HIDTforever第6話「アモルの秘密」
HIDTfoever第6話
「アモルの秘密」
「明日からGWや〜。みんなハメ外すことないようになー」
先生の適当な挨拶も終わり、生徒たちは目の前にきたGWに心を躍らせ意気揚々と次々に席を後にしていく。
「おい、HI帰ろうぜ。」
封筒がいつものように声をかけてくる。
「そういえばさ、俺の前の席の人、初日からずっときてないけど.....どうしたのかな?」
「たしかに、そうだなぁ、おかしな話や。先生に聞いてみるか?」
僕が盛大な高校デビューを果たした初日。彼女だけは僕に冷徹な笑いを向けず、優しそうに僕のことを笑ってくれていた。それが何故か少しだけ心に残っている。そんな彼女は学校が始まり1ヶ月が経とうとしている今、未だに姿を見せない。
「せんせぇーー。ここの席の人はどうしちゃったんですか?」
封筒が後ろの席から声を張り上げ、教卓で眠そうに座っている先生に声をかけた。
「そこには、もともと人はいないだろう。何言ってんだ封筒。おまえやっぱアホやな。」
「!?」
よくみると前の席には教科書類が何冊か積まれていた。もう完全に隣の席のやつの物置にでもなっているかのようだ。
「それはおかしくないか?HI。たしかにここには可愛い女の子が座っていたはずだよな?どうなっているんだ?」
「俺にもわからない....。まさかあの時あった女の子の話と関係があったりするのかな。」
HIは頭を悩ませる。考えれば考えるほど意味がわからない。何故僕たちだけがそれを覚えていて、周りからの存在が消えているのか。そんなことが本当にあり得るのか。
「封筒。今日はもう帰ろう。明日行きたいところがある。いいな?」
「わかったわかった。何か考えがあるんやな。ほな今日はファミチキでも買って帰ろや👍」
いつもの帰り道。封筒は自分のロリコン自慢をしてきたが、一切耳に入ってこない。
すぐにでもこの状況を整理したいと、そう思った。
ー翌日ー
GWに入り、世はまさに連休ムード。
僕の中でのこの連休は、いつもの一人家で過ごすものとは一味違う。
僕にも彼女ができた。色のない日常に色がついた、そんな気がするとともにそれが僕にとってまた、大きな足枷になることもなんとなく心の奥で感じていた。
先日の出来事は忘れもしない、今でも鮮明にしっかりと覚えている。
僕は今の状況を整理するため、アモルについての記述が沢山あるとされている書店に封筒と朝早くから向かい、文献を漁ろうと決めていた。
『この世にある万物、特に人間はアモルと言われる固有の物質を持つ。人同士、このアモルを感じ取り記憶媒体となりしことで他人を認知し、存在を肯定する。99.9の人アモルを認知すること無く死を遂げる。選ばれし人アモルを自由に操り、時には他人の記憶に侵入し存在なしことを埋め込む。選ばれざる者このアモルを維持できず次第にその存在消えゆく定めにあり、つまり皆から忘れられることを意味する。なお、解決策、原因は未だわからず。国としてはあまり深入りして研究する問題でもなさそうだ。』
政府の出している本にはこのようなことが書かれていた。
「なるほど....正直よくわからないな。選ばれたもの、選ばれざる者ってなんだ?研究を勧めないってのもどういうことだ。」
HIは頭をかきながら、入れ立てのコーヒーを一気に飲み干す。甘苦いこのコーヒーはまさにこれからの運命を悟っている、そのように感じた。
「この文献によると彼女は選ばれざる者と呼ばれる特殊な存在。そう言うことになるよな?H I?」
「そうっぽいな。そして、いとも簡単にニュースの強盗としての存在を上書きし、何事もなかったかのようにここにいるマスターは少数の記憶を司りしものってことになるわけか」
それなら辻褄があう。この世の中はうまくできている。影が薄い、濃いと言う言い方があるが、まさにこのことなんじゃないかと疑ってしまうレベルだ。
「結局のところ、アモルのところに彼女が読んだものに愛という記述があるから、何かそこに病気を救う糸口がある。そのくらいしかわからんってことか?でもここのマスターがその記憶を変えられる能力を持つならなにかわかることがあるんじゃねぇのか?なぁ、マスター?」
ついこの間までニュースで題材的に取り上げられた犯罪者が今、目の前でコーヒーを淹れている。こんな状況普通ならありえない。
マスターは40歳くらいらしい。僕にとっては歳のわりにはとても若く感じた。
「私もわかったらそうしているさ。私は、他者の記憶を一時的にではあるが操作することができる。どうやっているのかは僕にもわからない。そう願うとできる、人間が言葉を喋るのと同じような感覚だよ。」
「ふーん、そうなんだ。じゃあなんで俺らには強盗の記憶が残ってるんだ?」
「ぼくの記憶操作は不完全なんだ。君たちみたいに僕が記憶操作が可能だと認識したら効果を持たない。君たちは僕の能力に気づいている。だから僕の力は君たちには及ばない。無論、人によっては、完全に支配できる能力を持つものもいるみたいだがね。」
「なるほどなぁー、じゃあ俺の頭の中に妄想でもいいからdtを卒業できた記憶を埋め込むことも無理なんかー残念〜www」
封筒はいつもこんな感じだ。マイペースというか、本当に都合がいいというか...。
「そんなことより、マスターはなんでこのカフェを作ったんや?」
「いい質問だね。彼女もしかり、この世に消えるべき存在なんていないとおもうんだよ。人は生まれたら必ず死んでしまう。それは紛れもない真実だしこの運命からは逃げられない。でも記憶は消えない。思い出は消えない。それだけでもこの世界にいた証明になる。でも彼女たちは消えゆく運命にある、生まれた時からね。そんなのはひどい話じゃないか?そんな人たちを助けたい。そう思って立ち上げたのさ。何か情報が得られると思ってな。」
「なるほど.....。マスターのほかにも記憶操作をする人って見たことあるの?」
「そりゃたくさんあるさ。世の中の理不尽の原因はほとんど彼らの無闇な記憶の入れ替えによる秩序の乱れから来ているといわれているくらいだ。その能力を悪用するもの、交渉に使い利益を上げる者。人によってさまざまだよ。」
「なるほど.....。」
人の記憶を操れる人、何故かこの世から生まれた時から消えることが決まってる人。どうしてこんな理不尽な存在がこの世界に同時多発的に存在しているのだろう。未だに僕には信じられなかった。
「彼女に会わなくていいのかい?彼女はここに住み込みんでいるからな。三階の寝室で寝ているんじゃないかな。」
「今日はいいです。家で色々考えてみたいこともありますし....。」
「そうか、気をつけてな。封筒くんもそうしょげるな。元気を出しなさい。」
「べつにしょげてるわけじゃ!!HI!今日はカラオケにでも行ってストレス発散や!」
そう言うと一人でに走り出してしまった。
外の温度は18度程度だろうか。湿度が高いためかじめじめしていて気分が悪い。
Hiはドアを開け、たしかに存在している自分の大きな手を空に透かした。
ー完ー