誰だライトをつけたのは!?」
「え、これ押しちゃやばかったやつだった?ちょっと待ってやり直させてwww」
「なんだテメェ?何者だ。侵入者か!?」
「侵入者?何言ってやがる。友達を助けに来たんだよ。名前は封筒。無論DTさ。
おい、HIそんなところでコソコソ何やってんだ?早く助けて逃げるぞ。」
HIは封筒の考えなしの行動に突っ込むこともなかった。彼がこの状況を一つ前に動かしたことには変わりがなかったからだ。
「おっしゃぁぁ!!forever pudding反撃開始や!!」
「そのチーム名まだ覚えてたんか!おおお!!!」
(残り 30秒。 転送 準備)
END
(あとがき)
今回もここまで読んでくれた人たちありがとうございます!
ここからさらに物語が動いていくのでぜひお楽しみに。
伏線とか結構入れてるつもりだけど多分俺の書き方悪くて伝わらなそう。
そうとうしっかり読めてないと、いろいろ分からないことあると思うけどここからこの世界観の設定や仕組みが分かってくるのであきらめずに読んでほしい泣。
(結構頑張って書いたから誰か一人くらいには伝わってほしい)
でも全然流し読みでもうれしいです。
そろそろポケモンの最新作が発売ということで、ぼくも剣盾であと一回は結果を残して次の作品にいけたらなとひそかに思ってます。
夏が近づくにつれて暑くなってきているので、体調にはお互い気を付けて過ごしましょう!!
ではまた来週~!
HIDT forever 第13話 「HIの合図と封筒の決断」
HIDT forever 13話
「HIの合図と封筒の決断」
「おい、これ本当に動くんだろうな?HI」
封筒はHI自作の電動スケートボードを目の前に、トントンと壊れないかわかりやすく叩いて確認をした。
「石橋を叩いて渡るってか?封筒。俺が不良品を作ったことなんか今に一度あったかよ?」
「石橋というか、そもそもクソほどあぶねえものを壊れないか試してるんや。同じにすんな!お前この前作った謎のメガネ一回使っただけでぶっ壊れたじゃねえか!全然信頼してないぞ!俺は!」
「俺の発明品は悪用されないために一回の使い切りにしてるんや。うん、悪用されないために...」
「絶対うまく作れないだけじ...」
「うるせぇ!じゃあ封筒、お前は走っていけ、つべこべいう間にあの子は離れていってんだぞ!」
二人がそうこう口論しているうちに彼女につけたGPSは移動を続け、もう二人がいる地点から10キロほど離れていることに気づいた。
「すまんなHI。お前を信頼できなかった俺が悪かった。行くぞ、あの子を助けるため、いや俺らの未来のために!」
「あんまカッコいいこというなや、主人公は俺やぞ。勘違いすんな」
「なんだよ主人公って!小説の中でもあるまいし...」
「ほら、行くぞ。乗ったら右足で思いっきりボードの端にあるその☠ボタンを踏むんや。その間は最高60キロまでスピードが出る。たしか。」
「すごいなHI!初めは慣れるまでスピードださないようにしないとな。ん、これを踏めばいいんか、ほいっと。ンンッッ!」
その瞬間とんでもないスピードで封筒のスケートボードは大通りを爆走していった。
「ありゃ、スピード出しすぎや。どんだけ張り切ってるんや。もっとゆっくり踏まないとな。ほらっ、ンンッッ」
ゆっくり踏んだはずのHIは封筒の倍くらいのスピードでその跡を追った。
「お、おぃいいHIぃぃ!早すぎだろぉお!これぇぇえ!」
「なんやってえぇぇ?風が強すぎて全然聞こえないぞぉぉお」
「このスピードならぁああ、日本の反対のブラジルまで吹っ飛んでいきそうな感じだぞおぉぉお?」
