HIDT forever 第3話「運命の人」

HIDT forever 3

「運命の人」

 

 

 

「お兄ちゃん!朝だよ!」

 

妹の甲高い声が、今日も僕の部屋に響き渡る。

昨日の徹夜がなかったら最高の目覚めだ。

「くだくだしないで!学校遅れちゃうよ!HIにぃ(hi兄)!」

「わかってるわかってる...。今日も起こしてくれてありがとな。」

 

そっと妹の頭を撫で、酔っ払ったような千鳥足で洗面台に向かう。

「昨日はずっとポケモンでねれんかったからな。んーー。構築どうするべきか。」

HIは昨日、直近に備えている大会に備えてポケモンの調整をしていた。そのため、部屋には大量のエナジードリンクの缶と、致した時のティッシュが部屋に乱雑に置かれていた。

「ちっ、妹に見られたら教育にわるいか。」

そっとティッシュと散らばった缶を片付ける。

 

「行ってきます。」

いつも通りの道。いつも通りの景色。

学校生活3日目で、流石に近くの店や道にも慣れてきた。

家から出て10分くらい、国道を歩いていると、裏地に小さな書店が見えた。

 

「あんなところに書店か。帰りに寄ってみるか」

ハイは昔から本を読むのが好きで、上京する前に関西に住んでいた頃、よく一人で図書館に立ち寄り、同人誌やポケモン図鑑を読んでいた。

 

学校につき、席に着くと。昨日の疲れが一気にハイに襲いかかってきた。

目の焦点が定まらず、授業の黒板の文字も全て霞んで見える。

「おい、HI大丈夫か?顔色悪いぞ。」

隣の席の封筒が気になって声をかけてきた。

 

「すまん、昨日ポケモンで色々あってな」

「わかる、最近はランクマ自体に面白みが見出せない。」

「いや、ランクマは楽しいねんけどな....

 

ハイは疲れからかこれ以上封筒に対して言葉が出なかった。

たしかにランクマッチには常に運が付き纏うし、やっているとストレスしか感じない。

でも僕らはやり続ける。それに理由が見出せなくても、それは人間の本能。つまりは人間の3第欲求とは別に4つ目の欲。多分それに値するのだろう。

 

4限が終わり、ハイは教室の外の空気を吸おうと、教室を出る。

朝の時と変わらず、目の焦点は定まらず、力がうまく足に伝わらない。

「まずい......

そしてハイはその場に倒れた。

 

 

 

ー保健室ー

「おーーーい。ハイ大丈夫か?

封筒の声が聞こえる。

最悪の目覚めだ。今朝みたいに可愛い妹に起こしてもらいたいものだ。

「封筒か、助けてくれたんだありがとう。」

「いや、俺が助けたわけじゃなくて、俺はただ保健委員として面倒を見ろってせんせーに言われただけだよ。」

「ん?じゃあ誰が俺のことを助けたんだ?

「え?お前が知ってるんじゃないんか?

 

全く身に覚えがない、あの時倒れて、気づいたらこのベットに横たわっていた。

「そういえばここに来る前に黒髪の女の子が保健室から出てきたような。」

この保健室は校舎とは少し隔離された別棟にある。

そのため相当大事な用がない限りは、あまり来ることはない。

ましては女の子が一人で暇つぶしに来るような場所ではない。

 

「その子も俺みたいに徹夜明けなんかな。まぁいいや、ありがとな。」

「困った時はお互い様な👍

人を助けて気持ちがいいのだろう。

封筒の目は普段よりも輝いていてなんだか可愛く思えた。

 

「封筒、放課後空いてるか?行きたい店があってさ。」

「おっ、今日は全然空いてるぞ!」

「そ、そうか。ありがとう」

そう言い残すと、ハイはゆっくりと目を閉じた。同時に、封筒は疲れからか、くろちゃんもびっくりのいびきをかいて寝ているHIに若干の心配を抱いた。

「相当疲れが溜まってたんやな」

封筒はゆっくりと保健室のドアを閉め、その場を立ち去った。

そうしてHIは5.6時間目は大事をとって保健室で過ごした。

 

