HIDT forever 12話 「クッキーと約束」
HIDT Forever 12話
「クッキーと約束。」
ー某所 50階VIP 宅ー
ピンポーン ピンポーン
激しいインターホンの音が広い部屋に響き渡る。おそらく下で気絶していた封筒が起きてきたのだろう。そうHIはすぐさま理解した。
「おい、HI!お前あけろ!あんなところで気絶したまま放っておきやがって....。人間じゃねぇなぁ!」
「すまんすまん。彼女から色々聞いていてな。」
「お前...また抜け駆けかよ!俺にも少しは分けてくれよ😭」
封筒はまた自分抜きで色々な話が展開されていることに対して不信感全開の顔を浮かべ、その場で赤ちゃんのようにくずり出した。
「えぇぇ!!」
封筒はHIから彼女の家族のこと、病気のこと、さまざまなことを聞いた。
「つまり、君は私立ランクマ学園生徒会長の娘であり、一年前からアモル欠乏症の症状が出始めたと。」
「そう...」
彼女はか細い声で封筒の質問に答えた。
「さらには親は官僚で、ある日を境にほとんど家には帰ってこなくなり、帰ってきても妹の君には姿を見せなくなったと。」
彼女はゆっくりその場で頷いた。
「こりゃまた大きな事件の匂いがするなHI。あいつ自分の妹を試練の対象にして一体何がしたいんだ?」
「俺にもよくはわからん。でも何かあいつには隠していることがある。それはこの妹さんも知らないような何か大きなことを。」
「.....」
彼女は一言も喋ることなく、一人でに部屋のキッチンへと姿を消していった。
「おいHI。そんなことよりお前なんか変なことはしてねぇだろうな?」
「変なことって?」
「そりゃまぁ。あれだよ...。」
封筒はまた何かしょうもないことを言いかけたが、状況も状況だということを察したようで、途中で言葉を詰まらせた。
「そんなことよりこれからどうするよ?俺らの試練の対象はまず彼女に間違いはなさそうだよな。でも、彼女を守る?っていうのは一体どういうことなんだ?」
「俺にもよくはわからん。」
最近というもの、なぜこんなにも大きな事件に巻き込まれ、色々なやつらに絡まれているのかが分からなくなる時がある。
僕はあの時Serenaで出会った少女への謎の違和感が忘れられない。終いには僕の彼女になったということもあり、彼女を救う(特にはアモル欠乏症についての真相を掴む)ことで何か僕のモヤモヤしている真相が解明されるような気がする。多分このような心理背景なのだろう。
彼女はなぜか姿を消したが、調査をするにつれて、この病気がかなり身近にも存在していることを実感している。
実際目の前にいる彼女もその病気であり、いわゆる特殊能力を持つ人達もここ数日でたくさんいた。
HIは思考を整理した。
自分の目的を見失わないように。
自分が自分でいられるように。
「おーーい。H I!いきなり黙ってどうした!あの子がこのクッキー作ってくれたぞ!」
「あ、あぁ、すまん。ちょっと思考を整理しててな。」
目の前のテーブルには可愛いクマのクッキーが置かれていた。こんな可愛い子がこんな可愛いクッキーを作ってくれるなんて、正直夢心地だった。
「なんだそれ!お前らしくないぞ!なんだ思考整理って!やっぱ行き合ったりばったりの全力投球だろ!」
「お前はそれでいい。それでこそ俺らがタッグである意味がある。」
「どういう意味だよ!褒めてるならまぁいいけどな!」
封筒はわかりやすく照れ、彼女の作ってくれたクッキーをバキバキと食べ始めた。
「話を戻すが、実は俺たちは君のお姉さんに君を守るように言われたんだ。」
「お姉ちゃんが... なんのため?」
彼女の質問は至極真っ当だった。
「それは俺らにもよくわからない。なぜかそれがアモル欠乏症の鍵になるような気がしてるから従ってるんだ。まぁ君にもこんなに良くしてもらったら、僕らのできることは最大限したいしね。」
「あり...がとう。」
