HIDT forever第5話「彼女の秘密〜始まり〜」
HIDT forever 第5話
「彼女の秘密〜始まり〜」
〜serena1階〜
「ふふふ、ごめんねHIくん。安心して、もう危険じゃないから。」
彼女はそういうと、どこからか取り出したナイフで杭に縛りつけられた紐を切り始める。
「おい、どういうことだよ。何が何だかわからない。さっきの男はなんだったんだ?」
彼女の冷静さとは反対に僕の頭は混乱し、頭の整理が追いつかない。彼女は一体何をしているんだ。
「びっくりさせちゃったね、あの人はここのマスターみたいな人で、あなたをここに誘き寄せるために一芝居打っちゃったってわけ....
本当にごめんね。」
彼女は僕たちのロープをナイフで切り、ボロボロになったロープを巻きながら淡々とした口調でそう語る。
「なぜ、そんな芝居を打つ必要があった?」
僕はケツについた埃をはたきながらそう問う。
「それはね....」
バンッ!!!
突然店の扉が大きな音を立てて開いた。
「おい!さっきの男はどこだ!封筒様がぶっ潰してやんよww」
そこにはどこから持ってきたか分からない木のバットとヘルメットを被った封筒が立っていた。
「おまえ、何してんだ?」
「いや、さっきHIがいたからよ、着いて行ってたら、さらにそのHIがこの前の女の子のこと着けてたから怪しいなと思ってな!抜け駆けはゆるさねぇよww」
こいつは本当にアホなのかもしれない。
でもそんなアホな封筒を見ていると、無駄に緊張していた自分もアホらしく感じた。
「君たち、本当にいいね(笑)君たちなら・・・」
彼女は何か僕たちを試したように感じた。その理由は分からない。彼女の声から直感的に感じた。
「封筒、あの男なら俺が殺っといた、一足遅かったな。」
「なに!?お前そんな強かったんか......女の子にいいところ見せやがってよ...」
その封筒の悔しそうな表情は、障害物競走で転んで負けた小学生のような顔で、真に悔しがっている様子が見てとれた。
「そんなことより、話を戻そう。君はなんでそんなことをしてまで僕を呼んだんだ?」
僕は彼女に向かって真剣な顔で尋ねた。
「君はさ、一度会った人のことは必ず覚えているタイプ?」
それは唐突な質問だった。しかし彼女の声色は至って真面目で、とても冷やかしているような言い方ではなかった。
「あんまり記憶はよくないからな。よほど大切な人じゃない限りは覚えてないかもな。」
「ふーーん。そうなんだ。大切な人ね。じゃあ君にとっての大切な人って誰なの?」
HIは少し戸惑った。自分にとって大切な人。
この質問はとてもお母さんや、お父さんといった極めて当たり前な答えを求められている気はしなかった。
「まだいない。かな....。」
HIからしたらこの答えが限界だった。
「そうなんだ....。」
彼女のその寂しそうな声は僕の心の奥に何かを訴えかけている。そんな気がした。
「信じてもらえないかもしれないけど....。」
彼女はそう言って長袖の服をまくった。
「!?」
そこには超肌白、という表現では表せないくらいに白い、今にも消えそうな彼女の皮膚があった。
「どうしたんだそれ....。ほとんど消えかけているじゃないか」
「この世界にはね、アモルって言う人間の存在の核みたいなものがあるの。」
「アモル?なんだそれ。聞いたことないぞ」
HIは彼女の話の意図が分からず動揺する。
「当然だよ。普通なら気にならないし、基本的にその人から離れることも消えることもないの。でも君にも確実にアモルはあるんだよ。」
「それが君のそれとなんの関係があるんだ?」
「人は何個かのアモルから形成されているんだよね。このアモルが全て亡くなった時。その人は元々この世の中にはいなかった人。つまりどの人の記憶からも消えてしまう。存在の消滅そういえば理解してくれるかな?」
