HIDT Forever 17話「終わりと始まり」
hidt forever 17話
「終わりと始まり」
外務省での一件が終わり、謎の生徒会長雪華から妹のこと、欠乏症のこと、世界のことを聞いたHIと封筒はひとまず事件の際に助けになったマスターに感謝を言おうと、「Serena」に向かった。
「HI。俺らの難事はここから始まったよな。今となっちゃ懐かしいことだが。」
「いやいや、俺ら入学してからまだあんまり経ってないだろ。逆にこんな短期間でここまで思い入れができるって、どれだけ濃い経験をさせられてんだ。」
HIは道の端に孤独そうに落ちている石を思いっきり蹴り飛ばした。
HIから思い切り蹴られた石はコロコロと転がり、まるで石に意志が有るかのように自由自在に転がり始めた。
「HI、めっちゃ飛ばしたなお前。いつからそんなにサッカー上手くなったんや。この前の授業中なんか立ちながら寝てたくせに。」
「うるせぇ、適当に蹴っただけや。」
蹴られた石はそのまま奥の電柱にぶつかり大きな音を立てた。
その拍子に電柱の裏から驚いた少女がふと現れた。
「お、音...?なにやってんや、帰っておけって言ったやんか。」
「しん..ぱい...で..」
今にも泣きそうな声で音はHIに想いをぶつけた。
「おいおい、HI。お前、女の子を泣かせちゃいけねぇじゃねえか。今思えば、音ちゃんを一人で帰らせるなんて俺は男として失敗だった...すまんな..!!」
封筒は音に対してどのような感情を持っているのだろうか、恋愛感情、はたまた妹のような存在?そもそも音の方が年上のため、どれも当てはまらないような気もする。封筒の本心はどこまでがネタでどこまでが本気なのか今だによくわからない。
「それもそうやな。音。とりあえず僕らはSerenaに向かう。あの時助けてもらったマスターもそこにいるはずや、挨拶しておこうと思ってたしちょうどいいんやないか?一緒に行こう。」
「うん!」
音は嬉しそうにHIと封筒の間に入り込んできた。
HI達の一つ年上とは考えられないほど小さな体の女の子を連れるHIたちは周りから見れば、死ぬほど訳ありの兄弟とその妹のようにも見えるだろうか。それでも今この瞬間になにか、感じたことのない新鮮な幸せを感じたのだった。
3人はたわいもない話をしながらしばらく歩いていくと、いつも通りの道の奥にSerenaの看板が見えた。
HIはノックをし、ドアを開ける。
それに続いて、少し体を丸めながら音と、完全にお兄ちゃん気分で鼻息を立てている封筒が続く。
「マスター!いるかぁ!」
HIは大きな声で叫ぶと、奥の本棚から黒いtシャツに加え、腰に茶色のエプロンをかけたサラッとした男性が現れた。
「HIくんか。よくきたね。それと封筒君も。
後ろの子はあの時の音ちゃんかな?」
音は封筒の後ろから軽く会釈をして感謝を示した。
「マスター。あのあと色々あってな。俺らの学校の生徒会長と話してな....」
「あぁ、あの学校の生徒会か、多少は情報を持っているがよくわからなかったからな。詳しく聞かせてくれHI君。」
HIはマスターにあの事件の後のこと。とりわけ生徒会のこと、この世界の秘密、そして、能力を手に入れるためにHIは薬を飲んだことを話した。
20分近くマスターはHIの顔から一度も目線をそらすことなく、真剣に話を聞いてくれた。そういったところを見るとやはりマスターの大人っぽさ、頼りがいを感じることが出来た。
「そうかHI君。君は飲んだのか薬を」
マスターは思ったよりも冷静な反応をした。
HIはマスターにいうと怒られるのではないかと思っていた節があったので最初は不安に思っていたが、少し安心した。
