HIDT forever 12話 「クッキーと約束」

HIDT Forever 12

「クッキーと約束。」

 

ー某所 50VIP 宅ー

ピンポーン ピンポーン

激しいインターホンの音が広い部屋に響き渡る。おそらく下で気絶していた封筒が起きてきたのだろう。そうHIはすぐさま理解した。

「おい、HI!お前あけろ!あんなところで気絶したまま放っておきやがって....。人間じゃねぇなぁ!」

「すまんすまん。彼女から色々聞いていてな。」

「お前...また抜け駆けかよ!俺にも少しは分けてくれよ😭

封筒はまた自分抜きで色々な話が展開されていることに対して不信感全開の顔を浮かべ、その場で赤ちゃんのようにくずり出した。

 

 

「えぇぇ!!」

封筒はHIから彼女の家族のこと、病気のこと、さまざまなことを聞いた。

「つまり、君は私立ランクマ学園生徒会長の娘であり、一年前からアモル欠乏症の症状が出始めたと。」

「そう...

彼女はか細い声で封筒の質問に答えた。

 

「さらには親は官僚で、ある日を境にほとんど家には帰ってこなくなり、帰ってきても妹の君には姿を見せなくなったと。」

彼女はゆっくりその場で頷いた。

 

「こりゃまた大きな事件の匂いがするなHI。あいつ自分の妹を試練の対象にして一体何がしたいんだ?

「俺にもよくはわからん。でも何かあいつには隠していることがある。それはこの妹さんも知らないような何か大きなことを。」

.....

彼女は一言も喋ることなく、一人でに部屋のキッチンへと姿を消していった。

「おいHI。そんなことよりお前なんか変なことはしてねぇだろうな?」

「変なことって?」

「そりゃまぁ。あれだよ...。」

封筒はまた何かしょうもないことを言いかけたが、状況も状況だということを察したようで、途中で言葉を詰まらせた。

「そんなことよりこれからどうするよ?俺らの試練の対象はまず彼女に間違いはなさそうだよな。でも、彼女を守る?っていうのは一体どういうことなんだ?」

「俺にもよくはわからん。」

 

最近というもの、なぜこんなにも大きな事件に巻き込まれ、色々なやつらに絡まれているのかが分からなくなる時がある。

僕はあの時Serenaで出会った少女への謎の違和感が忘れられない。終いには僕の彼女になったということもあり、彼女を救う(特にはアモル欠乏症についての真相を掴む)ことで何か僕のモヤモヤしている真相が解明されるような気がする。多分このような心理背景なのだろう。

 

彼女はなぜか姿を消したが、調査をするにつれて、この病気がかなり身近にも存在していることを実感している。

 

実際目の前にいる彼女もその病気であり、いわゆる特殊能力を持つ人達もここ数日でたくさんいた。

 

HIは思考を整理した。

自分の目的を見失わないように。

自分が自分でいられるように。

 

「おーーい。H I!いきなり黙ってどうした!あの子がこのクッキー作ってくれたぞ!

「あ、あぁ、すまん。ちょっと思考を整理しててな。」

 

目の前のテーブルには可愛いクマのクッキーが置かれていた。こんな可愛い子がこんな可愛いクッキーを作ってくれるなんて、正直夢心地だった。

 

「なんだそれ!お前らしくないぞ!なんだ思考整理って!やっぱ行き合ったりばったりの全力投球だろ!」

「お前はそれでいい。それでこそ俺らがタッグである意味がある。」

「どういう意味だよ!褒めてるならまぁいいけどな!」

封筒はわかりやすく照れ、彼女の作ってくれたクッキーをバキバキと食べ始めた。

 

「話を戻すが、実は俺たちは君のお姉さんに君を守るように言われたんだ。」

「お姉ちゃんが... なんのため?」

 

彼女の質問は至極真っ当だった。

 

「それは俺らにもよくわからない。なぜかそれがアモル欠乏症の鍵になるような気がしてるから従ってるんだ。まぁ君にもこんなに良くしてもらったら、僕らのできることは最大限したいしね。」

「あり...がとう。」

彼女も表情が顔に出やすいタイプなのか、わかりやすく顔と鼻を赤くして下を向いた。

 

封筒はHIの分を一つ残し、残りの分を全て平らげた。

HIは残りの一つをゆっくりと食べ、紅茶を飲んだ。なんだか心が温まるようなそんな味がした。

「また作ってや。」

「うん!」

今日一番の元気のこもったその声に、彼女の元気さを感じHIは少し安堵する気分になった。

 

「じゃあ帰ろや封筒」

「そうやなー。おいしかった!ありがとう!

「また...きてね...

 

「そうやな。またクッキー作ってや。」

HIの彼女はそう約束を交わした。

すっかり日は暮れ、あたりは真っ暗になっていた。H Iと封筒はお礼をし、その場を後にした。

 

「あんな子が欠乏症だなんて、本当に理不尽な世の中だよなー。きっと前世で人100人くらい人殺したんだろ...

「いやいや、そういう問題じゃねぇやろ。誰もが他人には言えない悩みを抱えてるとはよくいうが、彼女の場合は相当に深い闇がありそうやな。」

「俺はこの通り、闇のない透き通った人生だけどな!」

「なにいうてんねん。お前ほど汚れた人生のやついねぇよ」

「それはHIもそうなんだろう!?」

 

HIは言葉に詰まった。特に病気にかかっているわけでもなければ、家族内で仲が悪いわけでもない。友達も普通にいるし、十分充実した生活を送っていると思う。

「俺にもやっぱりあるんかなぁ。気づいてないだけで」

「さぁな。人間ドッグにでも落ち着いたらいくか?」

「お前は精神的に異常ありって言われそうないけどな」

「うるせぇ...!」

 

こんなたわいもない会話も、普通にできなくなる時ってくるのかな。そんなことが起きたら自分はどうするんだろう。HIは少し頭の中で考えながら、その日封筒と別れたのだった。

 

HI家ー

 

HI兄ー」

「ん?どうした。」

HIの妹は嬉しそうにランドセルからテストを取り出し、HIに見せた。

「みてこれ!99点!すごくない!漢字たくさん覚えたの!」

「お、いいじゃん。偉い偉い。お兄ちゃんの自慢の妹や」

「ちなみに残りの一点はどこを間違えたんや。」

「うーーん。この(優しい)ってかんじのところににんべんをつけ足し忘れちゃった...

「おいおい、それじゃただの憂いって意味で、真逆の意味やないかい。優しいは、憂に人が寄り添うって意味でその漢字なんや、覚えておきい。」

「うん!ありがとう!次は100点取る!

「おうよ。」

嬉しそうな妹はテストを大事にファイルにしまい、お母さんと夜ご飯を作る手伝いに行った。

 

「ふぅ」

HIは連日の怒涛の日々で疲れが溜まっていた。最近は疲れからか、家に帰ってもすぐに寝てしまうため、趣味のポケモンにも全然熱が入っていなかった。

ポケモン...