非現実的な話すぎて普通なら理解できないだろう。
しかし、彼女の顔は真剣そのもので、症状を見るにも、なにも疑う余地はなかった。
「私はこのままだと一年以内にはこの世から消える。そのくらい私の中のアモルは欠如してる。でも君なら、私を救ってくれるって、そう思って....」
彼女の声に元気がなくなっていくのを感じた。
「なんで僕なんだ。僕なんて、dtで特に取り柄もないし、こんな物語の主人公みたいなのを任せられれような人間じゃないと思う....」
なぜだろう。僕のなかでの思考は追いついていないのに、彼女の話を切り捨てられない。僕の直感がそのように言っている。
「知ってる?物語の主人公っていうのは。カッコよくて頭がよくて、先天的な才能がある、いわば天才みたいな人じゃないんだよ。君たち一人一人が君という名の運命の主人公。それに優劣なんてあるわけないでしょう。」
僕は彼女がいきなりそう語る理由がわからなかった。しかし彼女の顔は見えないが、その視線からはとてつもない真剣さが感じられた。
「あぁ、、がたがたいうなよ!!HI!お前男やろ?女の子が助け求めてるんだからdtとか何も関係ないだろ!!目覚ませ!」
封筒はそう言ってぼくの背中を強く叩く。
「わかったわかった。協力するよ」
僕の返事を聞いた彼女はどこか嬉しそうな表情を浮かべたような気がした。
「それで?もっと詳しく聞かせてくれよ、そのアモルってやつを」
馬鹿な封筒が珍しく興味津々な顔をしてそう言った。
「アモルについては様々な説があって、いまだに私たちにも詳しいことは分かっていないの。なぜ私のように消えてしまう人がいるのか。どうやったら治せるのか・・。
でも一つの説ではアモルは愛そのものだと言われているわ。愛で病気を治すなんて都合のいい話に聞こえるわよね。」
「愛?どうやって愛なんて捕まえて君に渡すんだ?僕はもう君が好きだけどねwww」
相変わらず封筒はきもい。
「あぁ、それ聞くとどんどん消えていきそう...そういう不要な愛はもう口に出さないで封筒君」
「えぇ....ひどいなぁ」
封筒はとてもショックを受けたのか下にうずくまり木の板の数を数え始めた。
「それで?アモルはどうやって集めるんだ?」
「私にもよくは分からない。でも愛が関係していると私は信じているわ」
「愛か...なんでキーがそんなに中途半端な概念みたいなものなんだ。しかも、それに関しては疎いから協力できそうにないしな。」
「それでさ、こんなこと言うはあれなんだけど、HI君が良かったらさ、私と擬似的でもいいから付き合ってくれないかな。そうすればアモルについて何かわかるかもしれないし...」
これは初めての告白だった。
いままでの人生でいくら望んでも一度も訪れなかった最強のイベント。まさかこんな唐突なタイミングで訪れるなんて神ですら予知できなかったに違いない。
「え、お、俺?そ、そんなんで何か変わるの?」
「いいから、いいから!お願い!」
いままでの口調とは裏腹に唐突に元気で明るい口調になった。本来の彼女はとても明るい人なんだろう。そう感じた。
「わかったわかった。俺にできることなんて限られてると思うけどなるべく頑張るよ...」
「やった!ありがとう!!!」
彼女はそういうと、消えかかった拳を上に挙げながら飛び跳ねて喜んだ。
彼女がなぜ僕を選んだのかはわからない。
彼女の顔はサングラスに覆われていて、帽子を深く被っているためよくわからない。
もしかしたらアモルの影響で顔自体も消えかかっているのだろうか。
僕はこうして謎の少女との擬似彼女ライフが始まった。これを彼女と言うのかはわからないが。初めてできた彼女と言う存在に少し心が躍っているように感じた。