彼女も表情が顔に出やすいタイプなのか、わかりやすく顔と鼻を赤くして下を向いた。
封筒はHIの分を一つ残し、残りの分を全て平らげた。
HIは残りの一つをゆっくりと食べ、紅茶を飲んだ。なんだか心が温まるようなそんな味がした。
「また作ってや。」
「うん!」
今日一番の元気のこもったその声に、彼女の元気さを感じHIは少し安堵する気分になった。
「じゃあ帰ろや封筒」
「そうやなー。おいしかった!ありがとう!」
「また...きてね...」
「そうやな。またクッキー作ってや。」
HIの彼女はそう約束を交わした。
すっかり日は暮れ、あたりは真っ暗になっていた。H Iと封筒はお礼をし、その場を後にした。
「あんな子が欠乏症だなんて、本当に理不尽な世の中だよなー。きっと前世で人100人くらい人殺したんだろ...」
「いやいや、そういう問題じゃねぇやろ。誰もが他人には言えない悩みを抱えてるとはよくいうが、彼女の場合は相当に深い闇がありそうやな。」
「俺はこの通り、闇のない透き通った人生だけどな!」
「なにいうてんねん。お前ほど汚れた人生のやついねぇよ」
「それはHIもそうなんだろう!?」
HIは言葉に詰まった。特に病気にかかっているわけでもなければ、家族内で仲が悪いわけでもない。友達も普通にいるし、十分充実した生活を送っていると思う。
「俺にもやっぱりあるんかなぁ。気づいてないだけで」
「さぁな。人間ドッグにでも落ち着いたらいくか?」
「お前は精神的に異常ありって言われそうないけどな」
「うるせぇ...!」
こんなたわいもない会話も、普通にできなくなる時ってくるのかな。そんなことが起きたら自分はどうするんだろう。HIは少し頭の中で考えながら、その日封筒と別れたのだった。
ーHI家ー
「HI兄ー」
「ん?どうした。」
HIの妹は嬉しそうにランドセルからテストを取り出し、HIに見せた。
「みてこれ!99点!すごくない!漢字たくさん覚えたの!」
「お、いいじゃん。偉い偉い。お兄ちゃんの自慢の妹や」
「ちなみに残りの一点はどこを間違えたんや。」
「うーーん。この(優しい)ってかんじのところににんべんをつけ足し忘れちゃった...」
「おいおい、それじゃただの憂いって意味で、真逆の意味やないかい。優しいは、憂に人が寄り添うって意味でその漢字なんや、覚えておきい。」
「うん!ありがとう!次は100点取る!」
「おうよ。」
嬉しそうな妹はテストを大事にファイルにしまい、お母さんと夜ご飯を作る手伝いに行った。
「ふぅ」
HIは連日の怒涛の日々で疲れが溜まっていた。最近は疲れからか、家に帰ってもすぐに寝てしまうため、趣味のポケモンにも全然熱が入っていなかった。
「ポケモンか...」
以前のHIはポケモンのない生活を考えることすらできなかった。しかし最近はポケモン以上に人生をプレイしている。
「人は人生の充実と共に少しずつポケモンから離れていくんかぁ」
HIはスイッチを充電ドッグに戻し、目を閉じた。
(翌日)
「昨日はよく寝たなぁ。気づいたら夜飯すら食い忘れてたわ。」
HIは昨日の私服のまま寝落ちしている自分に驚きながらも、学校の支度を始めた。
今日は県民の日らしく、学校が休みということもあり、妹と母親は朝6時を過ぎても起きる気配がなさそうだった。
HIは一人で昨日のあまりのご飯をあたため、卵と納豆、細かく刻んだ九条ネギをトッピングし、胃の中に駆け込んだ。
「これが完全栄養食の朝食なんよなぁ。」
HIは急いで食器を片すと、教科書を詰めて、バッグを背負い、家を出た。
いつもの通学路を歩いていると、前に例の妹がいるのが見えた。
「これは、喋りかけていいものなんかなぁ。いやでもこれでそんなに仲良くないよね?とか言われて引かれたら最悪よなぁ。」
HIは女慣れを一切してないこともあり、こういう時の正しい行動がわからないでいた。
「おい、HI何やってんだ。気持ち悪いな」
「なんだよびっくりさせんな。封筒!」