以前のHIポケモンのない生活を考えることすらできなかった。しかし最近はポケモン以上に人生をプレイしている。

「人は人生の充実と共に少しずつポケモンから離れていくんかぁ」

HIはスイッチを充電ドッグに戻し、目を閉じた。

 

 

(翌日)

 

「昨日はよく寝たなぁ。気づいたら夜飯すら食い忘れてたわ。」

 

HIは昨日の私服のまま寝落ちしている自分に驚きながらも、学校の支度を始めた。

今日は県民の日らしく、学校が休みということもあり、妹と母親は朝6時を過ぎても起きる気配がなさそうだった。

HIは一人で昨日のあまりのご飯をあたため、卵と納豆、細かく刻んだ九条ネギをトッピングし、胃の中に駆け込んだ。

 

「これが完全栄養食の朝食なんよなぁ。」

 

HIは急いで食器を片すと、教科書を詰めて、バッグを背負い、家を出た。

 

いつもの通学路を歩いていると、前に例の妹がいるのが見えた。

「これは、喋りかけていいものなんかなぁ。いやでもこれでそんなに仲良くないよね?とか言われて引かれたら最悪よなぁ。」

HIは女慣れを一切してないこともあり、こういう時の正しい行動がわからないでいた。

 

「おい、HI何やってんだ。気持ち悪いな」

「なんだよびっくりさせんな。封筒!」

封筒は少し後ろをつけていたらしく、HIのぶつぶつ呟いていた独り言を盗み聞きしていたらしい。

 

「なにが、これはいくべきなんかなぁ!だよ。HIおまえ。いつまで経ってもそんな消極的な男子はモテないぞ。」

「お前には言われたくねぇ!」

「まぁ俺も全然声かけられんかったからうじうじしてたら、お前もそんな感じで跡つけてたのを見つけて、その跡をつけてたんだけどなw

「お前キモ。通報すんぞ。」

「その時はHIと一緒だけどな。」

「たしかに」

 

二人はそんな童貞トークをし、二人で朝っぱらから声を出して笑った。

 

「まぁ、俺ら護衛だし、とりま後ろからつけて、通学路の安全を見届けようぜ。」

「そうだな。」

通学路は大通りを通るルートと、裏道を通る最短ルートがある。本来HIは大通りから登校しているが、しばらく彼女をつけていると、裏通に入るのが見えた。

 

「お、あの子さすが。最短ルートの裏道の方行ったぞ。封筒」

「あーー、あの道かぁ。でもちょっと危なくねぇかぁ?人通りも少ないし。」

「そうだな。俺らも行くぞとりあえず。」

「おうよ!」

そうすると二人も彼女を追って、裏道のルートに入っていった。

 

このルートは朝にもかかわらずビルの陰に隠れとても暗く、足元も不安定な場所が多い。

あまりにも通りづらいため、無論人通りはほとんどなく、本当に遅刻がかかっているときくらいしか、この道を通ることはまずなかった。

 

「おい!HI

その瞬間。一瞬にして彼女のま後ろに謎の男が現れ、首に打撃を1発あたえ、気絶させた。

「これは...

HIは恐怖心から声が出なかった。隣の封筒に限ってはズボンの部分が少し濡れているのが見えた。

立ちすくめている彼らを目の前に、とても初めてとは思えない手際の速さで彼女は誘拐され、目の前から消えてしまった。

 

「お、おいHI!どうなってんだ今の。」

「そんなことよりなんで、俺らなにも動けなかったんだ。」

「ビビりすぎだろ俺ら。なんで、こんな時に。しかも二人もいたのに。一ミリたりとも声も足も出なかったぞ...。」

「そんなことより助けないと。おい封筒あれを出せ。」

「あいよ、こういう時のために彼女にGPSをつけといてよかったな。」

「あ、あぁもちろんや。」

 

二人はこの間彼女の家にお邪魔した際に、彼女のバッグにHIの自作のGPSをつけて、いつでも監視する体制を整えていた。

無論、キモがられることは承知だったため、悪用はしていないが、こういう時のための保険が生きたというわけだ。

 

「封筒、今どこにいることになってる?」

「いまは、大通りを時速60キロで走行中。これは車みたいだな。誘拐されて、すぐに車に乗せられたみたいだ。」

「どうする?警察に言うか?

「バカいえ、俺ら二人でやるしかないだろ。おそらく生徒会長もそれを望んでいるだろ。もしこんなことが起きるってわかってたなら最初から俺らじゃなくて警察を頼るはずだし。」

「確かに。」

HI、例のあの道具用意できてるか?」

「もちろんや。」

 

そういうと、HIはバッグからおりたたみしきのスケートボードのようなものを二つ分取り出した。

 

「このスケートボードは太陽光で動くエンジン付きの超高性能タイプや。」

「さすがやHI

「感心してる場合じゃないやろ行くぞ!

「おうよ!」

 

彼らはスケートボードに足をかけ、彼女の元へ向かったのだった。

 

12話完

 

後語り

 

完結まで毎週投稿を目標に連載を続けてもう12話。

 

書いてるときはめっちゃ楽しいんだけど、学校とかバイトとかいろいろ忙しくて大変ですね。

でも、その週にあったことをちょくちょく小説に盛り込んで思い出残しとしても使ってます。

 

書いていると、自分の思うように事態が動き出している感じがして、この物語の神になった気分で超気持ちいからみんなもぜひ小説書いてみよう!

 

こんなくそみたいな俺のやつでも続けられてるから、何事も楽しむことが大切やな。

 

来週も頑張ります。

 

 

 

HIDT Forever 11話「forever pudding」

HIDT Forever11

forever pudding

 

6/20日(月)

試練のため、今日からターゲットの尾行が始まった。HIと封筒は部活動に所属していない(しようとは思ったが、部活動の自己紹介の時に大失敗し行けなくなった)ため放課後は基本空いている。そのため、二人は放課後に時間を絞り、授業後すぐあの子の教室に行き、毎日尾行をすることに決めたのだった。

 

 

「おいHI、今日から尾行やな。捕まらないようにしないとな」

 

「おい、物騒なこと言うなよ。でも法律的に言えばスカーカー規制法に引っ掛からなければ大丈夫や。ストーカー規制法の要件は【特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的】って書いてあるし、俺らのやっていることはこの法律の要件には入らなそうや。しかも探偵業法には探偵活動を目的とする尾行は法律に触れないと書いてあったぞ。」

 

「おい、お前どんだけ準備満タンなんだよ...。」

 

「こんな変なところで捕まってたまるかよ。当然や。」

 

「じゃあ俺らは探偵団見たいなもんやな。コ◯ンみたいなやつ...?。そうだ!」

突然封筒はなにか変なことを思いついたように声をあげ、子供のようにキラキラした目で話しを続けた。

 

「せっかくだし名前決めねえか?まだ俺ら二人しかいねけど。こっからたくさん仲間作ってでっかい組織にしようぜ!やっぱり俺らの団結力っていうか、友情っていうか...そういうものがグループを作ることで形になる気がするんや」

 

「いいな、封筒。お前もたまにはいいこと言うやんけ。じゃあ、名前はどうする?