完
HIDT forever 第4話 「彼女の秘密〜序章〜」
HIDT forever 第4話
「彼女の秘密〜序章〜」
5/1(土)
新学期が始まってからしばらく経ち、高校生活も少しずつ慣れ始めてきた。
友達との出会い。学校帰りの落ち着ける場所。
少なくともこの二つは高校生活を謳歌する上でとても大切な要素だと思う。
この二つを得た僕はすでに自分基準での最低限の高校デビューは成功していると思った。
「あとは女子との出会いさえあればなぁ....」
切実な願いが早朝のHIの脳裏によぎる。
リビングに出ると、妹が珍しくテレビに釘付けになっているのが見えた。
「朝に、お前が好きな番組なんてやってないやろ。何を見てるん?」
「HIにぃ!見て見て。この近くで強盗が起きたっぽくて、犯人がいまだに逃走中らしいよ....私が絶対捕まえなきゃ!!」
流石小学生。その圧倒的正義感が危険と隣り合わせなことをまだ彼女は知らないのだろう。
「まかせときぃ、僕が見つけたら絶対捕まえてやるから👍」
自分らしくもない言葉だった。最近アニメの見過ぎで少し厨二感が抜けていないのだろう。
「さすが、HIにぃ!困ってる人がいたら、絶対助けてあげてね!私との約束!!」
子供は楽観的でいい。本当にそんな状況が訪れたら、たとえどんなに大切な人と一緒にいたとしても、僕は一人で逃げしてまう自信がある。
これは僕が最低な人間だからではなく、人間がそういった生き物だからだ。
「お兄ちゃんは強いからな....」
ボソッと呟いた。人は自分を強く、かっこよく見せるために年下に対してはいい気持ちになってしまう。そういうものだ。
せっかくの土日だ。あのカフェにでも行って少し気分転換でもしよう。
そう思い立つと、HIは重い腰をあげ、家のドアを力強く開けた。
休日の外出。これがら友達と....女の子との約束なら、どのくらいの強さで家のドアを開けられるだろうか。
きっと家のドアだけじゃなく家ごと丸めて吹っ飛ばしてしまうような気がして、想像するだけで恥ずかしくなった。
いつもの道を10分ほど歩き、右手にみえる細い道に入ると、遠目に「serena」の看板が見えた。
「ん?」
店の看板の前に立っている人が見えた。黒い帽子にそこからはみ出た長いロングヘアーはとても綺麗で、つい遠くからでも見惚れそうになった。
「あ、あの時の....」
HIはカフェに初めてきた時に出会った、謎の少女を思い出した。謎の運命観を語り僕に話しかけてきたあの謎の少女。
今日もいるなんて相当な暇人だ。
そんなことを考えていると、後ろから猛ダッシュで走ってくる何かの足音が聞こえた。
「どけぇ!」
ハイは突き飛ばされ、その場に頭から転げ落ちた。
「痛え....」
なんなんだ、あいつは。
ハイは体制を立て直し、前を向く。
ドサッ....
目の前を見ると俺にぶつかってきた大男が、彼女の手を取りこちらに何かを向けているのが見えた。
「おい、そこのお兄ちゃん。こいつを傷つけられたくなかったら。今すぐ携帯を捨ててこっちにこい。今からここに立て篭もる。」
HIはぶつかってきた人物が今朝ニュースでやっていた強盗だとすぐに分かった。
そして、今が朝言っていた命がかかっているピンチ。犯人とは多少まだ距離がある、おそらく今、全速力で走り、大通りに出れば自分は助かるだろう。
とっとと逃げたい。逃げるべきだ。全身から汗が出る。
こんな時、今朝、妹が言っていたことが脳裏に浮かぶ。そしてあの時聞こえた彼女の声。いろいろなことが頭の中に充満し、僕の足を後ろへと行かせない。
「逃げて..!」
遠くからでよくわからないが、彼女の口がそう動いた気がした。俺だって逃げたい。死ぬほど逃げたい。でも君が......