「マスター。思ったよりも冷静ですね。この薬を飲むことに対してマスターは抵抗を示すと思っていたのに。どうもミスったら欠乏症に罹患するようですしね。」
「そうだな、何の思いもなしに飲んでいたら、まぁ救いようがないアホだと思っていたよ私も。でも君はこの件については関係が大いにあるからね。君の覚悟もよくわかってるいるし。」
「本当にそれだけですか?」
「何が言いたいんだねHIくん。」
「マスターは僕らに何か隠しているような気がするんです。例えば僕の父と前の母のこととか。」
「そうか、そう思うのはなぜかな?」
「まぁこれと言って理由はないですけど...」
マスターはコーヒーを人数分淹れて、HI達の目の前に出した。
「そうか。まぁ時期にわかるだろう。すぐに来るはずさ、君の数奇な運命と、今までのことが繋がる時がね。」
「そうですか」
HIは難しい顔をしながらコーヒーを一気に飲み干した。あまりに話に集中しすぎたせいか、砂糖を入れ忘れたようでHIのコーヒーはまさにブラックでとても苦く、その場でむせてしまった。
「ゴホッ、ゴボッ」
「おいおい、大丈夫かよHI。」
隣で封筒は、砂糖の包みを10個以上も開封していて、これでもかというほどコーヒーにぶち込んでいた。
「お前どんだけ甘党なんや。そんな苦いの嫌いなら最初からコーヒー飲むなや」
「恋も人生も、何もしなきゃ最初の死にほど苦いコーヒーと同じくまさに苦汁(渋)を飲むことになるんだぞ?苦い時こそ適度に砂糖を混ぜて自分の好きなちょうどいい甘さに調節する。何事も同じだろHI?何もせずに突っ込んでいって振られるモテない俺は卒業さ。」
「深そうであんま深くないこと言うなよ封筒」
「フフっ..」
なぜか音だけは二人の隣でくすくすと笑っていた。封筒のイキり発言に笑みを浮かべる優しさを持っているのはこの世界に音を除いてはいないようにも感じた。
「そうだHI君。君たちはこれからどうするかわからんが、確実に世界政府は君に目をつけているよ。普通の生活を送れる保証はどこにもないだろう。」
マスターは自分で入れたコーヒーを一気に飲み干した。そして、新しくコーヒー豆をすりはじめた。
「さてと、これからの話だが・・・・。君たちには仲間が必要だ。どんな時も同じ境遇の仲間がいた方が過ごしやすいし、助け合えるだろう?」
「そんな仲間どこで手に入れるんや。俺らにはもう封筒と音がいるから大丈夫や。」
「まぁ彼、彼女も十分に強い人たちであることは先の一件で十分見せてもらったよ。それでも相手は世界政府だ、多いに越したことはないだろう。」
「それじゃあどこにいけばいいんや?」
「そうだね。君たちはもうそのヒントを胸ポケットにしまっているはずだよ」
「胸ポケット?」
HIは自分の胸ポケットに手を入れた。
そこには先程、雪華からもらった彼女の電話番号が書かれていた。
「いやいや、あいつの手を借りるのは嫌だ...妹をあんな目に合わせたやつだぞ一応」
「そうじゃない。その裏さ」
「裏?」
HIはその裏を開くと、本校生徒会の詳細と、会合が行われる場所と時間が書かれていた。
「今考えてみると、ここの学校って生徒会室なんてあったっけ?HI?」
「ここまで訳ありとなると、生徒会も表立って行動できないと言うわけや。毎回のように場所を変えて秘密裏に会っていると言うわけや。」
「そう言うことだ。君たちはそこに行くといい。きっといい仲間が見つかるはずさ」
そこには2日後にとある建物の五階に来るようにと書かれていた。
「それじゃあ、検討を祈るよHI君達。それと音さんもこいつらをよろしく頼むよ。」
「うん...」
音は大きく頷いて、自分の分のコーヒーを飲み干した。