 

「うーーん。全然思い浮かばねー...HIなんかいい名前ねえか?

 

HIは頭をかかえた。今まで何かに名前をつけたことなんてほとんどなかったからだ。ポケモンというゲームをやっていた際、ナットレイとかトロッゴンなど嫌いなポケモンに変な名前をつけたことはあったが、正直センスはイマイチだったし、HIにセンスという言葉はとてもじゃないけど似合わなかった。

 

「うーーん。プリンのスプリンクラーってどうだ?」

 

「なんだよそれwwwどう言う意味だよww

 

「うーーん。プリンってさあんなに柔らかいのになんであの綺麗な形を保ってていると思う?」

 

「たしかに。今思えばあんなぷるぷるしてるならすぐ崩れちゃいそうだよな。なんでだ?

 

「砂糖には熱凝固性っていうのがあってな。プリンを作る際に、砂糖の量が多すぎたり、少なすぎたりすると形が整わなくなるんや。俺はこの砂糖の役割に感動したんや。砂糖って調味料やろ?料理の合間合間に入れるだけで、砂糖をメインで食べるやつはおらんし、砂糖が入っている食べ物を食べても、砂糖うめぇーー!って言いながら食べるやつもいないやろ。でも縁の下の力持ちとして色々な料理に入ってるんや。俺らもそんな色々なものを影で支えるやつになりたい。そう思ったんや。おれら陰にはメインディッシュとしての荷は重すぎるからな。」

 

「だったら、砂糖って名前を入れた方がいいじゃないか?なんでプリン...

 

「頑張ってこじつけて考えたんだから、そんなどうでもいいことは聞くな...勘のい

いガキは嫌いだよ...

 

「すまんww

 

 

その後封筒の提案もあり、彼らの名前はfoever pudding】になった。直訳は永遠のプリン。プリンのような甘い経験をいつかはしてみたいという願いからつけたらしい。両者納得の素晴らしい名前だった。

 

 

HI、そういえば今日の尾行の前に彼女の事前情報を入手しておいたぜ。これを見てくれ。」

 

そういうと封筒は学校のバックから大量のファイルと写真を取り出し、HIの机の上に広げ始めた。

 

「おい、お前....こんなにどこで手に入れたんだよ...。もうこれだけあれば調査要らなくねえか絶対...

HIは封筒の準備の良さに感心する反面、謎の気持ち悪さに説明不能の違和感を覚えた。 

 

「なに言ってんだよHI。こんなん俺にしてみれば余裕だぜ。ネットの力は怖いんだぜ...

 

「お前だけは絶対、敵に回したくないし、お前の将来の妻も絶対不倫なんかできなそうだな...

 

「不倫だかプリンだか知らねぇけど俺の前じゃ嘘は効果をもたないぜぇ。俺の持つ透視能力は相手の嘘すらも暴けるんだからな、ハハハ」

封筒は自慢気に自分の謎の能力を自画自賛した。

封筒の能力は昔、発達障害と言われ、周りの目からバカにされていたらしい。しかし、彼は周りに屈さず、自分の能力を極め続けた。 

そう、それも彼の野望...パンツの色を見るために....。その結果彼にはパンツの色だけでなく相手の嘘を見抜く力も同時に備わってしまったのだ。

 

「やっぱお前すごいな封筒。お前と一緒ならどんな危険があってもお前になすりつけてどうにかなりそうだぜ。」

 

「フッ、いいこと言ってくれるじゃねえかHI。俺にはわかるぜお前の真意。」

 

まぁなにかあったら余裕でお前の命でもなんでも差し出すけどな。」

 

「マジっぽいのはやめてくれぃぃ!」

 

「嘘だよ笑」

 

僕らは青春を謳歌している。そう、僕らなりの青春を。

近年、やりたいことを心の底から楽しめている人は日本に何人いるだろうか?どんな時も子供の頃の気持ちを忘れずに、自分の童心に従い、人生を楽しめている人は何人いるだろうか?

時には失敗し落ち込み、時に成功し、友と喜びを分かち合う。そんな人生は大人になってからはできないのだろうか?答えはnoである。

生憎、日本には同調圧力というものが根強く残っている。大学に行って、まともに就職をするべきだ。無謀な夢は見ずに、いい会社に就き、働くべきだ。僕はこのような圧力に縛られる不自由な生活はしたくないと心から思った。

 

プリンのように、周りの衝撃をも吸収し、自分の形を常に保てるような、そんな存在になりたいと思った。

 

必ずしも自分のやっていることが周りから評価されるとは限らない。

でもだからといって諦めたり、他人を嘆くのは本当に正しい選択なのだろうか。

僕らはこの先の未来、さまざまな経験をするだろう。でも一つ、童心だけは忘れないでいたい。

HIはそう心に強く思ったのだった。

 

「あの子の名前は上村音。この私立ランクマ学校の2年生だ。クラスは2E組。特に部活動はやっていないらしい。突出していうことはないが、両親は官僚で、かなりお金持ちらしい。タワーマンションの最上階に住んでいるとの噂もあるぜ。」

 

「お前そんだけ資料あって情報力これだけかよ....。」

 

他にも3サイズはバスト82cmエス54.5cmで、、」

 

「いや、もういい。やめろ封筒。お前他の資料は全部そういう系か?

 

「無論そういう系だ。」

HIは封筒のいつにも増す気持ち悪さを心配したが、怒る気持ちにはなれなかった。

 

わかった。じゃあとりあえず2年生の棟に向かおうぜ。」

 

「おう。」

二人は1年生棟を抜け、隣の2年生棟へと向かった。放課後ということもあり、人でごった返しており、小さな女の子を見つけるのはとても困難なように見えた。

 

「おいおい、2年生棟ってこんなに人たくさんいるのかよ。きついぜマジ。」

 

「しょうがないだろ...とっととE組に行くぞ。」

 

「おうよ。」

 

そうこうして二人はE組に着いたが、あの子の姿は既になかった。

HIは焦りながらも、前にたまたまいた上級生に声をかけた。

 

「すいません....上村音さんはいらっしゃいますでしょうか?」

 

「あ、あぁ音ね。いつもは確か黒いリムジンが迎えに来るんだけど、今日は都合があって来れないから一人で帰るって言ってたね。いつも裏門から帰ってるから、今すぐ裏門に向かえば会えるんじゃない?

 

「あ、、ありがとうございますっ!」

二人はその情報を頼りに足速に裏門へ向かった。

裏門に着くと、あの時の小柄な少女が、艶のある髪を夕日になびかせながら歩いているのが見えた。

 

「おい、HIいたぞ!あの子だ!」

 

「間違えなさそうだな」

HIはこの前もらったコンタクトをすぐにつけ、アモルの量を確認した。

 

「うん。やはり間違いなさそうだ。封筒、こっそり追うぞ!」

 

「おう!まかせろ!

そう意気込むと、封筒はバッグの中からあんぱんとサングラス、牛乳を取り出した。

「なんだそれお前。」

 

「いや、張り込みって言ったらこれだろやっぱ!HIの分もあるぜ。」

 

「いやいや、あんぱんとサングラスは分かるけど牛乳はなんか違くねえか..

