HIDT Forever 15話 「Think rich, look poor.」

HIDT forever 15

 

(残り 30秒です。 転送準備に入ります。)

地下室にはアナウンス音と共にエネルギー音とも呼べそうな音が大きく響き渡る。

 

「残念だったな。ここまできたらもう終わりだ!あと30秒で何ができるって言うんだ、お前ら小童によぉ?

止められるものならやってみろよ。お前らにその力があるならな!アハハ!」

 

男は転送装置の前で高らかに笑いながら転送の時を刻一刻と待っていた。

 

「おい、新人。とっととこいつらを始末しろ。お前の初めての任務だ。しっかりとやれよな」

 

.....。」

 

 

「おいHI!どうする!お前のことだ。なんか作戦があるんじゃねえのか?」

 

「あ、あぁ。お前がライトを灯してくれたおかげでまだ策はある。よくやった」

 

カプセルのようなものは薄いガラスのような扉で表面が覆われている。

細長いカプセルの上にはチューブのようなものが繋がれており、そこから大量のエネルギーを送り、中に入っている対象物をある場所に送る仕組みのようだ。

 

「いいか、封筒。まずはあの子を助けるために、あのガラスをぶち壊す必要がある。それはわかるよな?」

 

「あ、あぁ。」

 

「あれをぶち壊したら、あとはあの子をお前が中から引き出すんだ。あの子の顔を見てみろ。かなり消耗している。自分で動くことはもう難しいだろう。」

 

「え、その役職めっちゃかっこいいやん。死ぬほど憧れてたんだけどそういうのww

 

「お前ならそう言うと思ってその役割を任したんだ。その役割をこなせばあの子は絶対お前のことを意識するだろうな....ラノベにはそう書いてあった。」

 

「おいおい、マジかよ。ついに俺も童貞卒業への一歩を踏み出せるってわけか😭

 

「まぁ全ては上手くいった後に考えろ。もう時間はない。今は全ての邪念を捨てて、一旦目の前のことに集中するんや。」

 

「おまえ、かっこよくなったな。男ながら惚れちまうぜHI。俺はお前を信じるぜ、お前も頼んだぞ」

 

「あ、あぁ。」

 

「よっし、作戦開始!

 

「おぉ!」

 

封筒の作戦開始の合図と共に、封筒は勢いよくカプセルの方へと走り出した。

彼は運動神経に特段長けているわけでもない。また、素晴らしい人間性を持ち合わせているわけでもない。彼は、ただただまっすぐなアホなのだ。

しかし、そんな彼の背中が今日はHIにとって大きく、そしてたくましく感じられた。

 

「よっし、俺の発明品。これを試す時がきたのか。」

 

HIは腰につけているベルトのボタンを押した。

ベルトからしわしわなドッジボールの球に空気が送られ、目の前には空気満タンのドッジボールが現れた。

そのボールには彼らのチーム名であるforever puddingという文字と謎のマスコットキャラクターのようなものが描かれていた。

 

さらにHIはポケットから手袋を取り出し装着し始めた。

異色の経歴をもつ母親から何かあった際にと、まさしくこの日のために教えたらもらった必殺の構え。

 

 

(4年前 球技大会予行練習にて)

 

僕の小学校では6年生の最後、各クラスで選抜されたメンバーだけでチームが結成され、地元最強の小学校を決めるコンペが開かれていた。

 

長年、僕らの学校は一位を取り続け、今回の球技大会でも優勝することが期待されていた。

 

僕は昔から運動神経が良かったわけではないが、ドッジボール特有の逃げスキルに特化していた。そのため、ボールを避けて生き残る担当としてチームに選抜された。

 

 

「おい、HI。お前は逃げるだけでいいからな。球持つなよな。弱いんだから。」

 

「う、うん。」

 

男子友達は口すっぱく毎度のように僕にボールを取らないように促してきた。

 

「逃げ回ってばっかでださいよねー。HIくん。逃げる担当って恥ずかしくないのかなぁ笑」

 

「そうよね、全く。それに比べて、新井くんってばめっちゃかっこいいわよね!ボールもたくさん取ってるし、投げるボールも速いし!

