HIDT FOREVER 第七話 「謎の少女との出会い」

HIDT forever 

ーあらすじー

陰キャ童貞オタク。この世の全てを手に入れたHI。そんな彼の人生に突如現れた1人の謎の美少女。唐突な彼女からの告白、この世の中に潜むアモルという記憶媒体の存在。何もかもが唐突で理解に苦しむHIにさらなる試練とアモルの秘密が襲い掛かる。

 

第七話「謎の少女との出会い」

 

53日。世はまさにGWの二日目に突出した。

春の華やかさとは一変、草木も本来の色を取り戻し、鮮やかな黄緑色に輝いている。太陽がギラギラと照りつけ、夏の始まりと地球温暖化をひしひしと感じた。

レジャー施設や遊園地は子供連れで溢れかえり、時折子供のぐずる声や、家族の笑い声がテレビを通して聞こえて来る。

 

「今日は封筒とアニメイトか〜」

HIは朝食を口にせっせとかきこみながら、今日という日に胸を膨らませていた。

休みの日は封筒とアニメイトに行き、大好きな「リロ」のフィギュアを嗜める日になっているからだ。

 

「それにしても今月も色々なことがあったなぁ。」

 

改めて4月を振り返ると、入学早々封筒という騒がしい友達ができ、高校生活でお世話になりそうなcafeも見つかり、なぜか知らないが彼女もできた(なぜか連絡が最近取れないけど)。HIからすると順風満帆以外の何者でもない生活を送っていたのだ。

 

「これが華の高校生ってやつか!?」

HIは高校生活の順調さに少し違和感を覚えながらも、幸せな現状に満足気になっていた。

 

「でもやっぱり、気になるのがあのアモルっていう存在だよな。なんかあの子はそれのせいで消えるとかなんとかいってたし...

HIはアモルの存在についてまだ信じきれていない部分があった。確かに彼女の肌はとても透明で今にも消えかかっていたが、それだけといえばそれまでだ。芸能人も含め、人間あのくらいの肌の透明度の人がいてもおかしくはない。

(まぁ女性経験ないけど)

 

まぁあまり深くは考えないでおこう。とりあえず今日の服何にしようかな。やっぱりメイド服がええかグフフフ...

 

HIー!今日は妹の面倒見てあげる日でしょ!そんな気持ち悪い顔してないで遊びにでも連れて行ってあげな!」

「え!?!」

 

HIは完璧に忘れていた。そういえば先週あたりにお母さんが、仕事で家にいないからGWだけど妹の面倒を見てほしいと頼まれたのだった。

「お兄ちゃーん。あそぼー。どっかいこー」

こんな可愛い声で遊びに誘われたら、全国お兄ちゃんが今の遊びを断って、一日中妹と遊ぶことを選ぶだろう。

 

「妹よ。すまん!一緒に遊びには行くんだけど、お兄ちゃんの友達も一緒じゃだめかな?」

からしたら最大の失態だった。あんなロリコンクソニートの封筒に僕の世界一可愛い妹を会わせるなんて、王水の直飲みに等しい自殺行為だったからだ。

「お兄ちゃーん友達いたんだ!いいよー!じゃあ行こう!

妹はそう元気に言うと、せっせと外出の準備をするために自分の部屋に戻っていった。

 

「はぁ、封筒の野郎には手を出さないようにLINEで報告しとくか..

HIはラインでしつこく、妹がくるから何もするなと言うことを告げると、

「俺はロリコンではないから心配するな

と何の根拠もない返信が返ってきて、余計心配になった。

 

「妹よ、そろそろ行くぞー」

「はーーい!」

久々の妹との外出が、まさかアニメイトだなんて、全国の妹がいないロリコン兄貴どもに殺されそうなデートスケジュールだ。それでも家のドアを楽しそうに開ける妹を後ろに見ると、そんな気持ちもどこか薄れていくように思えた。

 

「よっ封筒」

「よっ!ふうどう!」

妹も何故か封筒に対して僕の真似をして挨拶をした。めちゃめちゃ可愛いじゃん。

 

「でへっ、封筒っすwHIの親友やらせてもらってますだじゅんいち、よろピクシー^_^

 

渾身の封筒のギャグだった。

妹の顔はぜったいれいどの温度まで低下し、その場の雰囲気が凍りついたことを一瞬で理解した。

「やはりこいつを友達に持った俺が馬鹿だったか....

「ん?なんかいったか相棒」

封筒はアホだから空気が読めていない。自分のギャグで世の中を救ったような、そんな誇らしい顔を浮かべ、とても満足そうだった。

 

「じゃあいこっか。」

「うん!」

「うぇーーい」

そうしてアニメイトまで歩き始めた。

 

アニメイトに着き、当初の予定だった、フィギュアとファイル、ついでにiPhoneケースを買って店から出ると、店の前に1匹の猫が歩いているのが見えた。

 

「可愛い!ねこさんだー!」

妹はセカセカと走る猫を後ろから全速力で追いかけていった。

「待ってー!」

「おいHI。妹いっちゃったぞ?大丈夫か?