 

ー放課後ー

放課後、封筒が保健室に向かいにきてくれた。

そうして僕たちは今日の登校中に気になっていた書店に向かうことにした。

 

「ここだよ。登校中に気になってて行きたかったんだよね。」

「おお....なんでこんな目立たないところに書店があるんだ。」

大通りを右に曲がると細い道があり、そこの突き当たりにあるその書店には、Serenaとかかれた看板が立てかけられていた。

 

中に入ると意外にもしっかりとした作りになっていて。向かって左側は木のカウンターとカフェを飲むスペースがあり、右手にたくさんの本が並んでいた。

 

僕はカウンターの一番左の席に腰掛けて、ブラックコーヒー。封筒はなぜかリンゴジュースを頼んだ。

 

カランッ

「いらっしゃいませ〜」

誰かが店に入る音が聞こえた。

僕ら以外客がいないような小さな店だ。

こんなところに来る物好きも僕ら以外にいるもんだな。ハイはそう感じた。

 

「ちょっと、隣いいかな?

その声は高く透き通っていて、とても耳障りのいい声だった。

「いいですよwでへっ....w

封筒の何かのセンサーに反応したのか、とても気持ち悪い反応を示している。

 

彼女は黒い帽子を深く被り、黒いサングラスをしているため、顔がうまく判別できない。

艶のある肌に、すらっとした体型から、彼女がとても美しいということは、女経験のない僕でもわかった。

 

「君は運命ってあると思う?例えば恋愛なら運命の人とか!

それは僕に対しての問いだった。

僕はいきなり話しかけてきて、初対面でそんなことを言う彼女にとても困惑した。

「僕に聞いてます?

「そうよ。あなたしかいないじゃない。」

たしかに。隣にいるのは変態の封筒。

到底恋愛の話ができる相手ではない。聞く相手は僕くらいしかいないか。

 

「そうですね。運命なんてないんじゃないんですか。少なからず恋愛は、、。」

僕の返答は適当だった。

短い僕の恋愛経験から計算すると、運命なんてものがあるなら、そろそろ僕の目の前に来て欲しいと思ったからだ。

 

「そうなんだ。私は運命ってあると思うの。」

彼女は小さな声でそう呟いた。

「運命ってね、小さくて恥ずかしがり屋なの。だから主観的にみるとなかなか気づけないものなの。君はそんな恥ずかしがり屋で小さな運命すらも信じて、手にできる?時には運命を敵に回して戦う覚悟はある?

運命を掴める人、掴めない人の違いって、常に人生を全力で生きている人。周りのせいにせずに自分と真剣に向き合っている人。私はそういう人だと思うな.....運命はいつも君の隣にいるし、君に試練や愛を与えるはずだよ

変な話してごめんね初対面なのに!じゃあ!」

 

彼女はその言葉を残し足早にその場を後にした。

彼女の声はとても真剣で、最後のほうはかすれていた。

それは単に喉が痛かったわけではない。

涙に包まれた、そんな言葉に思えた。

 

HIは今まで生きてきた16年、運命という言葉を意識したことも考えたこともなかった。しかし実際世の中には様々な運命がある。いい運命もあれば、もちろん悪い運命もあり、僕ら人間に容赦なく襲い掛かってくる。恋愛でいうなら運命の人。それはビジネス、親友にも同様に使える言葉であろう。ほかにも、とある病気になり死期が迫る運命。誘拐され脱出を試みる運命。こんな運命は誰もが逆らいたくなるものだろう。

そんなときHIは昔父親が話していた言葉を思い出した。

 

「生きてりゃ悪い運命もあり、いい運命もある。いい運命を逃すな、必ず味方につけられるはずや。悪い運命とは裸で戦おうとするな、好機から手にしたその武器で戦ってみぃ?必ず打ち勝ち、かけがえのない成果を上げられる。悪い運命も打ち勝ちゃおまえのものや。」

 

父親の真意はよくわからない。

今のHIには大きすぎる。そのように感じた。