 

「まぁ細かいことは気にすんなって。ほら、お前もとっととこれ付けて、あんぱん食いながらやろうぜ」

封筒の謎のこだわりに翻弄されながらも、後ろから彼女をゆっくりと追跡する。

彼女は学校の裏門を出てまっすぐとすすみ、大通りに出た。

 

「なぁHI。あいつの家どんなだと思う?」

 

「まぁ、官僚の娘だろ。例えばほら」

HIはとりあえず目に見えた大きなビルを指差した。

 

「あんな感じのビルの最上階とかだろ。知らんけど」

 

「お前あのビルはデカすぎだろw流石にやばいわw

 

「でも、あの子そっちの方向に向かってるけどそれはどう思うよ」

 

「そんなんたまたまだろ。あんなところに住んでる金持ちなら3秒で告白しちまうわw

 

「あの子、このビルみたいなマンションに入っていったけど、どうよ」

 

「え、えぇぇ!」

彼女はこの近辺では一番でかいと思われるマンションに入っていったのだ。ロビーの入り口には屈強な黒人ガードマンが一人立っていて、侵入者を阻んでいるようだった。

 

「おい、HI!どうすんだよ、あの子入っちゃうぞ!」

 

「静かにしろ。俺にいい考えがある。耳を貸せ」

そう言うとHIは封筒の耳元で作戦をゴニョゴニョと話し始めた。

 

「こんなんうまくいくのかよ本当に!?まぁHIのことだ、なんとかしてくれるんだよな。」

 

「あ、あぁまかしとけ。仲間だろ。」

 

「お、おう!」

 

 

hello? uhh..I am futo. ahh...

 BY THE WAY!!! ARE YOU STUPID!?

BRING IT ON, MOTHER F○UKER!

 

そう英語で告げると、封筒は一直線に走り始めた。

ahh!?

外人は封筒をぶちそうと、狂ったように封筒を追いかけた。

「今だHI!!」

「おう!!」

一直線に走る黒人ガードマンの足に向かって、柱の影に隠れていたHIが思いっきり足を出した。

what!?!?

黒人ガードマンはそのままの勢いで盛大に転け、そのまま地面に思いっきり頭をぶつけ、その場で気絶してしまった。

 

「うまくいったなHI。でもこれって俺の危険度がお前より高すぎねえか?」

 

「バカ言うな、俺の足がこいつに踏まれてたら俺の足は骨折して使いものにならなくなってたんだぞ」

 

「でもこいつが俺より足早かったら、俺だけ捕まってボコボコにされるよなこれ。」

 

「まぁその時は逃げるから安心しろ。任務に犠牲は付き物だからな。」

 

「おまえなぁ....

 

「まぁそんなことより後を追うぞ。」

 

「了解👌

二人はエントランスから中に入ると、奥にあるエレベーターに向かって全力で走り始めた。

 

「あぁああ!?」

封筒は突然何かに足を取られ、その場で思いっきり転けてしまった。

 

「おい、どうした封筒!!おまえ!」

 

「君たち。なにしてるの。」

そこには柱の影で隠れていた音がいた。

 

「やべ、バレたか。」

HIは焦るあまり、言ってはいけないことを言ってしまった。もはや言い訳の余地は二人にはなく、完全に固まってしまった。

 

「いい。来て」

そう小さな声で呟くと、彼女はエレベーターに乗って上の階に行こうとした。

封筒は完璧に廊下で伸びてしまっているので、一旦放置し、そのまま彼女に言われるがままエレベーターに乗った。

エレベーターはとてつもない速さで急上昇し、階の表記は47..48..49..と上がっていた。それに伴い、高所に上がるのを慣れていないHIは少し頭が痛くなった。

 

「君の、いや、先輩だから敬語で。先輩の家は何階なんですか?」

60...一番..上」

「なるほど....。」

 

世界一盛り上がらない会話がエレベーター内で繰り広げられる中、そんな雰囲気を遮るように60階に到達した音が聞こえた。

60階には部屋が一つしかなく、その子の家だけが特別に設けられていると言う感じだった。

 

「あの....すいません。」

「中。入って。」

「あ、はい。」

 

言われた通りHIはこの世のものとは思えないくらい豪華なドアを、妄想の中ではでは金持ち気分で豪快に開け部屋に入った。

中はとても広く、10LDKはありそうだった。リビングからは六十階の超高層からの広々とした景色が一望できる作りになっていた。

 

「あのぉ、尾行してたことは申し訳なかった。色々あって....でも君のことを助けたくてやってたことなんだ....

 

「どうせお姉ちゃん...。君...悪くない...

 

「え、お姉ちゃん?ん?え、まさか...

 

HIは今まで起きたことと、今言われたことを頭の中で整理するので必死だった。

それと同時に、今足を突っ込んでいる事態の規模の大きさを暗に悟ったのだった。

 

11話 完

 

~あとがき~

封筒毎回大事な時倒れてるの草。

5000文字超えの中ここまで見てくれた方には感謝!

出来れば感想等を一言くれるとモチベに繋がります。

 

最近塾の生徒に「もし次のテスト80点超えたらおれが最近ネタで書いてる小説見せてやるよ」と調子乗ったところ、80点を取られてしまい、うれしい半面、しっかりかかないとやばくねって思うようになりました。(´;ω;`)

 

予想だとまだまだ続くので、くそくだらない話ですが最後まで見てくれてる人が一人でも楽しんでもらえたら最高です。ではまた!

 

 

 

 

 

HIDT forever 10話 「蒼い少女」

HIDT forever 10

「狙われた少女」

 

〜放課後 1年棟 男子トイレにて〜

 

「全くどうなったんだよ一体。もしかして俺ら、何か大きな物と戦おうとしてる?そんな予感がするんだが....どう思うよHI

 

「あ、あぁ、それはいいからさ。」

 

HIは呆れた顔をしながら大きなため息を吐いた。

「おまえ、いつまで大便する気だおい。もう20分くらい待ってるぞ」

 

「隣のトイレ使ってくれよ...今朝食べた賞味期限切れの生卵が当たったみたいでよ..

 

「どんくらい切れてたんや?」

 

「まぁざっと2ヶ月」

 

「お前、死ぬぞ。」

 

「ま、まだdtだぞ....

そう封筒がいうと、ブリブリとありえないくらい大きな異音が聞こえた。この世の終わりと言っても差し支えないその音声はトイレの音姫さえも凌駕した。そして

ゆっくりと封筒はお腹を抱えながらトイレから出てきた。

鏡の前まで行くと封筒はポケットから先ほどもらった、コンタクトを取り出してつけ始めた。

 

「おい、コンタクトなんてしたことねぇんだけど?これどうやってやんだよ」

 

「おまえ、コンタクトすらしたことねぇのかよ。しっかりしろ」

 

 

その数秒後、案の定HIからも音姫を凌駕する特大のハーモニーが流れた。

 

HIお前もか...

 

「最近ストレスがな...