「大丈夫だろ多分。まぁ後ろからゆっくりおいかけていこうぜ」

 

猫は歩道を右に回り狭い路地に入っていった。

妹もそれを追うように狭い路地に入っていった。

 

「おいHI。お前の妹クソ狭い路地に全速力で入っていったけど大丈夫か?

 

「ん!?なんかあったら心配だ。とっとと追いついて捕まえるぞ。ついてこい封筒」

 

「おうよ!」

 

僕らも全速力でその後を追った。

しかし、何度か曲がり角を曲がっていくうちに、妹を見失ってしまった。

 

おいおい、まずいぞ。俺の可愛い妹がもしなんかあったら切腹問題だぞ。どうする俺。どうする俺...

 

 

「たすけてぇー!お兄ちゃーん!ふうどうー!」

 

そうこう考えていると、甲高い妹の声がどこからか聞こえてきた。

 

「おい!?大丈夫か!?」

 

HIは全力で声のする方へ走っていった。細い路地ということもあり、ゴミ箱や木の棒が散乱してとても人が通る道とは思えない道を全力で進んだ。

声のする方へ行くと細長い路地の突き当たりに、妹と大柄な男が3人いるのが見えた。

 

「おいおい、お嬢ちゃん、俺らにぶつかって来るなんていい度胸じゃねえかよおい。」

「カンにき?ヤッちゃいますかい?こいつ」

「そうだな、ランクルス、こあ。やっちまいなこんな奴ら」

「了解ですカンにきぃ!」

 

 

「おい!やめろー!!」

 

HIはそう言いながら全速力で妹の方へ向かうが、奴らの攻撃に全く追いつく気配がしない。まずい..と思ったそんな時だった。

 

廃ビルの屋上からフード付きの藁のマントを被った1人の小柄な子が落ちてきたのだ。

 

「!?」

 

HIは目の前の状況を理解できていなかった。

 

 

「何だこいつ?時代にそぐわない服装しやがって。邪魔するならまずお前からだぜぇ!」

 

謎の少女に大男が襲い掛かかろうとした次の瞬間。信じられないことが起きたのだった。

 

ランクルスと名乗っていた男は自分の味方である、こあというやつの頭を思いっきりバットで殴ったのだ。

 

その衝撃でこあはその場で倒れ込んだ。

 

「おい?ランクルス?お前どう言うことだ?」

 

「おらぁあああ!」

 

勢いそのまま、ランクルスはカンにきをも殴り飛ばした。

 

「ぐはっ」

 

もはや何が起きているのかHIには到底理解できなかった。そこにはただただ目の前で起きていることを唖然としながら傍観することしかできずにいる自分がいた。

その後ランクルスと呼ばれるやつも力が尽きたかのようにその場に倒れ込んでしまった。

 

「大丈夫?お嬢ちゃん」

 

「うん!ありがとう!!助けてくれて!」

 

「礼にはおよばないよ、これもまた運命さ」

 

「おい!大丈夫か!!」

 

「お兄ちゃんー!この人がね!助けてくれたの!」

妹は涙ぐんだ声でそう言い、僕の懐に抱きついてきた。

 

「誰だが知らんがありがとう。助かった。」

 

「いえいえ」

 

そういうと、彼女は藁のマントを取ってその場に投げ捨てた。

そこにはHIと同じ高校の制服を着た少女が立っていた。白のブレザーに、赤色の校章。まさしくHIの通っている、私立ランクマ学園の制服だったのだ。

 

「ん?まさかうちの生徒なのか?」

 

HIは不思議そうに彼女に問いかけた。

 

「おーーい!HIどこいってたんだよー!探したぞー!

 

そのタイミングで封筒が僕らを見つけ一目散に走ってきた。

 

「君がHIくんだね。待っていたよ会いたかった。会ってすぐで悪いがもうそろそろ時間だから行かないと。また学校でね。」

そう彼女は告げると驚異的な身体能力で壁を蹴り、ビルを登り、その場を後にしたのであった。

 

「何だったんだ一体...

 

「おいおい、HIどこいってたんだよ。びっくりしちゃったぜ、お前を追いかけてたら、俺も意識が飛んじまってよ。気づいたらファミマでファミコロを買って小学生と投げ合って遊んでたんだからよ」

 

「おまえまじで何言ってんだ。頭でも打ったか?

 

「いや別に正常だけど?多分」

 

まぁとりあえず妹が無事でよかった。あの少女のことは結局よくわからなかったが。僕と同じ制服だったということは、僕と同じ学校か。

待っていたってどう言う意味なんだ?まぁいいか....

 

「よし帰るぞみんな」

「おっけー」

「うん!!楽しかった!2人ともあじがと!」

「おーーデヘッ封筒にいさんに何でも言えよこれからは(^^)

「うん!!」

 

この出来事が今後のHIの人生を大きく変えてしまうことは、この時のHIはまだ知らなかったのであった。

 

第七話 完