僕はゆっくりと手をあげて歩き、犯人と女の子がいるカフェの目の前まで歩いた。
「ここを開けろ」
犯人は黒い帽子の彼女にそう言った。
彼女は右ポケットから鍵を取り出し、ドアを開けた。
HIはこの時この彼女がこのカフェとなんらかの関わりがあることを知った。
「そこのカウンターでじっとしておけ」
犯人は僕と女の子に手錠をかけ、古い木の杭に縛りつけ、2階へと上がっていった。
「生きていて本当にこんな状況になる時があるんだ....」
HIは気づいたら本音を垂らしていた。
HIが途方に暮れていると、隣からくすくすと笑い声が聞こえた。
「どうしたんだよ。なんかおかしいか?今まじでやばい状況だと思うんだけど....」
「いや、逆にこんな状況での第一声がそれだなんて、変わってるなって思って」
彼女はくすくす笑いながらそんなことを言い始めた。こいつはどこか頭がおかしいのか、それとも本当に僕の頭がおかしいのか....もうなにも分からなくなってしまっていた。
「こういう時は状況把握や」
HIは落ち着いて周りを観察し始めた。
この書店は4階建てらしい。目の前のフロアガイドのようなものに書いてあった。
一階にカフェのようなスペース、2階.3階.4階にはおそらくたくさんの本がおかれているスペースがあるように思えた。
「君はここのカフェの管理人とかなの?」
彼女は下を向いて声を出さなかった。
何か隠している....彼女の目は見えないが、僕の長年の勘がそう言っているように思えた。
ー続くー
HIDT forever 第3話「運命の人」
HIDT forever 第3話
「運命の人」
「お兄ちゃん!朝だよ!」
妹の甲高い声が、今日も僕の部屋に響き渡る。
昨日の徹夜がなかったら最高の目覚めだ。
「くだくだしないで!学校遅れちゃうよ!HIにぃ(hi兄)!」
「わかってるわかってる...。今日も起こしてくれてありがとな。」
そっと妹の頭を撫で、酔っ払ったような千鳥足で洗面台に向かう。
「昨日はずっとポケモンでねれんかったからな。んーー。構築どうするべきか。」
HIは昨日、直近に備えている大会に備えてポケモンの調整をしていた。そのため、部屋には大量のエナジードリンクの缶と、致した時のティッシュが部屋に乱雑に置かれていた。
「ちっ、妹に見られたら教育にわるいか。」
そっとティッシュと散らばった缶を片付ける。
「行ってきます。」
いつも通りの道。いつも通りの景色。
学校生活3日目で、流石に近くの店や道にも慣れてきた。
家から出て10分くらい、国道を歩いていると、裏地に小さな書店が見えた。
「あんなところに書店か。帰りに寄ってみるか」
ハイは昔から本を読むのが好きで、上京する前に関西に住んでいた頃、よく一人で図書館に立ち寄り、同人誌やポケモン図鑑を読んでいた。
学校につき、席に着くと。昨日の疲れが一気にハイに襲いかかってきた。
目の焦点が定まらず、授業の黒板の文字も全て霞んで見える。
「おい、HI大丈夫か?顔色悪いぞ。」
隣の席の封筒が気になって声をかけてきた。
「すまん、昨日ポケモンで色々あってな」
「わかる、最近はランクマ自体に面白みが見出せない。」
「いや、ランクマは楽しいねんけどな....」
ハイは疲れからかこれ以上封筒に対して言葉が出なかった。
たしかにランクマッチには常に運が付き纏うし、やっているとストレスしか感じない。
でも僕らはやり続ける。それに理由が見出せなくても、それは人間の本能。つまりは人間の3第欲求とは別に4つ目の欲。多分それに値するのだろう。
4限が終わり、ハイは教室の外の空気を吸おうと、教室を出る。
朝の時と変わらず、目の焦点は定まらず、力がうまく足に伝わらない。
「まずい......」
そしてハイはその場に倒れた。
ー保健室ー
「おーーーい。ハイ大丈夫か?」
封筒の声が聞こえる。
最悪の目覚めだ。今朝みたいに可愛い妹に起こしてもらいたいものだ。
「封筒か、助けてくれたんだありがとう。」
「いや、俺が助けたわけじゃなくて、俺はただ保健委員として面倒を見ろってせんせーに言われただけだよ。」
「ん?じゃあ誰が俺のことを助けたんだ?」
「え?お前が知ってるんじゃないんか?」
全く身に覚えがない、あの時倒れて、気づいたらこのベットに横たわっていた。
