HIDT forever 10話 「蒼い少女」
HIDT forever 10話
「狙われた少女」
〜放課後 1年棟 男子トイレにて〜
「全くどうなったんだよ一体。もしかして俺ら、何か大きな物と戦おうとしてる?そんな予感がするんだが....どう思うよHI」
「あ、あぁ、それはいいからさ。」
HIは呆れた顔をしながら大きなため息を吐いた。
「おまえ、いつまで大便する気だおい。もう20分くらい待ってるぞ」
「隣のトイレ使ってくれよ...今朝食べた賞味期限切れの生卵が当たったみたいでよ..」
「どんくらい切れてたんや?」
「まぁざっと2ヶ月」
「お前、死ぬぞ。」
「ま、まだdtだぞ....」
そう封筒がいうと、ブリブリとありえないくらい大きな異音が聞こえた。この世の終わりと言っても差し支えないその音声はトイレの音姫さえも凌駕した。そして
ゆっくりと封筒はお腹を抱えながらトイレから出てきた。
鏡の前まで行くと封筒はポケットから先ほどもらった、コンタクトを取り出してつけ始めた。
「おい、コンタクトなんてしたことねぇんだけど?これどうやってやんだよ」
「おまえ、コンタクトすらしたことねぇのかよ。しっかりしろ」
その数秒後、案の定HIからも音姫を凌駕する特大のハーモニーが流れた。
「HIお前もか...」
「最近ストレスがな...」
HIは最近の怒涛の疲れからストレスが溜まっており、大好きなポケモンは2シーズンも触れておらず、よく夜も眠れない日々が続いていた。
「とりあえず、ひと段落ついたら一緒にアメリカにでも旅行行こうぜ。」
「なんで、アメリカなんや」
「ビックだろやっぱ、あの国は。いつか行ってみたかったんだよ」
「そうやな。」
二人はトイレでコンタクトレンズをはめると、放課後の学校を歩き始めた。
「す、すげぇこのレンズつけたら人が星の色みたいに光って見えるぜ。」
「星は温度が高ければ青白く見え、低ければ赤く見えるから、このコンタクトレンズは逆だけどな。間違えんなよ。封筒」
「理科の授業かよ。イキんな!そんなことわかっとるわ!」
そして二人はそんなレンズの性能に驚きつつも、アモルの低い(蒼い)人を見つけるため校舎を舐める様に徘徊していった。
2時間経っただろうか。部活動の終わりのチャイムが鳴り始め、日が西の地平線に沈んでいく様子が美しく見えた。疲れた二人は、学校の自販機でワンコインのコーヒーを買い、学校の屋上に行くと、温かな風に吹かれながら校舎を見渡した。
「HI、今日は全然収穫なかったな。」
「あ、あぁ。まぁそんな慌てんなよ。まだ始まったばっかりじゃんか。そんなことよりこのコーヒー美味しいな。この苦さが俺らの後先の真っ暗さを示してるみたいだ」
「かっこいいこと言うなや、気持ち悪い。お前らしくないぞHI」
「ええんや。男なんやからたまには調子乗りたくもなるやろ。」
ちーんこーんかーんこーん
「ん?何だ。放送のチャイムか?」
〜放送〜
『HIさん封筒さん。至急、放送室まで。繰り返します。HIさん封筒さん。至急放送室まで』
「おい、なんか俺ら呼ばれてねえか?」
「おいおい、何で俺ら呼ばれてるんや。なんかやらかしたかおれら?」
「いや、なにって気持ち悪いコンタクトして、学校中を舐めるように徘徊してたくらいだろ。なんも気持ち悪いことなんかないだろ。」
「舐めるようには余計や。それはお前だけや一緒にすんな。」
「仲間だろbrother。こう言う時だけ仲間はずれにすんなよー」
HIと封筒は身に覚えもなく、言われるがままに2年棟にある放送室に向かった。
時間は6時を回り、ほとんどの生徒が家に帰っているため、誰もいない空っぽの教室、廊下を駆け足で通り抜け、放送室へ向かった。
ガラガラガラ
「すいません。HIと封筒ですけど。何のようでしょうか?」
「きたのね。君たち。」
そこには一人の少女とHI達の担任の先生が立っていた。
少女はとても色白で、手入れされた艶のある黒髪はとても美しく、今にも消えてしまいそうな儚さを覚えた。制服のバッジを見たところ2年生だろうか、2年生にしては身長も低いため、少し幼稚にみえた。
「HI、おい。これって」
「あ、あぁ。」
「君たちねぇ!この子が君たちにいじめられたって!」
「おいおい、俺ら何もしてないぜ!この人と会ったのも今初めてだしよ!なぁ?HI」
「そうです。いったい僕らが何をしたんで?」
そう二人が主張すると、少女はとても小さな声で何かを呟き始めた。
「コー....、ワタ...ノ」
「ん?なんだって?聞こえないって」
「おい、封筒やめろ。可哀想だろ」
「コーヒー...私の....」
「コーヒー?何のことや。たしかにさっき屋上で飲んでいたけどよぉ」
「私のお金...あなたが...押した...」
「あ、まさか」
封筒は何かを思い出したようで、急に顔が青ざめ始めた。
「お、おいお前そういえばそのコーヒーどこで買ったんや。俺が違う場所を探してるうちに買ってきてくれたよな」
「いやいや、聞いてくれよ。悪気はないんだ。HIと一緒に飲もうと思って買おうとしたらよ、前に誰か並んでてよ、全然っボタンを押さないからよ。早くしてくれ!時間がねえんだ!って叫んだのよ。そしたらどっかいったから、コーヒー買おうとしたら、お金が1000円も入ってて、日頃の行いがいいんだなって思いながらそのまま買ったんよ。な?俺悪くないだろ」
「おまえなぁ....」
「身長...届かなかった....」
「だってよ。お前のせいだ封筒、早くお金返してやれ」
「そうだな、ごめんよ。代わりにこの少しレアな2000円札をあげるよ、大切にしろよ!」
そういうと彼女は小さく頷き、封筒から2000円札を受け取ると、少しお辞儀をしてその場をスタスタと小走りで離れていった。
「まぁとりあえず解決したならよかったわ。これからは気をつけろよ二人とも。あとお前ら今日ずっと徘徊してただろ学校。きもかったって苦情もきてたからな。ついでに言っておくぞ。じゃ、気をつけて」
先生はキツすぎる爆弾発言を言いのこすと、二人を置いてその場を後にした。
「やっぱそれもあるんかい。」
「あるらしいな。そっちの方がきついわメンタル的に」
「そんなことよりHI。あの子...」
「あ、あぁ。青かったなめちゃめちゃ。てか何でお前は気づかなかったんだよ。自販機の前であったなら気づくやろ普通。」
「いや、すまんて。普通にあのコンタクトウザすぎて一回とったんよ。さっき付け直したけど」
「お前なんのための、捜索だったんだよ..とったら意味ねえだろアホか」
「まぁ、そんなこと言うなって相棒。」
そう言うと、封筒は逃げるようにダッシュでその部屋を後にした。
そして残されたHIはあの子が今回の試練の対象だと言うことを確信した。そして、彼女にこの先何が起きるかを考えると少し寒気がした。HIの直感が、今後起きるであろう事件の危険さを警告してるような、そんな感覚だった。
「俺も帰ろう。明日からはあの子の尾行やな。
てかこれ犯罪じゃねえか。大丈夫なんか。」
自問自答するHIを嘲笑うように、平日の夕方、烏の声が不吉に響いた。
ー10話完ー