HIは最近の怒涛の疲れからストレスが溜まっており、大好きなポケモン2シーズンも触れておらず、よく夜も眠れない日々が続いていた。

 

「とりあえず、ひと段落ついたら一緒にアメリカにでも旅行行こうぜ。」

 

「なんで、アメリカなんや」

 

「ビックだろやっぱ、あの国は。いつか行ってみたかったんだよ」

 

「そうやな。」

二人はトイレでコンタクトレンズをはめると、放課後の学校を歩き始めた。

 

「す、すげぇこのレンズつけたら人が星の色みたいに光って見えるぜ。」

 

「星は温度が高ければ青白く見え、低ければ赤く見えるから、このコンタクトレンズは逆だけどな。間違えんなよ。封筒」

 

「理科の授業かよ。イキんな!そんなことわかっとるわ!

そして二人はそんなレンズの性能に驚きつつも、アモルの低い(蒼い)人を見つけるため校舎を舐める様に徘徊していった。

2時間経っただろうか。部活動の終わりのチャイムが鳴り始め、日が西の地平線に沈んでいく様子が美しく見えた。疲れた二人は、学校の自販機でワンコインのコーヒーを買い、学校の屋上に行くと、温かな風に吹かれながら校舎を見渡した

 

HI、今日は全然収穫なかったな。」

 

「あ、あぁ。まぁそんな慌てんなよ。まだ始まったばっかりじゃんか。そんなことよりこのコーヒー美味しいな。この苦さが俺らの後先の真っ暗さを示してるみたいだ」

 

「かっこいいこと言うなや、気持ち悪い。お前らしくないぞHI

 

「ええんや。男なんやからたまには調子乗りたくもなるやろ。」

 

ちーんこーんかーんこーん

「ん?何だ。放送のチャイムか?」

〜放送〜

HIさん封筒さん。至急、放送室まで。繰り返します。HIさん封筒さん。至急放送室まで』

 

「おい、なんか俺ら呼ばれてねえか?」

 

「おいおい、何で俺ら呼ばれてるんや。なんかやらかしたかおれら?」

 

「いや、なにって気持ち悪いコンタクトして、学校中を舐めるように徘徊してたくらいだろ。なんも気持ち悪いことなんかないだろ。」

 

「舐めるようには余計や。それはお前だけや一緒にすんな。」

 

「仲間だろbrother。こう言う時だけ仲間はずれにすんなよー」

HIと封筒は身に覚えもなく、言われるがままに2年棟にある放送室に向かった。

時間は6時を回り、ほとんどの生徒が家に帰っているため、誰もいない空っぽの教室、廊下を駆け足で通り抜け、放送室へ向かった。

 

ガラガラガラ

 

「すいません。HIと封筒ですけど。何のようでしょうか?」

 

「きたのね。君たち。」

そこには一人の少女とHI達の担任の先生が立っていた。

少女はとても色白で、手入れされた艶のある黒髪はとても美しく、今にも消えてしまいそうな儚さを覚えた。制服のバッジを見たところ2年生だろうか、2年生にしては身長も低いため、少し幼稚にみえた。

 

HI、おい。これって」

 

「あ、あぁ。」

 

「君たちねぇ!この子が君たちにいじめられたって!」

 

「おいおい、俺ら何もしてないぜ!この人と会ったのも今初めてだしよ!なぁ?HI

 

「そうです。いったい僕らが何をしたんで?

そう二人が主張すると、少女はとても小さな声で何かを呟き始めた。

「コー....、ワタ...ノ」

 

「ん?なんだって?聞こえないって」

 

「おい、封筒やめろ。可哀想だろ」

 

「コーヒー...私の....

 

「コーヒー?何のことや。たしかにさっき屋上で飲んでいたけどよぉ

 

「私のお金...あなたが...押した...

 

「あ、まさか」

封筒は何かを思い出したようで、急に顔が青ざめ始めた。

 

「お、おいお前そういえばそのコーヒーどこで買ったんや。俺が違う場所を探してるうちに買ってきてくれたよな」

 

「いやいや、聞いてくれよ。悪気はないんだ。HIと一緒に飲もうと思って買おうとしたらよ、前に誰か並んでてよ、全然っボタンを押さないからよ。早くしてくれ!時間がねえんだ!って叫んだのよ。そしたらどっかいったから、コーヒー買おうとしたら、お金が1000円も入ってて、日頃の行いがいいんだなって思いながらそのまま買ったんよ。な?俺悪くないだろ」

 

「おまえなぁ....

 

「身長...届かなかった....

 

「だってよ。お前のせいだ封筒、早くお金返してやれ」

 

「そうだな、ごめんよ。代わりにこの少しレアな2000円札をあげるよ、大切にしろよ!

そういうと彼女は小さく頷き、封筒から2000円札を受け取ると、少しお辞儀をしてその場をスタスタと小走りで離れていった。

 

「まぁとりあえず解決したならよかったわ。これからは気をつけろよ二人とも。あとお前ら今日ずっと徘徊してただろ学校。きもかったって苦情もきてたからな。ついでに言っておくぞ。じゃ、気をつけて」

 

先生はキツすぎる爆弾発言を言いのこすと、二人を置いてその場を後にした。

 

「やっぱそれもあるんかい。」

 

「あるらしいな。そっちの方がきついわメンタル的に」

「そんなことよりHI。あの子...

 

「あ、あぁ。青かったなめちゃめちゃ。てか何でお前は気づかなかったんだよ。自販機の前であったなら気づくやろ普通。」

 

「いや、すまんて。普通にあのコンタクトウザすぎて一回とったんよ。さっき付け直したけど」

 

「お前なんのための、捜索だったんだよ..とったら意味ねえだろアホか」

 

「まぁ、そんなこと言うなって相棒。」

そう言うと、封筒は逃げるようにダッシュでその部屋を後にした。

そして残されたHIはあの子が今回の試練の対象だと言うことを確信した。そして、彼女にこの先何が起きるかを考えると少し寒気がした。HIの直感が、今後起きるであろう事件の危険さを警告してるような、そんな感覚だった。

 

「俺も帰ろう。明日からはあの子の尾行やな。

てかこれ犯罪じゃねえか。大丈夫なんか。」

 

自問自答するHIを嘲笑うように、平日の夕方、烏の声が不吉に響いた。

 

10話完ー

 

 

HIDT forever 第9話「試練の扉」

hidt foever 9

「試練の扉」

 

〜昼休み 学校駐車場にて〜 

 

謎の少女に連れられ、人気のない坂をゆっくりと降っていく。そこは3年棟のすぐ左。普段、一年生が通ることのない裏門に面している。

ここで説明だが、僕たちの学校は主に3つの棟から成り立っている。正門から入ってすぐに見え、横に広がる1年塔、その右奥に位置し1の字に構える2年棟。最後に上から見ると「コ」の形に見える最初の一画目に位置する3年棟である。三年棟の方には裏門があり、基本的に3年生と1年生が接触することは少ない。まさしく僕たちからしたら未知の領域といえるだろう。

無論。まだ入学して間もない僕らには、3年棟にあるこの坂についてはしるよしもなかった。

 