「そういえばここに来る前に黒髪の女の子が保健室から出てきたような。」
この保健室は校舎とは少し隔離された別棟にある。
そのため相当大事な用がない限りは、あまり来ることはない。
ましては女の子が一人で暇つぶしに来るような場所ではない。
「その子も俺みたいに徹夜明けなんかな。まぁいいや、ありがとな。」
「困った時はお互い様な👍」
人を助けて気持ちがいいのだろう。
封筒の目は普段よりも輝いていてなんだか可愛く思えた。
「封筒、放課後空いてるか?行きたい店があってさ。」
「おっ、今日は全然空いてるぞ!」
「そ、そうか。ありがとう」
そう言い残すと、ハイはゆっくりと目を閉じた。同時に、封筒は疲れからか、くろちゃんもびっくりのいびきをかいて寝ているHIに若干の心配を抱いた。
「相当疲れが溜まってたんやな」
封筒はゆっくりと保健室のドアを閉め、その場を立ち去った。
そうしてHIは5.6時間目は大事をとって保健室で過ごした。
ー放課後ー
放課後、封筒が保健室に向かいにきてくれた。
そうして僕たちは今日の登校中に気になっていた書店に向かうことにした。
「ここだよ。登校中に気になってて行きたかったんだよね。」
「おお....なんでこんな目立たないところに書店があるんだ。」
大通りを右に曲がると細い道があり、そこの突き当たりにあるその書店には、「Serena」とかかれた看板が立てかけられていた。
中に入ると意外にもしっかりとした作りになっていて。向かって左側は木のカウンターとカフェを飲むスペースがあり、右手にたくさんの本が並んでいた。
僕はカウンターの一番左の席に腰掛けて、ブラックコーヒー。封筒はなぜかリンゴジュースを頼んだ。
カランッ
「いらっしゃいませ〜」
誰かが店に入る音が聞こえた。
僕ら以外客がいないような小さな店だ。
こんなところに来る物好きも僕ら以外にいるもんだな。ハイはそう感じた。
「ちょっと、隣いいかな?」
その声は高く透き通っていて、とても耳障りのいい声だった。
「いいですよwでへっ....w」
封筒の何かのセンサーに反応したのか、とても気持ち悪い反応を示している。
彼女は黒い帽子を深く被り、黒いサングラスをしているため、顔がうまく判別できない。
艶のある肌に、すらっとした体型から、彼女がとても美しいということは、女経験のない僕でもわかった。
「君は運命ってあると思う?例えば恋愛なら運命の人とか!」
それは僕に対しての問いだった。
僕はいきなり話しかけてきて、初対面でそんなことを言う彼女にとても困惑した。
「僕に聞いてます?」
「そうよ。あなたしかいないじゃない。」
たしかに。隣にいるのは変態の封筒。
到底恋愛の話ができる相手ではない。聞く相手は僕くらいしかいないか。
「そうですね。運命なんてないんじゃないんですか。少なからず恋愛は、、。」
僕の返答は適当だった。
短い僕の恋愛経験から計算すると、運命なんてものがあるなら、そろそろ僕の目の前に来て欲しいと思ったからだ。
「そうなんだ。私は運命ってあると思うの。」
彼女は小さな声でそう呟いた。
「運命ってね、小さくて恥ずかしがり屋なの。だから主観的にみるとなかなか気づけないものなの。君はそんな恥ずかしがり屋で小さな運命すらも信じて、手にできる?時には運命を敵に回して戦う覚悟はある?
運命を掴める人、掴めない人の違いって、常に人生を全力で生きている人。周りのせいにせずに自分と真剣に向き合っている人。私はそういう人だと思うな.....運命はいつも君の隣にいるし、君に試練や愛を与えるはずだよ。
変な話してごめんね初対面なのに!じゃあ!」
彼女はその言葉を残し足早にその場を後にした。
彼女の声はとても真剣で、最後のほうはかすれていた。
それは単に喉が痛かったわけではない。
涙に包まれた、そんな言葉に思えた。
HIは今まで生きてきた16年、運命という言葉を意識したことも考えたこともなかった。しかし実際世の中には様々な運命がある。いい運命もあれば、もちろん悪い運命もあり、僕ら人間に容赦なく襲い掛かってくる。恋愛でいうなら運命の人。それはビジネス、親友にも同様に使える言葉であろう。ほかにも、とある病気になり死期が迫る運命。誘拐され脱出を試みる運命。こんな運命は誰もが逆らいたくなるものだろう。