「あーん??誰かブラジル人だとぉお?封筒しばくぞぉぉおー?」
「そんなこと言ってねぇよ何言ってんだぁぁ」
あまりの速さに周りの風の音がひどく、二人はまともに会話をすることができていなかった。
しかし、HI自慢のスケボーはなぜか自動操縦システムが搭載されていて(本人は入れた覚えがない)、GPSの方向へ自動で向かうようになっていた。
彼女につけたGPSはそのまましばらく街を横断し、ある場所で止まったのをHIは手元の探索用時計を見て確認した。
「こっここは....」
を指し示していたのだ。
その後彼女たちから10分ほど遅れて、HIと封筒は現地に到着した。
「おい、まじでここなのか?HI」
「あぁ、間違いねぇ。ここだ。」
二人の前にあったのは国の中枢機関の一つであり、主に国同士の外交を司る省庁、外務省だった。目の前にはとてつもなく大きな鉄の扉があり、とてもじゃないけど鍵なしでは中に入ることすら許されないようだった。
「おい、これはとうとうやばいな。なんで国のでけえ機関にあいつが拉致されるんだ。封筒、どう思うよ。」
「え、あいつのお父さんって外務省勤務やろ。普通に妹に話があったんちゃうか。」
「おまえはバカなのか?な訳ないやろ。なんであんなところで車にぶち込んで誘拐する必要があるんだよ...」
「え、ってことはまさかあいつの父親が黒幕?」
「いや、そこまで決めつけるのはまだ早いが、その可能性は少しありそうだな。」
HIと封筒は目の前で起きている状況をいまいち把握しきれてはいない。でも彼らは彼女の身に何か危険なことが起きている、少なくとも父親に会うといった甘い理由ではないことを直感で感じた。
「おい、でもどうするよHI。あの子はここにいるのは確実だとして...正面から入って助けるとかもはや無理だろこれ。」
「そうやな、まずこんなクソでかい建物のどこにいるのかよくわからんからな....。でもなんだろう、何か嫌な予感がするんや。お前もわかるやろ。」
「あ、あぁ。俺らがここで逃げたら全てが終わる気がする。俺の勘がそう言ってる。dtの繊細な勘ってやつや。」
「間違いねぇ。僕に一つ案がある。乗ってくれるか?封筒。」
「え、えぇ...今度は大丈夫なんだろうな...。前回はまだよかったけどよ、ここで見捨てられたら俺確実に捕まるし、終わるぞ。」
「すまんあの時はちょっとふざけたわ。今回は大丈夫や。バレずに突入できる完璧な考えがある。」
「頼んだぞHI。」
封筒はHIの作戦を受け入れるのに対し始めかなり抵抗したが、時間もないということもあり渋々受け入れ、作戦の準備を開始した。
一刻を争うという状況なこともあり、彼ら二人には今にもない緊張感が走った。
ー数分後ー
「ニホンゴワカリマシェーン!」
「おいおい、エンベロップ。ここは外務省だぞ。変なことすんなよな!アハハァ!エンベロップ ピース!✌︎('ω'✌︎ ) (カシャッ)アハハァ!」
封筒は金髪のウィッグにHI特製の高い鼻とサングラスをかけ、明らかに怪しい外人のコスプレをした。
一方HIは青く鮮やかなアロハシャツに一眼レフを首にかけ、さらにサングラスを頭にかけ、いかにもハワイから海外の友達を連れてきた頭のおかしい日本人のような変装をして、外務省の重い扉の目の前に立った。
「お前嘘だろ。これうまくいくのかよHI」
「まぁ、見てろって。どっかのアニメでやってたんや。うまく行くやろ。」
「まぁなら大丈夫か...」
二人はアニメの影響を受けやすい。
「人生のバイブルはアニメにあり!」という謎のスローガンが彼らのモットーにあり、アニメの通りにやればうまく行くという根拠のない危なすぎる思想を持っていた。
