HIDT forever 第4話 「彼女の秘密〜序章〜」
HIDT forever 第4話
「彼女の秘密〜序章〜」
5/1(土)
新学期が始まってからしばらく経ち、高校生活も少しずつ慣れ始めてきた。
友達との出会い。学校帰りの落ち着ける場所。
少なくともこの二つは高校生活を謳歌する上でとても大切な要素だと思う。
この二つを得た僕はすでに自分基準での最低限の高校デビューは成功していると思った。
「あとは女子との出会いさえあればなぁ....」
切実な願いが早朝のHIの脳裏によぎる。
リビングに出ると、妹が珍しくテレビに釘付けになっているのが見えた。
「朝に、お前が好きな番組なんてやってないやろ。何を見てるん?」
「HIにぃ!見て見て。この近くで強盗が起きたっぽくて、犯人がいまだに逃走中らしいよ....私が絶対捕まえなきゃ!!」
流石小学生。その圧倒的正義感が危険と隣り合わせなことをまだ彼女は知らないのだろう。
「まかせときぃ、僕が見つけたら絶対捕まえてやるから👍」
自分らしくもない言葉だった。最近アニメの見過ぎで少し厨二感が抜けていないのだろう。
「さすが、HIにぃ!困ってる人がいたら、絶対助けてあげてね!私との約束!!」
子供は楽観的でいい。本当にそんな状況が訪れたら、たとえどんなに大切な人と一緒にいたとしても、僕は一人で逃げしてまう自信がある。
これは僕が最低な人間だからではなく、人間がそういった生き物だからだ。
「お兄ちゃんは強いからな....」
ボソッと呟いた。人は自分を強く、かっこよく見せるために年下に対してはいい気持ちになってしまう。そういうものだ。
せっかくの土日だ。あのカフェにでも行って少し気分転換でもしよう。
そう思い立つと、HIは重い腰をあげ、家のドアを力強く開けた。
休日の外出。これがら友達と....女の子との約束なら、どのくらいの強さで家のドアを開けられるだろうか。
きっと家のドアだけじゃなく家ごと丸めて吹っ飛ばしてしまうような気がして、想像するだけで恥ずかしくなった。
いつもの道を10分ほど歩き、右手にみえる細い道に入ると、遠目に「serena」の看板が見えた。
「ん?」
店の看板の前に立っている人が見えた。黒い帽子にそこからはみ出た長いロングヘアーはとても綺麗で、つい遠くからでも見惚れそうになった。
「あ、あの時の....」
HIはカフェに初めてきた時に出会った、謎の少女を思い出した。謎の運命観を語り僕に話しかけてきたあの謎の少女。
今日もいるなんて相当な暇人だ。
そんなことを考えていると、後ろから猛ダッシュで走ってくる何かの足音が聞こえた。
「どけぇ!」
ハイは突き飛ばされ、その場に頭から転げ落ちた。
「痛え....」
なんなんだ、あいつは。
ハイは体制を立て直し、前を向く。
ドサッ....
目の前を見ると俺にぶつかってきた大男が、彼女の手を取りこちらに何かを向けているのが見えた。
「おい、そこのお兄ちゃん。こいつを傷つけられたくなかったら。今すぐ携帯を捨ててこっちにこい。今からここに立て篭もる。」
HIはぶつかってきた人物が今朝ニュースでやっていた強盗だとすぐに分かった。
そして、今が朝言っていた命がかかっているピンチ。犯人とは多少まだ距離がある、おそらく今、全速力で走り、大通りに出れば自分は助かるだろう。
とっとと逃げたい。逃げるべきだ。全身から汗が出る。
こんな時、今朝、妹が言っていたことが脳裏に浮かぶ。そしてあの時聞こえた彼女の声。いろいろなことが頭の中に充満し、僕の足を後ろへと行かせない。
「逃げて..!」
遠くからでよくわからないが、彼女の口がそう動いた気がした。俺だって逃げたい。死ぬほど逃げたい。でも君が......
僕はゆっくりと手をあげて歩き、犯人と女の子がいるカフェの目の前まで歩いた。
「ここを開けろ」
犯人は黒い帽子の彼女にそう言った。
彼女は右ポケットから鍵を取り出し、ドアを開けた。
HIはこの時この彼女がこのカフェとなんらかの関わりがあることを知った。
「そこのカウンターでじっとしておけ」
犯人は僕と女の子に手錠をかけ、古い木の杭に縛りつけ、2階へと上がっていった。
「生きていて本当にこんな状況になる時があるんだ....」
HIは気づいたら本音を垂らしていた。
HIが途方に暮れていると、隣からくすくすと笑い声が聞こえた。
「どうしたんだよ。なんかおかしいか?今まじでやばい状況だと思うんだけど....」
「いや、逆にこんな状況での第一声がそれだなんて、変わってるなって思って」
彼女はくすくす笑いながらそんなことを言い始めた。こいつはどこか頭がおかしいのか、それとも本当に僕の頭がおかしいのか....もうなにも分からなくなってしまっていた。
「こういう時は状況把握や」
HIは落ち着いて周りを観察し始めた。
この書店は4階建てらしい。目の前のフロアガイドのようなものに書いてあった。
一階にカフェのようなスペース、2階.3階.4階にはおそらくたくさんの本がおかれているスペースがあるように思えた。
「君はここのカフェの管理人とかなの?」
彼女は下を向いて声を出さなかった。
何か隠している....彼女の目は見えないが、僕の長年の勘がそう言っているように思えた。
ー続くー