そんなときHIは昔父親が話していた言葉を思い出した。
「生きてりゃ悪い運命もあり、いい運命もある。いい運命を逃すな、必ず味方につけられるはずや。悪い運命とは裸で戦おうとするな、好機から手にしたその武器で戦ってみぃ?必ず打ち勝ち、かけがえのない成果を上げられる。悪い運命も打ち勝ちゃおまえのものや。」
父親の真意はよくわからない。
今のHIには大きすぎる。そのように感じた。
完
連続小説HIDTforever 2話「君の名前を聞かせてよ」
HIDTforever
2話 君の名前を聞かせてよ
〜4月7日〜
昨日は散々だった。
眩い朝日がカーテンから溢れ、まだ完全に覚めきっていない僕に今日という日が来たことを告げる。
学校初日を終えたHIはどこにもなく気分が落ちていた。友達は当然まだできていないし、クラスに馴染める気もしていない。不透明な感情がHIの心の底を暗闇へと引き摺り込む。
「また中学の時みたいに.....」
HIの目頭が熱くなる。
これは中学校の話だが、僕にも唯一好きだった女の子がいた。僕はバドミントン部に入部していたが、あまり上達できず、気づいたら部活もサボりがちになっていた。
僕の部活にはマネージャーが3人いた。
内二人は僕にはとても厳しく、水の代わりに友達の検尿を渡してきたときは、思いっきり額を殴ってやったこともあった。
そんな僕にも唯一優しかった彼女。優しい笑顔に、整った鼻筋、綺麗な黒髪のストレートヘアー。僕にとっては女神のように思えた。
「名前は.....たしか...」
頭痛が走る。彼女との思い出を思い出すと、なぜかいつもこの原因不明の頭痛が僕の邪魔をしてくるのだった。
今日も一人、賑やかな大通りを慣れない革靴を引きずりながら一歩一歩進んでいく。
「今日は、自己紹介があったっけな。」
自己紹介とは学校生活2日目あたりに出現する緊急イベントの一つで、この自己紹介で下手なことをすると一生話のネタにされることもある。何を話すべきか、HIは通学路をゆっくりと歩きながら、それだけを真剣に考えて教室に向かった。
1限はホームルームだった。
まだ二日目なので授業はなく、この時間にたくさん友達を作るようにという先生の粋な計らいらしい。
「みんな、改めて入学おめでとう。君たちに会えて嬉しいよ。せっかくだけど、自己紹介をしたいから右の手前の席から順番に好きなことを話してもらっていいかな?」
始まった。絶対にミスは許されない学校生活最初の難関だ。
「では、秋山さんからお願いします」
こうして自己紹介が始まった。僕の名前はHIなので出席番号で言うと後半の方だった。
(みんなの話を聞いて合わせよう)そう思った。
「それでは封筒くん。よろしく。」
「封筒です。趣味は公園で幼女を観察することで、無論dtですw えへっww」
滑っていた。完璧に滑り散らかした。
おそらく彼に悪気はない。最初にウケを狙って陽キャラ感を出して、一気にたくさん友達を作ろうとでも思ったのだろう。
彼はもう救えない。クラス全員がそう悟った。
封筒が終わってからは、緊張で人の話をろくに聞けないまま、気がついたらもう僕の手前の席まで自己紹介が終わっていた。
「じゃあ、 さんお願いします」
僕の目の前で整ったストレートの髪が靡く。
とてもいい匂いがした。
甘い香り。僕はこの匂いになにか懐かしさすら感じた。
「こんにちは。中学の時から病弱で、あまり外で活発には動けません。友達たくさん作りたいです。短い間ですがよろしくお願いします。」
僕は彼女の声になぜか気持ちよさを覚えた。
これが一目ぼれという奴だろうか、新学期二日目からなにを考えているのだろう。
というか短い間ってなんだ。2年間は同じクラスだろ。
「じゃあ、次はHI、HI!、おい聞いてるのかHI!」
「あっ、はい!!」
世界一キモい声と一緒に僕の自己紹介は始まった。直前の女の子に抱いた感情に惑わされ直前までずっと考えていた自己紹介が全て飛んでしまった。
「HIです。童貞卒業したいっす」
それは切実な願いだった。
クラスの誰も笑わない。
しかし彼女の肩は小刻みに揺れているのが見えた、僕の言葉に対しアホだと思って笑っているんだろうか。
なぜだろう。後ろから見た小さの彼女の背中はとても優しい笑い方なようにも感じた。