少し熱かったようで、唇をすぼめ、むすっとした顔を浮かべている。
「とりあえず今日のところはここで帰ろう。音、封筒、行くぞ。次の集合は2日後やな。それまでに各自とりあえず疲れを取っておこうや。」
「別に敵地に乗り込むわけでもないんやから、そこまで気を張る必要なんてあるのか?HI?」
「人をそう簡単に信じるなよ封筒。人はすぐに裏切るぞ、常に疑いから入らないとな。」
「おまえまさか俺のこともまぁ疑ってたりするか?」
「最初は疑ってたけど、こいつ思ったよりアホだなって思ってからは、疑うだけ無駄なような気がして今は信頼してるぜ、多分。」
「なんか信頼の形に絶妙な嫌味が入っている気がするするだけどまぁいいや。相棒よろしく頼むぜ」
「おう、とりあえず帰ろう」
HIはドアを開けると、思い出したかのように後ろを向きマスターに向かって問いかけた。
「そういえば、僕の彼女は今どこにいるんだマスター」
「ああ・・・・・・・。」
マスターは急に口がつまり、周りをきょろきょろと見渡し始めた。
「マスター。彼女は元気か?それだけ教えてくれ」
「それだけは心配するなHI君。この私が何が何でも守るつもりだ。」
「そうか・・・・・。」
HIはなにかを悟ったような顔をすると、マスターに背を向けまた歩き始めた。
「まだ僕が会うには早すぎるか・・・。」
「HIどういうことだ?なんだ早すぎるって」
封筒が不思議そうな顔をしてHIに聞いた。
「いやっ、何でもない僕の話や。そんなことより帰ろう、おいしいご飯が待ってるぞ」
そして、HIと音はHIの自宅に、封筒は自分の家に向帰っていった。
時間は夜7時を回り、夕日が完全に落ち、目の前を照らすのは、街灯と騒がしい車のライトだけになった。
「HI...これ。」
音はそういうと、ポケットからミサンガを取り出した。
紫色のそのミサンガは繊細に編み込まれ、素人目でも手が込めて作られていることが一目でわかった。
「お姉ちゃんから昔...教えてもらった...ミサンガ..。」
「お、ミサンガじゃねえか、これあれやろ。切れるまで肌身離さず持っておけば願いが叶うっていうやつやな。俺にくれんのか?」
「チーム...証...信頼の...証..」
「チームの証ね。いいなそれ。ありがとう。封筒にはあげないのか?」
「もう..あげた..」
「あげたんかもう。いつものあいつだったらすぐに自慢してきて、「俺だけもらったぜー!いぇーい!」とか言ってきそうだけどな。嬉しすぎて自慢することも忘れたんかな?あいつ。」
「まぁ、ありがとうな音。これが切れた時にどんな願いが叶えられるか楽しみや。」
HIはそういうとミサンガを自分の左足の足首につけた。
音はそれを見ると嬉しそうににこやかな表所を浮かべ、自分の左足首をじっと見つめた。
終わりと始まり。まさしく毎日とは日が沈み、夜が始まり、いずれか日が昇り朝が始まる。始まりがあれば、必ずと言っていいほど終わりが来る。そんな目まぐるしい毎日に翻弄されながら歩くHIの姿は昔と比べてとても大きく強く見えた。
【1章 アモルの秘密編 完】
ー後書きー
どうも。2週間以上執筆せずにこの作品を完璧になきものとしそうになった犯人のたにしです。
とりあえず一章がおわり、物語がひと段落したことはとても嬉しいです。
なかなか現実世界でも一度決めたことをやり切る!ってことは難しく、途中で飽きてやめてしまうことが多いので、17話も話を作って書き続けているの割と奇跡です。
そういえば、ワンピースの映画を見に行きました。作品を見ているときは常に鳥肌が止まらず、アニメが人に及ぼす影響は凄まじいものだと肌で実感しました。
いつかそんなものを書けるようにゆめはでかく持って頑張ります。
ではまた来週👍