 

こういった女子のいじりは本番当日まで毎日のようにつづいた。

 

そう、本番当日までは。

 

HIは本番1週間前、家に帰ると母親にこのことを相談した。

実はHIの現在の母親は、当時の母親が行方不明になってから新しくできた母親のため今とは違う。

4年前、元の母親は「国を護る職業」というものに就いていたと昔いっていた。

 

類いまれなる頭脳とずば抜けた運動神経によって他とは一線を引かれ、圧倒的な強さを誇っていたらしい。

 

「お母さん。僕、毎回ドッジボールでバカにされるんや、逃げ回るなって。逃げる担当なんてものはいらないって。」

 

HIちゃん。男っていうのはいつか必ず闘う時が来るのよ。いくらこの国が平和主義だからと言ってもね。私は昔、女子だからという理由で色々な差別を受けた。でも、諦めずに強さを求めて毎日のように訓練をした。いつか来る、大切な人を守る時のために。」

 

「お母さん...

 

HIドッジボールで大切なことを教えよう。なぁに、お母さんに任せなさい、ドッジボールも国を守ることも同じようなものだから。

HI、あなたがドッジボールの時みたいに将来、大切な人の目の前で逃げ回ったりしないように、私はあなたに私の持つ全てを教えるわ。」

 

「母さん、頑張るよ!!

 

期間は1週間。その日から母親はたくさんのことを僕に教えてくれた。

今となっては覚えていることは少ないが、いざという時に働く僕の無自覚な力は、全てその時の母さんから譲り受けたものだろうと感じる。

 

 

「ボールは腕の力だけで投げるのではありません。しっかり足を踏み出して、体重移動させながら腰を捻り、肩に力を伝えるんだ。こんなかんじにっ!」

 

母親は一振りで目の前の木を全て跳ね飛ばした。

 

「す、すげぇ...てか、いかつい..

 

その日から二人の秘密の練習が始まった。

来る日も、来る日も、1週間毎日のように、練習に明け暮れた。

 

「明日は本番だね。HI。お母さん仕事があって直接見ることは出来ないけど、活躍を心から祈ってるよ。絶対にHIなら大丈夫、自分を信じて。」

 

1週間ありがとう!お母さんのおかげで僕頑張れそうだよ!」

 

「そうだ、HI。私がよく仕事で使っているこの手袋、特別にHIにあげよう。大事な時必ず力になるはずだよ。」

 

「うわ、カッコいい!ありがとう!お母さん!」

 

母親はその日以降、HIの目の前に現れることはなかった。

 

ー当日ー

 

その日何年にもわたる伝統ある球技大会で生まれた伝説は、以後みなの心の奥にしまわれることとなった。

 

HIの所属している小学校は決勝戦まで順調に駒を進めていった。

決勝で当たったのは前回準優勝だった隣の小学校だった。

 

案の定決勝までHIに球は回ってこなかったため、得意の避けスキルでどんどんと球を避けていった。

 

それぞれチームのエースには特別なワッペンが付けられるようになっていた。

 

諸々の打ち合いの結果、まさか、コートに残ったのはたったの二人。

相手チームにはワッペンのついたエース。名をジョニーニャという。彼は黒人留学生だったこともあり、体格、腕力共に一般的なアジア人をはるかに凌駕するものを持っており、そこが評価されてエースに選ばれていた。

 

一方、HIチームに残ったのは、筋力、頭脳は並レベル。謎の避けスキルでここまで避け続けたHIだった。

 

「ジョニーニャさんやっちまってください!

 

「最後はHIかよ...おわったわ…」

 

周りからはさまざまな野次が飛び交った。

そんな中、球はまずジョニーニャに渡った。

 

Dead or Alive?

 

ジョニーニャが必ず投げる前に言うセリフだった。

 

ALIVE!!