封筒は少し後ろをつけていたらしく、HIのぶつぶつ呟いていた独り言を盗み聞きしていたらしい。
「なにが、これはいくべきなんかなぁ!だよ。HIおまえ。いつまで経ってもそんな消極的な男子はモテないぞ。」
「お前には言われたくねぇ!」
「まぁ俺も全然声かけられんかったからうじうじしてたら、お前もそんな感じで跡つけてたのを見つけて、その跡をつけてたんだけどなw」
「お前キモ。通報すんぞ。」
「その時はHIと一緒だけどな。」
「たしかに」
二人はそんな童貞トークをし、二人で朝っぱらから声を出して笑った。
「まぁ、俺ら護衛だし、とりま後ろからつけて、通学路の安全を見届けようぜ。」
「そうだな。」
通学路は大通りを通るルートと、裏道を通る最短ルートがある。本来HIは大通りから登校しているが、しばらく彼女をつけていると、裏通に入るのが見えた。
「お、あの子さすが。最短ルートの裏道の方行ったぞ。封筒」
「あーー、あの道かぁ。でもちょっと危なくねぇかぁ?人通りも少ないし。」
「そうだな。俺らも行くぞとりあえず。」
「おうよ!」
そうすると二人も彼女を追って、裏道のルートに入っていった。
このルートは朝にもかかわらずビルの陰に隠れとても暗く、足元も不安定な場所が多い。
あまりにも通りづらいため、無論人通りはほとんどなく、本当に遅刻がかかっているときくらいしか、この道を通ることはまずなかった。
「おい!HI」
その瞬間。一瞬にして彼女のま後ろに謎の男が現れ、首に打撃を1発あたえ、気絶させた。
「これは...」
HIは恐怖心から声が出なかった。隣の封筒に限ってはズボンの部分が少し濡れているのが見えた。
立ちすくめている彼らを目の前に、とても初めてとは思えない手際の速さで彼女は誘拐され、目の前から消えてしまった。
「お、おいHI!どうなってんだ今の。」
「そんなことよりなんで、俺らなにも動けなかったんだ。」
「ビビりすぎだろ俺ら。なんで、こんな時に。しかも二人もいたのに。一ミリたりとも声も足も出なかったぞ...。」
「そんなことより助けないと。おい封筒あれを出せ。」
「あいよ、こういう時のために彼女にGPSをつけといてよかったな。」
「あ、あぁもちろんや。」
二人はこの間彼女の家にお邪魔した際に、彼女のバッグにHIの自作のGPSをつけて、いつでも監視する体制を整えていた。
無論、キモがられることは承知だったため、悪用はしていないが、こういう時のための保険が生きたというわけだ。
「封筒、今どこにいることになってる?」
「いまは、大通りを時速60キロで走行中。これは車みたいだな。誘拐されて、すぐに車に乗せられたみたいだ。」
「どうする?警察に言うか?」
「バカいえ、俺ら二人でやるしかないだろ。おそらく生徒会長もそれを望んでいるだろ。もしこんなことが起きるってわかってたなら最初から俺らじゃなくて警察を頼るはずだし。」
「確かに。」
「HI、例のあの道具用意できてるか?」
「もちろんや。」
そういうと、HIはバッグからおりたたみしきのスケートボードのようなものを二つ分取り出した。
「このスケートボードは太陽光で動くエンジン付きの超高性能タイプや。」
「さすがやHI」
「感心してる場合じゃないやろ行くぞ!」
「おうよ!」
彼らはスケートボードに足をかけ、彼女の元へ向かったのだった。
12話完
後語り
完結まで毎週投稿を目標に連載を続けてもう12話。
書いてるときはめっちゃ楽しいんだけど、学校とかバイトとかいろいろ忙しくて大変ですね。
でも、その週にあったことをちょくちょく小説に盛り込んで思い出残しとしても使ってます。
書いていると、自分の思うように事態が動き出している感じがして、この物語の神になった気分で超気持ちいからみんなもぜひ小説書いてみよう!
こんなくそみたいな俺のやつでも続けられてるから、何事も楽しむことが大切やな。
来週も頑張ります。