HIDT forever第5話「彼女の秘密〜始まり〜」
HIDT forever 第5話
「彼女の秘密〜始まり〜」
〜serena1階〜
「ふふふ、ごめんねHIくん。安心して、もう危険じゃないから。」
彼女はそういうと、どこからか取り出したナイフで杭に縛りつけられた紐を切り始める。
「おい、どういうことだよ。何が何だかわからない。さっきの男はなんだったんだ?」
彼女の冷静さとは反対に僕の頭は混乱し、頭の整理が追いつかない。彼女は一体何をしているんだ。
「びっくりさせちゃったね、あの人はここのマスターみたいな人で、あなたをここに誘き寄せるために一芝居打っちゃったってわけ....
本当にごめんね。」
彼女は僕たちのロープをナイフで切り、ボロボロになったロープを巻きながら淡々とした口調でそう語る。
「なぜ、そんな芝居を打つ必要があった?」
僕はケツについた埃をはたきながらそう問う。
「それはね....」
バンッ!!!
突然店の扉が大きな音を立てて開いた。
「おい!さっきの男はどこだ!封筒様がぶっ潰してやんよww」
そこにはどこから持ってきたか分からない木のバットとヘルメットを被った封筒が立っていた。
「おまえ、何してんだ?」
「いや、さっきHIがいたからよ、着いて行ってたら、さらにそのHIがこの前の女の子のこと着けてたから怪しいなと思ってな!抜け駆けはゆるさねぇよww」
こいつは本当にアホなのかもしれない。
でもそんなアホな封筒を見ていると、無駄に緊張していた自分もアホらしく感じた。
「君たち、本当にいいね(笑)君たちなら・・・」
彼女は何か僕たちを試したように感じた。その理由は分からない。彼女の声から直感的に感じた。
「封筒、あの男なら俺が殺っといた、一足遅かったな。」
「なに!?お前そんな強かったんか......女の子にいいところ見せやがってよ...」
その封筒の悔しそうな表情は、障害物競走で転んで負けた小学生のような顔で、真に悔しがっている様子が見てとれた。
「そんなことより、話を戻そう。君はなんでそんなことをしてまで僕を呼んだんだ?」
僕は彼女に向かって真剣な顔で尋ねた。
「君はさ、一度会った人のことは必ず覚えているタイプ?」
それは唐突な質問だった。しかし彼女の声色は至って真面目で、とても冷やかしているような言い方ではなかった。
「あんまり記憶はよくないからな。よほど大切な人じゃない限りは覚えてないかもな。」
「ふーーん。そうなんだ。大切な人ね。じゃあ君にとっての大切な人って誰なの?」
HIは少し戸惑った。自分にとって大切な人。
この質問はとてもお母さんや、お父さんといった極めて当たり前な答えを求められている気はしなかった。
「まだいない。かな....。」
HIからしたらこの答えが限界だった。
「そうなんだ....。」
彼女のその寂しそうな声は僕の心の奥に何かを訴えかけている。そんな気がした。
「信じてもらえないかもしれないけど....。」
彼女はそう言って長袖の服をまくった。
「!?」
そこには超肌白、という表現では表せないくらいに白い、今にも消えそうな彼女の皮膚があった。
「どうしたんだそれ....。ほとんど消えかけているじゃないか」
「この世界にはね、アモルって言う人間の存在の核みたいなものがあるの。」
「アモル?なんだそれ。聞いたことないぞ」
HIは彼女の話の意図が分からず動揺する。
「当然だよ。普通なら気にならないし、基本的にその人から離れることも消えることもないの。でも君にも確実にアモルはあるんだよ。」
「それが君のそれとなんの関係があるんだ?」
「人は何個かのアモルから形成されているんだよね。このアモルが全て亡くなった時。その人は元々この世の中にはいなかった人。つまりどの人の記憶からも消えてしまう。存在の消滅そういえば理解してくれるかな?」
非現実的な話すぎて普通なら理解できないだろう。
しかし、彼女の顔は真剣そのもので、症状を見るにも、なにも疑う余地はなかった。
「私はこのままだと一年以内にはこの世から消える。そのくらい私の中のアモルは欠如してる。でも君なら、私を救ってくれるって、そう思って....」
彼女の声に元気がなくなっていくのを感じた。
「なんで僕なんだ。僕なんて、dtで特に取り柄もないし、こんな物語の主人公みたいなのを任せられれような人間じゃないと思う....」
なぜだろう。僕のなかでの思考は追いついていないのに、彼女の話を切り捨てられない。僕の直感がそのように言っている。
「知ってる?物語の主人公っていうのは。カッコよくて頭がよくて、先天的な才能がある、いわば天才みたいな人じゃないんだよ。君たち一人一人が君という名の運命の主人公。それに優劣なんてあるわけないでしょう。」
僕は彼女がいきなりそう語る理由がわからなかった。しかし彼女の顔は見えないが、その視線からはとてつもない真剣さが感じられた。
「あぁ、、がたがたいうなよ!!HI!お前男やろ?女の子が助け求めてるんだからdtとか何も関係ないだろ!!目覚ませ!」
封筒はそう言ってぼくの背中を強く叩く。
「わかったわかった。協力するよ」
僕の返事を聞いた彼女はどこか嬉しそうな表情を浮かべたような気がした。
「それで?もっと詳しく聞かせてくれよ、そのアモルってやつを」
馬鹿な封筒が珍しく興味津々な顔をしてそう言った。
「アモルについては様々な説があって、いまだに私たちにも詳しいことは分かっていないの。なぜ私のように消えてしまう人がいるのか。どうやったら治せるのか・・。
でも一つの説ではアモルは愛そのものだと言われているわ。愛で病気を治すなんて都合のいい話に聞こえるわよね。」
「愛?どうやって愛なんて捕まえて君に渡すんだ?僕はもう君が好きだけどねwww」
相変わらず封筒はきもい。
「あぁ、それ聞くとどんどん消えていきそう...そういう不要な愛はもう口に出さないで封筒君」
「えぇ....ひどいなぁ」
封筒はとてもショックを受けたのか下にうずくまり木の板の数を数え始めた。
「それで?アモルはどうやって集めるんだ?」
「私にもよくは分からない。でも愛が関係していると私は信じているわ」
「愛か...なんでキーがそんなに中途半端な概念みたいなものなんだ。しかも、それに関しては疎いから協力できそうにないしな。」
「それでさ、こんなこと言うはあれなんだけど、HI君が良かったらさ、私と擬似的でもいいから付き合ってくれないかな。そうすればアモルについて何かわかるかもしれないし...」
これは初めての告白だった。
いままでの人生でいくら望んでも一度も訪れなかった最強のイベント。まさかこんな唐突なタイミングで訪れるなんて神ですら予知できなかったに違いない。
「え、お、俺?そ、そんなんで何か変わるの?」
「いいから、いいから!お願い!」
いままでの口調とは裏腹に唐突に元気で明るい口調になった。本来の彼女はとても明るい人なんだろう。そう感じた。
「わかったわかった。俺にできることなんて限られてると思うけどなるべく頑張るよ...」
「やった!ありがとう!!!」
彼女はそういうと、消えかかった拳を上に挙げながら飛び跳ねて喜んだ。
彼女がなぜ僕を選んだのかはわからない。
彼女の顔はサングラスに覆われていて、帽子を深く被っているためよくわからない。
もしかしたらアモルの影響で顔自体も消えかかっているのだろうか。
僕はこうして謎の少女との擬似彼女ライフが始まった。これを彼女と言うのかはわからないが。初めてできた彼女と言う存在に少し心が躍っているように感じた。
完