HI渾身の叫びだった。

 

youは男ダネェ...。必殺技でキメテアゲルヨ」

 

ジョニーニャは力を込めて大きく腕を振り上げた。

 

THE DEAD  WAY!!」

 

時速は120キロを超えるだろうか。

HIにボールが渡るためには、まずこのボールを受け止める必要があった。

 

「おぉりゃあああああ」

 

HIは全身でその球を受けた。

腕はボールの摩擦でとても熱く、体全体がヒリヒリと痛かった。

 

really?

 

HIはかのジョニーニャの球を止めたのだった。

あの逃げ続けてばかりのHIが初めて正面から立ち向かった、そんな瞬間だった。

 

周りからは歓声が湧いた。

一ミリも信頼してくれていなかったチームのみんなも、声色がかわりHIを応援した。

 

Think rich, look poor.

 

この言葉は、HIが母親に教えられた名言だった。

考えは豊かに、見た目は貧しく。

国家のために働いていたという彼女にとってはとても大事な言葉らしい。

 

無駄に派手に着飾ることで、無駄な警戒心や隙が生まれてしまう。彼女はそれを嫌い見た目は貧しく、だが考えは豊かにということを大切にしていたらしい。

 

ドッジボールを投げるときも同じことが言える。無駄に大きなフォームは返って力の無駄遣い。エネルギーには必ず限界がある。そのエネルギーを一点に集中し、そして放出する。そのためには余計なフォームは不必要なのだ。

 

大振りなジョニーニャのフォームに対して、HIのフォームは至ってシンプルだった。

 

そんな中放たれた1発の弾丸は、ジョニーニャの足元にあたり、そしてそのボールは地に落ちた。すると、あたりは歓声に包まれたのでだった。

 

そして新たに伝説が生まれたのだった。

 

ー現在に戻るー

 

Think rich, look poor.

 

HIは深呼吸し、ボールを構えた。

辺りは凍え、HIの呼吸の音だけが大きく聞こえた。

 

「フッ!」

 

HIから放たれた弾丸は真っ直ぐに転送装置のガラスに当たりガラスを粉々に砕いた。

 

HI!ナイス!!よし、帰るぞお姫様。」

 

封筒は疲れ切って動けなくなった彼女を抱えその場から離脱しようとした。

 

「封筒!!!後ろ!!」

 

これは一瞬の出来事だった。

 

封筒の後ろには、銃を構えている例の男がいた。

 

「まずいっ...!じぬぅうう!」

 

(バーーンッッ!!)

 

辺りに銃声が響き渡った。

 

「嘘だろ。まさか君がいたとは....

 

「おい、俺助かったのか..?

 

倒れているのは例の男だった。

 

その前で銃を構えていたのは男から雑用と呼ばれていた新入りの男だった。

 

HIくん。よくやった。君たちがここに来るとは想定外だったがね。」

 

目の前に現れた雑用の正体は。僕らが、カフェ「Serena」で出会ったオーナーだった。彼の能力は記憶操作。

能力の存在を知っている僕たちには効かないはずだったが、顔を見る余裕もなかったため全然気づかなかった。

 

「私もここに潜入して、彼女を助ける作戦を実行していたんだよ。そしたら君たちがたまたま来て....。本当に助かった。」

 

「どうやってここまで?」

 

「能力を使って、新人としてこいつの記憶を操作して近寄ったんだよ。まぁ歳っていうこともあってなかなかギリギリの賭けだったがね。」

 

「お゛じ゛さ゛ーーん゛ん゛ん゛っ゛!!あ゛り゛が゛ど゛う゛!た゛す゛か゛っ゛た゛ぁ゛!!」

 

「こんなところで泣いてる場合なのかい?封筒くん。君は彼女を守り抜き、無事に家に送り届ける。それが君の仕事だろう。泣くのはそのあとだよ。」

 

「カッケェェ!そうだな。よし脱出や!」

 

「ここまで派手にやらかしたってことは、君たちは国家を敵に回したってことだ。追手はすぐ君たちの方に向かうだろう。私の能力で時間は稼ぐ、だからその隙に、君たちは今すぐここから脱出して彼女を安全な場所へ。」

 

「了解!」

 

そうして、二人はオーナーを置いてその場を後にした。

 

封筒は彼女をおぶりながら外務省から出て、すぐに彼女の家に向かおうとした。

 

HI。この子をこのまま家に連れて帰ったら逆に危なくないか?またいつ襲われるかわからないし。それに加えてこいつのお姉ちゃんは全然信用ならないしよ。」

 

「確かにそうだな。封筒。お前の家に匿えないか?」

 

「いやーー。俺の親絶対許さないよ。でも、まじでこの子と一緒に生活できたら天にも登る気持ちなんだけどよぉ..

