HIDT forever 第9話「試練の扉」
hidt foever 第9話
「試練の扉」
〜昼休み 学校駐車場にて〜
謎の少女に連れられ、人気のない坂をゆっくりと降っていく。そこは3年棟のすぐ左。普段、一年生が通ることのない裏門に面している。
ここで説明だが、僕たちの学校は主に3つの棟から成り立っている。正門から入ってすぐに見え、横に広がる1年塔、その右奥に位置し1の字に構える2年棟。最後に上から見ると「コ」の形に見える最初の一画目に位置する3年棟である。三年棟の方には裏門があり、基本的に3年生と1年生が接触することは少ない。まさしく僕たちからしたら未知の領域といえるだろう。
無論。まだ入学して間もない僕らには、3年棟にあるこの坂についてはしるよしもなかった。
「おいおい、ここって学校の駐車場じゃねえか、俺らまだ未成年だろ?車なんて持ってねえし。一体こんなところに何があるって言うんだよー。そうだよな?HI?」
「あ、あぁ。まぁ封筒。とりあえず落ち着いてこの子の話に乗ることにしよう。」
HIはいつにも増して冷静だった。封筒といるとどうもふざけ倒したくなってしまうが、今この状況でそんなことができるのは、伊藤誠相当の無神経アホ野郎か、封筒くらいなものだ。
「おいおいー、腹減ったー。飯食ってねえじゃんかー結局。どこに連れられてんだ俺はー」
封筒がお腹をすかしてぐだぐだ言っているのを横目に2人はどんどんと駐車場の奥へと進んでいく。
「ここだね。お待たせ。」
そこにはスパイ映画御用達の高級車ジャガーEタイプが停められていた。
艶のある赤い塗装に、しっかりとした車体。窓にはブラインドがされており、中の見えないVIP仕様になっていた。
「お嬢様。お待ちしておりました。」
「ご苦労」
運転席からはいかにも執事という服装をした紳士の男が一人降りてきた。年齢は40歳ほどか。体格はとてもしっかりとしていて、まさにスパイ映画のエージェントのような雰囲気だった。
「お嬢様? おいおい、お前お嬢様だったのかよ!!俺らになんのようだ!市民から金を捲り上げるきか!?ふふふ、すまんな、生憎お嬢ちゃんにあげれる食料、金はこれっぽっちも持ち合わせていないんでね。そんなことより君のその赤色のパンツを...グフッ」
封筒は一瞬にして隣の執事にしばかれ、鼻血を飛ばしながら鮮やかにふっ飛んでいった。
「お嬢様。少々小蠅が飛んでいるみたいですが、処分いたしましょうか。」
「やめなさい。この人たちには話さないといけないことがあるんだ。」
「わかりました。コバエ、、、いえ。封筒様大変すみません。ご無礼を許してください」
完全に放心状態の封筒には丁寧なのか煽っているのかわからない謝罪すら一ミリも届いていないようだった。
「とりあえず入って、中で話をしよう」
「あ、あぁ」
HIは完璧にのぼせている封筒を引きずりながら、助手席のシートに乗った。
謎の女の子は助手席に座り、執事がハンドル席に座った。
「で、俺らを呼び出した理由はなんなんだ。」
「君たちアモルについて探っているようだね。私も君の手助けになれればいいと思って呼んだってわけだよ。」
「おいその前に、君の名前はなんだ?何者なんだ一体?」
「これは失礼。私は私立ランクマ高校3年生徒会長の雪華。同じくアモルについて色々探っている君の同業者のようなものだよ。」
「3年生!?生徒会長!?」
HIは初めて見るこの学校の生徒会長からにじみ出る謎の殺気に肩をすくめた。
「なるほど。そんな生徒会長様にまず僕から聞きたいことがあるんだけど...」
「いいよ、なんでも聞きたまえ。」
「まず、僕たちをこの前助けたよね。あの時は妹もお世話になったし感謝してる。でもあの時僕たちの目の前で起こったあの不思議な現象は一体なんなんだ?」
以前、HI達の目の前で敵は勝手に仲間割れをし自滅し、彼女は一切手を加えることなく僕たちを助けたことがあった。その時の疑問がHIからは当然抜けていなかったのだ。
「いい質問だね。これは私の能力。洗脳(トゥーソメッション)さ。一時的に相手の脳を洗脳し、支配する。まぁ一種の特珠能力ってやつかな。」
「特殊能力?そんなものがこの世界に存在するっていうのか。それがアモルとなんの関係があるって言うんだ?」
「そうだね。まず、この世の記憶やイメージ、思考、感情というものはアモルという記憶媒体のようなものが深くかかわりできていることは君たちもよく知っているよね。」