ー完ー
連載小説HIDTfoever 1話「終わりのない道はない」
HIDTforever
第一話「終わりのない道はない」
童貞に始まりがあるならば、必ず終わりはある。それが人生の終わりと共に来るか、それが女の子と一緒に来るかは分からない。卒業という2文字を聞いた時思う感情は、人によって様々だ。
一年の入学式。
僕はあの日誓った目標を今でも忘れない。
DTと蔑まされた、あの日常。全てが僕を変えるきっかけに過ぎなかった。
あの日から三年の月日が経った今。まっさらな原稿用紙を目に、使いすぎてボロボロになったペンを握りながら、一文字一文字確実に、僕の思い出を書いていく。
これは僕が高校生活を通して経験した、長い3年間の物語だ。
〜4月6日〜 入学式
「HI〜!学校行く時間よ!高校からはちゃんと行くんでしょ!とっとと準備しなさい!」
お母さんの声が小さなアパートの一室に響く。
僕の家族は父親が単身赴任でアメリカに出張。
今は10歳の妹とお母さんの二人で暮らしている。
僕は昔から人見知りの性格のためかあまり友達ができず、ネットでしかイキれないガチのインキャだ。中学の時は基本的に毎日小説を読んでいたし、あまり活発的なタイプとは言えないだろう。
そんな僕にも趣味はある。
それがポケモンだ。毎日のようにリアルでは到底無理な孵化厳選に没頭し、ランクマッチに潜っている。あまり強いとは言えないが、なぜかずっと続いている唯一の趣味だ。
ポケモンから学んだことはあまりないが、冷静に考える力、最終日潜るメンタル、諦めない心。他の人と比べて突出してるのはそのくらいしかない。
「お兄ちゃん....顔死んでるよ?今日が初日なんでしょ!しっかりしなきゃお友達たくさんできないよ!」
「うるせぇ、余計なお世話や。でもありがとな」
妹はいつもこうやって僕を心配してくれる。こんな兄の元でなんでこんなにいい子に育ったんだろう。カイオーガドサイドン対面で大雨の中ドサイドンがが突っ張るくらい意味がわからない。
僕は重い腰を上げてベットから出て、新品の制服に腕を通す。
新品のためか袖が余ってしまってあまり見栄えが良くない。普段ならあまり気にしないことだが、初日ということで少しは気になってしまう。
「行ってきます...」
寝起きで元気がないわけではないが、太みのない弱弱しい声が部屋のドアに響いた。
新学期ということもあり、たくさんの高校生が道を歩いている。
すでに何人かで集まって登校している人、ヘッドフォンをつけながら一人で登校しているひと、男女二人で登校してる人....。
「僕はどのようになるんかなぁ。」
今の自分からはこの先にどのような未来が待っているのか一才わからなかった。
新しい学校に着き席に着く。
周りを見渡すと、もうところどころグループができてるいるように感じた。
「とりあえず隣の子に話しかけてみるか」
「ねぇ、君、おれHIっていうんだ。よろしく。
君はなんていうの?」
「あ、あっ、、。俺は封筒。dtなんだよねよろしく」
そんなことは聞いていない。こいつはかなりの変わり者だということに僕は気づいた。
「そうなんだ。いや俺もだからさ、そんなに下向きに言うなよ。もっと誇ってもいいと思うぜ、まだ高校生なわけだし」
「お前はこのままDTでいいと思ってるの?
俺は嫌だ。人生は一度きりだし、人間の3代欲求は食欲、性欲、睡眠欲っていうだろ?」
「まぁそうだけど、、。」
僕はこれ以外の反応が出なかった。たしかにあまりdtについて考えたことはなかったからだ。
それが恥ずべきことなのか、恥ずべきことではないのか。
そもそもdtというのは誰が作って、なぜ卒業することが、人生の分岐点として用意されているのか。まずはそれを理解することが、卒業の第一歩なのかもしれないとも思った。
「今日は一緒に帰ろうや封筒。」
咄嗟に声が出てしまった。
「すまんwこの後、用事があるんやすまんなw」
僕は男にすら振られた気がして気分が悪かった。初日ということもあってあまり気にはならなかったが、こいつとはこの学校生活で何かとお世話になりそうな、そんな気がした。
「今日は一人で帰ろう。」
賑やかな大通りを一人で帰る。
最悪な新学期のスタートだ。
ー1話完ー