HI、おまえは?」

 

「そうやな。一応聞いてみるわ。」

 

HIは母親に電話した。

意外なことに、事情を全く出すことなく、なぜかすぐに許可がおりた。

 

HIたちは彼女のことも考えて、HIの家でしばらく匿うことに決めた。

 

「そんなことより、この後はどうする?俺ら、ここまで来ちゃったらもう逃げれないぞ。」

 

「はなっから、逃げるつもりなんてないわ。もう逃げないってずっと前に決めたんや。お前も俺について来い。最後まで戦い抜くためにはお前が必要や、相棒。」

 

「いいこと言うじゃねえかHI!!最期まで付き合うぜ、お前の人生によ!」

 

「今後のことだが、まずは、俺にこのミッションを与えたこの子のお姉ちゃんであり、俺らランクマ学園の生徒会長のアイツのところに向かって、事を報告をしよう。話はそっからや。色々話したいこともあるしな。」

 

「あいつなら色々知ってそうだしな!あいつからとりあえずありとあらゆることを吐いてもらおうぜ!」

 

「そうやな。」

 

今後の作戦の話をしていたら、あっという間にHIの家の前までついていた。

 

「じゃ、HI。話のつづきはまた明日。学校で!この子のことよろしくな〜」

 

「あ、あぁ。」

 

こうして、HIと封筒は長い1日を終え、別れた。

 

「どうしようかなぁ...

 

彼女は未だに目を覚まさない。

彼女の肌はとても綺麗に透き通った白色で艶やかだ。おまけに、まつ毛なんかとても長く、唇はとてもふわふわしていて...と思いながら、HIは、彼女のことをしばらくの間、薄気味悪い顔で観察していた。

 

気づいたら。夜になっていた。

HIは彼女に自分のベッドを貸して寝かしつけ、自分はゲーミングチェアの上で寝ることにした。

 

ー翌日ー

 

HIさん...。ご飯...。できた...

彼女はエプロンをし、HIの目の前に立っていた。彼女の声はとても小さいため、これでもかというくらい、HIの耳元に近づいて囁いていた。

 

「ぅおっ、ありがとぉお!??」

HIは寝ぼけていたため、最初はなにもわからなかったが、彼女がすでに家族の一員として朝の身支度をしている光景を見てとても驚いた。

 

HIにぃ!お姉ちゃんめっちゃ料理上手だし、可愛いし!最高だね!私に本物のお姉ちゃんができた気分!」

 

HIの妹は、新たにできたお姉ちゃんのような存在に嬉しさをあらわにしていた。

 

HIー!学校行くんでしょー!3人ともはやく支度しなさいよー!」

 

お母さんもいつもと変わらずといった感じだった。

 

「この適応力すごいな...

 

HIはこんな平和な毎日がこれからも続けばいいなと心から思ったのだった。

 

15話 END 

 

 

~あとがき~

どうもたにしです。

 

毎週投稿で書くことはや2か月。はやくも15話までかけたことに驚きを覚えています。

 

はじめはHIさんをいじり倒すためだけに始めたネタ小説で、3話もいかずに終わるだろうなと思っていたのですが、いざやってみると、頭に書きたいストーリーが浮かんできて、気がついたら15話まで来てしまいました。

 

ここまで読んでくれている方々には引き続き感謝を伝え、このストーリーを最後まで終わらせられるように頑張ります!

 

最近リアルでは、テスト期間ということもあり多忙な毎日が続いていますが、日々学ぶ気持ちを忘れずにさまざまなことを全力で頑張りたいと思います。

(今回からじょにーが助っ人として、誤字の訂正、管理を手伝ってくれています。ありがとう) 

また来週!