しばらくすると、職員と思われる人が当然ながらかなり怪しそうな顔をして二人に向かってくるのが見えた。
「ちょっと君たち。そこで何してるのかな。ここは関係者以外立ち入り禁止だよ」
「アッ!youワ リアルジャパニーズ デスカ!?oh my god!! HI!ジャパンデワ アイサツデ ハグヲシテ イインデスカ?!」
「おいおいエンベロップ落ち着けよん。ハグのカルチャーはねぇんだぜジャパンでは。あ、すいません。失敬失敬。最近日本に帰ってきたもんで、友達のエンベロップに日本の案内をしてやってたんですよ。」
「は、はぁ。それでなんのようで?」
係の人はかなり呆れた顔を見せた。
しかし、係の人は割と優しそうな顔をしており、かなり油断をしてそうだから戦えば俺にもやれるんじゃね?と余計なことをHIは思ったが、一旦落ち着いて計画を続行した。
「いや、それがねぇ。エンベロップアホだからヨォ!パスポートを落としちまったみたいなんだヨォ!ここにくればなんか手がかりが掴めると思ってナァ!チェケラァ!」
「パスポート紛失のお手続きですね。ここは外務省ですのでそう言ったものは各国の大使館で手続きを行うようになってます。お帰りください。」
「そう、固いこと言うなよアンちゃん!固いのはあそこだけしとけよなぁ!」
「HI! ソレガジャパーニーズジョーク ッテヤツ デスカ!?」
「そうだぜ!エンベロップ!よくわかったな!アハハッ!」
「あのー。もうそろそろ帰ってもらえますか?僕も仕事がありますので。」
「大使館の場所とかわからんし!パソコンもケータイもないから調べられねぇんだよ!せめて場所だけでも教えてやってくれねぇか...!HIからのお願いダYO!」
係員の人は二人のだるすぎるノリに終始ひいていたが、早めに相談に乗り次の仕事に行ったほうがいいと思ったこともあり彼らに中に入るように進めた。
「わかりました。じゃあ地図と場所は言うので中に入ってください。まじで終わったら早く帰ってくださいね。」
「それでこそジャパニーズだぜ!な!エンベロップ!」
「ヤッパリ ニホンジンワ ヤサシイネェ!」
なぜこの芝居が上手く行ったのかは二人が一番理解できなかったが、とりあえず第一関門である中に侵入することには成功し、二人は目を合わせ安堵の表情を浮かべた。
ー遡ること10分前ー
「いいか、この作戦で中に入ったら...」
「おい、HIうそだろ。お前こんな意味わからん謎の芝居で本当に上手く行くと思ってんのか、頭腐ったか?」
「いやいや、アニメでは上手く言ってたからな。まぁとりあえずお前は黙って従え、時間がない。」
「は、はぁ...」
封筒はかなり不満そうだったが、時間のこともあり、HIの要求を飲んだ。
「それで中に入ったら俺らは別行動だ。いいな?お前はその雑な日本語とつまらないトークでなるべく時間を稼げ、その間俺はトイレに行くとでも言って一人になって中を捜索する。」
「わかった。合図はどうする?稼げても10分くらいだぞ。」
「これを使え。」
そういうと、HIは手元から時計とバッジを取り出した。
「このバッジは俺と通信できるようになってる。ことが全て終わり、救出できたらこのバッジを3回叩く。そしたら、お前は外に出ろ。」
「わかった。この時計は?」
「これは時計形麻酔銃や。まぁなんかいい感じにやばくなったら使え。」
「お、おう。もしもの時はどうするんだ?」
「俺にもしものことが起きて、お前の助けを必要とする時、このバッジを2回叩く。いいな?でも、助けがいるってなってもお前がきても無駄な時はバッジを1回叩くからその時はお前だけでも逃げろ。」
「HI、お前はどうするんだそのとき。」