「あ、あぁ、なんとなくは。」
「この世には3種類の人がいる。世の中を作り支配する人間。支配され、コントロールされる人間。そして生きることすら許されない、生まれながらに死ぬ運命の人間だ。」
「死ぬ運命の人間?どういうことだ?そんな人がいるはずがないだろ。支配する、されるっていうのは政治批判かなにかか?」
「まぁいずれわかるようになるよ。今はそう思ってくれて構わない。いいかHI君。世の中っていうのは強者と弱者によるバランスによって成り立っているんだ。全員が弱者の世の中はろくに技術も進歩せず、近隣諸国、世界全体に遅れを取り、消えていく運命にあるといえる。逆に全員が強者である世界もいいように思えるかもしれないが、全くの逆だ。強者は常に自分を一番に望む。そこに協力という言葉は存在せず、邪魔なものを殺し、世界を自分のものへと変えたがる。つまりこれも世界の終わりと言ってもいいだろう。いいかい、僕たちの世界はこのバランスによってのみ保つことが許されるんだ。強者と弱者。君もそう思うだろ?」
たしかにそうだ。どんな時、どんな集団においても強者と弱者はいた。学校という集団では、いじめをするもの、されるもの。陽キャとインキャ。会社という集団では、上司と部下。家族においても意固地な父親と子。なんなら男と女の概念すらそうかもしれない。すなわち、世の中は常に上下関係において成り立っているといえるだろう。
「それは理解できるが、その最後に言っていた、消えるべき存在というのはなんなんだ?」
「君は僕たちがどうやってこの能力を手にしているか知っているか?」
「いや、しらねぇけど。特殊訓令とか?そういうのだろ。」
「答えはnoだ。僕たちの能力の覚醒は、もちろん人を選ぶが、ある物を飲むことで得ることができる」
「ある物?なんだそれは」
「それがこれさ。レイ。あれを出して。」
「了解です」
レイと呼ばれる執事は、車の物入れからあるボックスを取り出した。厳重に保管されているそのボックスを慎重に開けていくと。ビンが2つ入っていた。
「これが例のものだ」
そういうとそのビンが見えるようにHIに見せた。
「お、おいなんだこれ!?綺麗だなぁ」
「お、おい起きたのかよ封筒。お前まじでいつもいいタイミングで起きるな。脅かすなよ」
「すまんすまん。相棒。にしてもこれなんて薬品だ?すげぇなぁ」
瓶に入るその薬品はとても透き通っていて神秘的な輝きを見せていた。とてもこの世のものとは思えない、見たことのない液体だった。
「これを飲むとどうなるんだ?」
「言った通りさ、適性があるが、ある能力に目覚める。もちろんアモルに関する能力だけどね。」
「えへへ、俺もう結構すごい透視能力あるしなぁこれ飲んだら相手の恋心まで見えるようになったりしてぇエヘヘッ」
「一回だまれ封筒。それで?これを俺らに見せて何をする気だ?」
「君たちをテストしたいんだよ。もしこのテストに合格したら君たちにこの能力を授かるチャンスをあげよう。」
「まじか!!おっしゃーー透視能力スケスケふぇーーい!」
「それで?その試験ってなんだ?」
「最近、この学校で行方不明事件が相次いでいるのは知っているだろう。」
「あ、あぁあれってハメをはずした馬鹿どもが休学してるだけかと思ってたけど、本当にいなくなってたのかよ、やべえな。」
「君はそんなことだと思ってたのか...危機感がないなぁ。まぁいい。そんなことより君たちにはその謎を解いてみてほしい。」
「謎を解く?どうやってだ」
「私の調査によると、行方を断つ人たちは決まってアモルの量が極めて低い人なんだ」
「アモルの量?そんなのどうやってわかるんだよ」
「ほらっこのコンタクトレンズを君たちに渡すよ」
そう言うと、雪華は僕と封筒にコンタクトケースを投げてきた。
「これはなんだ?」
「これは、まぁスカウターのようなものだよ。これをつければアモルの量がわかる。低い人ほど青く見え、高くなるほど赤くなる」
「なるほど。便利な道具だこりゃ」
「まぁ君たちと長話をしても何も進まないしね、せっかくだけど、試験を始めさせてもらうよ。それじゃ、幸運を祈るよボーイズ。」
そう言うと僕たちは車から下ろされ。走り去っていた
。
「おいまだ昼休みだぞ。生徒会長が五限サボるとか考えらんねえな。この学校どうかしてるぜ、そうだろHI?」
「あ、あぁ。」
薄暗い駐車場に、HIの重いため息の音がゆっくりと響いた。
第9話完