「おいおい、ここって学校の駐車場じゃねえか、俺らまだ未成年だろ?車なんて持ってねえし。一体こんなところに何があるって言うんだよー。そうだよな?HI?」

 

「あ、あぁ。まぁ封筒。とりあえず落ち着いてこの子の話に乗ることにしよう。」

 

HIはいつにも増して冷静だった。封筒といるとどうもふざけ倒したくなってしまうが、今この状況でそんなことができるのは、伊藤誠相当の無神経アホ野郎か、封筒くらいなものだ。

 

「おいおいー、腹減ったー。飯食ってねえじゃんかー結局。どこに連れられてんだ俺はー」

 

封筒がお腹をすかしてぐだぐだ言っているのを横目に2人はどんどんと駐車場の奥へと進んでいく。

 

「ここだね。お待たせ。」

 

そこにはスパイ映画御用達の高級車ジャガーEタイプが停められていた。

艶のある赤い塗装に、しっかりとした車体。窓にはブラインドがされており、中の見えないVIP仕様になっていた。

 

「お嬢様。お待ちしておりました。」

 

「ご苦労」

運転席からはいかにも執事という服装をした紳士の男が一人降りてきた。年齢は40歳ほどか。体格はとてもしっかりとしていて、まさにスパイ映画のエージェントのような雰囲気だった。

 

「お嬢様? おいおい、お前お嬢様だったのかよ!!俺らになんのようだ!市民から金を捲り上げるきか!?ふふふ、すまんな、生憎お嬢ちゃんにあげれる食料、金はこれっぽっちも持ち合わせていないんでね。そんなことより君のその赤色のパンツを...グフッ」

 

封筒は一瞬にして隣の執事にしばかれ、鼻血を飛ばしながら鮮やかにふっ飛んでいった。

 

「お嬢様。少々小蠅が飛んでいるみたいですが、処分いたしましょうか。」

 

「やめなさい。この人たちには話さないといけないことがあるんだ。」

 

「わかりました。コバエ、、、いえ。封筒様大変すみません。ご無礼を許してください」

 

完全に放心状態の封筒には丁寧なのか煽っているのかわからない謝罪すら一ミリも届いていないようだった。

 

「とりあえず入って、中で話をしよう」

 

「あ、あぁ」

HIは完璧にのぼせている封筒を引きずりながら、助手席のシートに乗った。

謎の女の子は助手席に座り、執事がハンドル席に座った

 

「で、俺らを呼び出した理由はなんなんだ。」

 

「君たちアモルについて探っているようだね。私も君の手助けになれればいいと思って呼んだってわけだよ。」

 

「おいその前に、君の名前はなんだ?何者なんだ一体?」

 

「これは失礼。私は私立ランクマ高校3年生徒会長の雪華。同じくアモルについて色々探っている君の同業者のようなものだよ。」

 

3年生!?生徒会長!?」

 

HIは初めて見るこの学校の生徒会長からにじみ出る謎の殺気に肩をすくめた。

 

「なるほど。そんな生徒会長様にまず僕から聞きたいことがあるんだけど...

「いいよ、なんでも聞きたまえ。」

 

「まず、僕たちをこの前助けたよね。あの時は妹もお世話になったし感謝してる。でもあの時僕たちの目の前で起こったあの不思議な現象は一体なんなんだ?

 

以前、HI達の目の前で敵は勝手に仲間割れをし自滅し、彼女は一切手を加えることなく僕たちを助けたことがあった。その時の疑問がHIからは当然抜けていなかったのだ。

 

「いい質問だね。これは私の能力。洗脳(トゥーソメッション)さ。一時的に相手の脳を洗脳し、支配する。まぁ一種の特珠能力ってやつかな。」

 

「特殊能力?そんなものがこの世界に存在するっていうのか。それがアモルとなんの関係があるって言うんだ?」

 

「そうだね。まず、この世の記憶やイメージ、思考、感情というものはアモルという記憶媒体のようなものが深くかかわりできていることは君たちもよく知っているよね。」

 

「あ、あぁ、なんとなくは。」

 

「この世には3種類の人がいる。世の中を作り支配する人間。支配され、コントロールされる人間。そして生きることすら許されない、生まれながらに死ぬ運命の人間だ。」

 

「死ぬ運命の人間?どういうことだ?そんな人がいるはずがないだろ。支配する、されるっていうのは政治批判かなにかか?」

 

「まぁいずれわかるようになるよ。今はそう思ってくれて構わない。いいかHI君。世の中っていうのは強者と弱者によるバランスによって成り立っているんだ。全員が弱者の世の中はろくに技術も進歩せず、近隣諸国、世界全体に遅れを取り、消えていく運命にあるといえる。逆に全員が強者である世界もいいように思えるかもしれないが、全くの逆だ。強者は常に自分を一番に望む。そこに協力という言葉は存在せず、邪魔なものを殺し、世界を自分のものへと変えたがる。つまりこれも世界の終わりと言ってもいいだろう。いいかい、僕たちの世界はこのバランスによってのみ保つことが許されるんだ。強者と弱者。君もそう思うだろ?

 

たしかにそうだ。どんな時、どんな集団においても強者と弱者はいた。学校という集団では、いじめをするもの、されるもの。陽キャとインキャ。会社という集団では、上司と部下。家族においても意固地な父親と子。なんなら男と女の概念すらそうかもしれない。すなわち、世の中は常に上下関係において成り立っているといえるだろう。

 

「それは理解できるが、その最後に言っていた、消えるべき存在というのはなんなんだ?

 

「君は僕たちがどうやってこの能力を手にしているか知っているか?

 

「いや、しらねぇけど。特殊訓令とか?そういうのだろ。」

 

「答えはnoだ。僕たちの能力の覚醒は、もちろん人を選ぶが、ある物を飲むことで得ることができる」

 

「ある物?なんだそれは」

 

「それがこれさ。レイ。あれを出して。」

 

「了解です」

 

レイと呼ばれる執事は、車の物入れからあるボックスを取り出した。厳重に保管されているそのボックスを慎重に開けていくと。ビンが2つ入っていた。

 

「これが例のものだ」

 

そういうとそのビンが見えるようにHIに見せた。

 

「お、おいなんだこれ!?綺麗だなぁ」

 

「お、おい起きたのかよ封筒。お前まじでいつもいいタイミングで起きるな。脅かすなよ」

 

「すまんすまん。相棒。にしてもこれなんて薬品だ?すげぇなぁ」

 

瓶に入るその薬品はとても透き通っていて神秘的な輝きを見せていた。とてもこの世のものとは思えない、見たことのない液体だった。

 

「これを飲むとどうなるんだ?

 

「言った通りさ、適性があるが、ある能力に目覚める。もちろんアモルに関する能力だけどね。」

 

「えへへ、俺もう結構すごい透視能力あるしなぁこれ飲んだら相手の恋心まで見えるようになったりしてぇエヘヘッ」

 

「一回だまれ封筒。それで?これを俺らに見せて何をする気だ?