「死ぬかもな。お前とはもう会えないかもしれんな。まぁそんな時のことは考えるな。お前は目の前のミッションに集中しろ。」
「わかった....。絶対死ぬなよHI。気をつけろよな。相手は何人かわからないし素性もよくわからん。俺らで絶対一緒に帰るぞ。なんかあったら俺の命が最優先だけどなw」
「お、おうよ...」
ーーそして、今に戻るーー
「では、ここにかけてお待ちください。今地図を持ってきて参りますので。」
「さーーせん!ちょっとさっきジャポンの無料の水ガブ飲みしすぎてトイレ行きたくて...。ちょっと借りてもいいですカァ?」
「はぁ、わかりました。そこの角を左でまっすぐ行ったら右手にあります。」
「しぇーしぇー!ニーハオ!フウトウ、、後は頼んだぞ。」
「オウヨbrother!」
一見なんの意味もないこの彼らの別れ際の言葉に、二人は互いに大きな意志を感じたのだった。
ーこの作戦が封筒の場合ー
「HI...頼むぞ。まぁとりあえず俺にできることはあいつからの合図を待つ間、なるべく時間を稼ぐことだけや。」
「お待たせしました。これが東京都の地図です」
「ホォ!コレがジャポンのチズデスカ!スバラシイデスッ!」
「はい。そうですね。それで今いるのが外務省なので、ここですね。」
係員は指を刺し、赤のボールペンでぐるぐると印をつけた。
「それで、あなたはどこの国からでしたっけ?」
「ドコノクニ!?ハワイダヨ ニイサン!ハワイゴ オシエテアゲルヨ!?ニイサン!?」
「ハワイ語って...まぁ一つくらい聞きましょうか。ハワイ語とやらを」
「hoaloha...ホアロハ!」
「ホアロハ??アロハとはよく聞きますが、どう言った意味なんですか?」
「hoaワ ナカマ ダヨ! alohaは愛ダヨ!タイセツナナカマ イミスルヨ!」
「へぇー。イイ言葉ですね。まぁそんなことは置いといて、アメリカの大使館だと....」
この後も、封筒のどこから仕入れたのかわからない謎のハワイネタで、時間を稼ぎHIからの合図をまだかまだかと待った。
「それにしても相方の彼?遅くないですか?彼もアホそうだったし、迷子になったのでしょうか。私が見に行ってきますよ。」
「イヤ!マイフレンド ミチ マヨワナイヨ! キット スグ カエルヨ!」
「そうですか、でももう10分ほど経ちましたので、私が行きますよ。」
ー(HIそろそろ限界や...早くしてくれ...)ー
トンッ
「!?」
封筒の胸ポケットに入れてあるHIの通信機からまず一回音が聞こえた。
ー(おい、一回聞こえたぞ。はやく後二回ならしてくれ頼む。)ー
しかし、いくら待っても通信機からでた合図は一回だけだった。
ー(嘘だろ。HI。嘘だと言ってくれよ....)ー
「どうしました?顔色が悪いですが。あなたもトイレですか?」
「トイレ?そうだな、、。このいらない正義感もすべてトイレに流せたら、どれだけ平和で退屈な日常が俺に待っていたんだろうな。」
「なにを言ってるんですか?」
「HI すまん 許せ」
封筒はこの一言を最後に、目の前の男を思いっきり殴り飛ばし、建物の奥へと消えていったのだった。
ー完ー
ここまで飽きずに読み切ってくれているあーちゃんとルセリア君とソラ君にはまず感謝を伝えたい!!
最後まで何とか終わらせたいと思いますので、最後まで二人を見届けましょう!
他にもぜひ読んでくれてる人がいたら感想でも何でもいいからぜひ教えてね。
話がかなり進んできて作るのも大変になってきてますが、最後まで名前を借りている協力者のHIと封筒にはリスペクト最大限払ってがんばります(笑)
あしたは論文の発表もあるので頑張ります!
ではまた来週!!