 

「君たちをテストしたいんだよ。もしこのテストに合格したら君たちにこの能力を授かるチャンスをあげよう。」

 

「まじか!!おっしゃーー透視能力スケスケふぇーーい!」

 

「それで?その試験ってなんだ?」

 

「最近、この学校で行方不明事件が相次いでいるのは知っているだろう。」

 

「あ、あぁあれってハメをはずした馬鹿どもが休学してるだけかと思ってたけど、本当にいなくなってたのかよ、やべえな。」

 

「君はそんなことだと思ってたのか...危機感がないなぁ。まぁいい。そんなことより君たちにはその謎を解いてみてほしい。」

 

「謎を解く?どうやってだ」

 

「私の調査によると、行方を断つ人たちは決まってアモルの量が極めて低い人なんだ」

 

「アモルの量?そんなのどうやってわかるんだよ」

 

「ほらっこのコンタクトレンズを君たちに渡すよ」

 

そう言うと、雪華は僕と封筒にコンタクトケースを投げてきた。

「これはなんだ?

 

「これは、まぁスカウターのようなものだよ。これをつければアモルの量がわかる。低い人ほど青く見え、高くなるほど赤くなる」

 

「なるほど。便利な道具だこりゃ」

 

「まぁ君たちと長話をしても何も進まないしね、せっかくだけど、試験を始めさせてもらうよ。それじゃ、幸運を祈るよボーイズ。」

そう言うと僕たちは車から下ろされ。走り去っていた

「おいまだ昼休みだぞ。生徒会長が五限サボるとか考えらんねえな。この学校どうかしてるぜ、そうだろHI?」

 

「あ、あぁ。」

薄暗い駐車場に、HIの重いため息の音がゆっくりと響いた。

 

第9話完

HIDT forever 第8話「パンツと再来」

HIDT forever

8話「パンツと再来」

 

57

長いようで短かった、そんな微妙なGWも終わり、また新たに学校がスタートした。

GW明けなこともあるのかクラスの雰囲気はお休みムード一色だった。授業中に寝ている人はもちろん、休み明けではっちゃけすぎたのか、席にはところどころ空席が目立った。

そして4時間目の数学の授業が終わり、一斉にクラスにいつもの活気が満ち溢れた。

 

「おいおい、封筒おきろよ。もう4時間目終わったぞ。いつまで寝てんだこのロリコン

 

そうHIは呟くと、思いっきり机に突っ伏して寝ている封筒の頭をどついた。

 

「いってぇええ....。おいHI何してくれてんだお前。せっかく可愛いレディーたちと遊ぶ夢を見ていたのによぉ」

 

「そんな夢を見ている間は、一生それが現実に起こることはなさそうだな...。」

 

「うるせぇよい。」

 

封筒はまだ目覚めていない目に目薬を一滴さし、大きく背伸びをした。

「そんなことしてる場合があったらなんか得意なことの一つや二つ作ってみたらどうだ?」

 

「得意なことねぇ。あるぜひとつだけ。」

 

封筒はそう自慢気に言うと、スッと深く深呼吸をして、なにやらぶつぶつと唱え、一番右の列の前に座っている女の子に指をさした。

 

「あいつのパンツは青色だ。俺にはわかる。」 

 

「おいおい、本当か?

 

「本当だ。かけてもいい。外れてたらお前に今日の昼飯を奢ってやろう...。でも当たってたらわかってるよなぁ?まあ確かめようがねえんだけどなwww」

 

「あ、あぁ」

 

「いまだに誰も信じてくれたことがねええんだぜ、俺には本当に見える気がするんだけどよお。お前は信じてくれるよな?HI」

 

正直、自信満々にしょうもないことを言う封筒に嫌気が差した。透視能力でもない限り女子のスカートの色を当てるなんて不可能に等しいからだ。

しかし、最近妹の好きなゲームをかってあげたせいで金欠のHIにとっては、封筒のそのバカな賭けから生まれる昼飯に魅力を感じたのだった。

 

「じゃあ俺が見てくるわちょっと待っとけ」

 

「お、おいHI?どうやって確認する気だ?バレたら退学じゃ済まねえぞ?そんなに昼飯が欲しいのかよい。」

 

「任しとけって。俺を誰だと思っていやがる。」

 

そしてHIは歩き出した。彼女のパンツの色に今日の昼飯がかかっている。こんなところで諦めるわけにはいかねぇ。こんなところで退学になってたまるもんか。彼の頭の中は邪念で溢れかえっていたのだった

 

「ふんっ、ついに僕の発明品が使える時がくるとはな...。」

 

その瞬間HIは自分が持っているメガネを胸ポケットにしまい、新らしく右ポケットからメガネを取り出し、それをつけた。

 

「スイッチ オン」

 

「ブハッッッ」

 

その瞬間、彼の鼻からはまるで噴水のように鮮やかで透き通った血が噴射された。

腕のいいスナイパーに狙撃されわけでもない。鼻をほじりすぎたわけでもない。これは全てHIの魂ともいえる血だった。

 

「お、おいHI大丈夫かよ。」

 

「あ、あぁ、成功だ....。これは俺の開発した下着透け透けメガネ君1号だ。今は一個につき一回しか使えねえがな、実験は成功や。思ったよりも透けて見えやがって少々荒ぶってしまったよ。許せ」

 

「おまえ荒ぶったってよりかは、鼻血出して倒れたただの変態にしか見えなかったけどな...

 

「お前には言われたくねえな封筒。ほら、お前の手がもう俺のメガネを欲っしているじゃねえか。」

 

「おれはそんなもんなくても見えるしなあw

 

「本当かあ?w」

 

彼らはとても真剣だった。高校生活とはまさにこういうことを言うのであろう。バカみたいなことで盛り上がり、笑い、時には怒られ、そんなこんなを乗り越えて人間は成長し、進化する。彼らはまさにその瞬間を実感していたのだった。

 

「で?HI何色だったよ?

 

「俺の負けだ。封筒。お前のその能力は本物だ。」

 

「だろ?この能力で世界を救えたりしてな。ハッハハハ」

 

「バカ言え、宇宙を救うんだよ。ハッハハハ」

彼らの大きな笑い声が教室に響き、周りの冷たい目線が一気に集まったのを感じた。

 

「よっし、じゃあ行こうぜHI。もちろんお前の奢りでな。」

 

「しゃーねえなぁー。ほら行くぞ封筒。」

彼らはそう話すと、罰ゲームの昼飯を買いに行くために廊下に出た。廊下には昼休みということもあり、たくさんの人がいてとても混み合っていた。陰の彼らにとってはとても居心地の悪い空間だった。

 

「確か学食は1階だったよな?ここは三階で、道は混んでいる。おい、封筒いい道を知ってるんだけどお前もくるよな?

 

「もちろんだぜ相棒。」

 

そう言い放つと二人は窓を開け、前にある二階建の倉庫部屋に飛び乗った。

 

「やっぱ高校生はこうでないとな。」

 

「だな」

 

二人は倉庫部屋の屋上をつたってそのまま一階のフロアに行こうとした。しかし昨日雨が降った影響からか屋根は少し水を含んでおり、いつ足を滑らせてもおかしくないような状態だった。

 

「おいHI。お前そう言えば最近例の彼女とはどうなってんだよぉ!まさかやったんじゃねえだろうな?」

 

封筒からの悲痛の言葉だった。

 

「なんでかな。あいつからは全然返信が返ってこなくてよ。」

 

「嘘つけよHI!やったんだろ〜!」

封筒は冗談半分で言うと、HIの体を後ろからゆすった。

 

「お、おいやめろ!?」

 

その瞬間HIはバランスを崩し、足場を滑らせた。

 

「ま、まずい.. !?俺はまだDTなんだぞ?!こんなところで死ぬわけには!?」

 

HIが二階から落下しかけたその時だった。

 

「ムニュッ」

 

「ん、ん?俺生きてるのか。」

 

HIはゆっくりと目を開けると。誰かに自分が抱え込まれていることに気づいた。腕には柔らかい感触。全くもって感じたことのない新しく、優しい感覚だった。

そしてHIは固いコンクリートに叩きつけられたのではなく、ある女子生徒の腕の中に抱え込まれていることに気づいた。

 

「お、おいHI!?」

 

封筒が羨ましそうに叫んだ。

 

「君はいつも危なっかしいな。」

 

「お前はまさか?あの時の。」

HIの目の前に写ったのは、紛れもなく、先日HIの妹を窮地から救ったあの時の女の子だった。

 

「そうだよ。久しぶりだね。」

彼女はそういい、HIをその場にゆっくりと下ろした。

 

「さてと、HIくん。ついでに封筒も。君たちに話がある。少しきてくれないかな?」

 

「ついでだとおお!?」

 

「あ、あぁ。」

HIはこの女にはなにか秘密があると悟った。そして彼女の正体や、あの時の能力、全てが今求めているアモルという存在に繋がっているのかもしれないと、HIの勘がそう嘆いたのであった。

 

8話完

 

HIDT FOREVER 第七話 「謎の少女との出会い」

HIDT forever 

ーあらすじー

陰キャ童貞オタク。この世の全てを手に入れたHI。そんな彼の人生に突如現れた1人の謎の美少女。唐突な彼女からの告白、この世の中に潜むアモルという記憶媒体の存在。何もかもが唐突で理解に苦しむHIにさらなる試練とアモルの秘密が襲い掛かる。

 

第七話「謎の少女との出会い」

 

53日。世はまさにGWの二日目に突出した。

春の華やかさとは一変、草木も本来の色を取り戻し、鮮やかな黄緑色に輝いている。太陽がギラギラと照りつけ、夏の始まりと地球温暖化をひしひしと感じた。

レジャー施設や遊園地は子供連れで溢れかえり、時折子供のぐずる声や、家族の笑い声がテレビを通して聞こえて来る。

 

「今日は封筒とアニメイトか〜」

HIは朝食を口にせっせとかきこみながら、今日という日に胸を膨らませていた。

休みの日は封筒とアニメイトに行き、大好きな「リロ」のフィギュアを嗜める日になっているからだ。

 

「それにしても今月も色々なことがあったなぁ。」

 

改めて4月を振り返ると、入学早々封筒という騒がしい友達ができ、高校生活でお世話になりそうなcafeも見つかり、なぜか知らないが彼女もできた(なぜか連絡が最近取れないけど)。HIからすると順風満帆以外の何者でもない生活を送っていたのだ。

 

「これが華の高校生ってやつか!?」

HIは高校生活の順調さに少し違和感を覚えながらも、幸せな現状に満足気になっていた。

 

「でもやっぱり、気になるのがあのアモルっていう存在だよな。なんかあの子はそれのせいで消えるとかなんとかいってたし...

HIはアモルの存在についてまだ信じきれていない部分があった。確かに彼女の肌はとても透明で今にも消えかかっていたが、それだけといえばそれまでだ。芸能人も含め、人間あのくらいの肌の透明度の人がいてもおかしくはない。

(まぁ女性経験ないけど)

 

まぁあまり深くは考えないでおこう。とりあえず今日の服何にしようかな。やっぱりメイド服がええかグフフフ...

 

HIー!今日は妹の面倒見てあげる日でしょ!そんな気持ち悪い顔してないで遊びにでも連れて行ってあげな!」

「え!?!」

 

HIは完璧に忘れていた。そういえば先週あたりにお母さんが、仕事で家にいないからGWだけど妹の面倒を見てほしいと頼まれたのだった。

「お兄ちゃーん。あそぼー。どっかいこー」

こんな可愛い声で遊びに誘われたら、全国お兄ちゃんが今の遊びを断って、一日中妹と遊ぶことを選ぶだろう。

 

「妹よ。すまん!一緒に遊びには行くんだけど、お兄ちゃんの友達も一緒じゃだめかな?」

からしたら最大の失態だった。あんなロリコンクソニートの封筒に僕の世界一可愛い妹を会わせるなんて、王水の直飲みに等しい自殺行為だったからだ。

「お兄ちゃーん友達いたんだ!いいよー!じゃあ行こう!

妹はそう元気に言うと、せっせと外出の準備をするために自分の部屋に戻っていった。

 

「はぁ、封筒の野郎には手を出さないようにLINEで報告しとくか..

HIはラインでしつこく、妹がくるから何もするなと言うことを告げると、

「俺はロリコンではないから心配するな

と何の根拠もない返信が返ってきて、余計心配になった。

 

「妹よ、そろそろ行くぞー」

「はーーい!」

久々の妹との外出が、まさかアニメイトだなんて、全国の妹がいないロリコン兄貴どもに殺されそうなデートスケジュールだ。それでも家のドアを楽しそうに開ける妹を後ろに見ると、そんな気持ちもどこか薄れていくように思えた。

 

「よっ封筒」

「よっ!ふうどう!」

妹も何故か封筒に対して僕の真似をして挨拶をした。めちゃめちゃ可愛いじゃん。

 

「でへっ、封筒っすwHIの親友やらせてもらってますだじゅんいち、よろピクシー^_^

 

渾身の封筒のギャグだった。

妹の顔はぜったいれいどの温度まで低下し、その場の雰囲気が凍りついたことを一瞬で理解した。

「やはりこいつを友達に持った俺が馬鹿だったか....

「ん?なんかいったか相棒」

封筒はアホだから空気が読めていない。自分のギャグで世の中を救ったような、そんな誇らしい顔を浮かべ、とても満足そうだった。

 

「じゃあいこっか。」

「うん!」

「うぇーーい」

そうしてアニメイトまで歩き始めた。

 

アニメイトに着き、当初の予定だった、フィギュアとファイル、ついでにiPhoneケースを買って店から出ると、店の前に1匹の猫が歩いているのが見えた。

 

「可愛い!ねこさんだー!」

妹はセカセカと走る猫を後ろから全速力で追いかけていった。

「待ってー!」

「おいHI。妹いっちゃったぞ?大丈夫か?

「大丈夫だろ多分。まぁ後ろからゆっくりおいかけていこうぜ」

 

猫は歩道を右に回り狭い路地に入っていった。

妹もそれを追うように狭い路地に入っていった。

 

「おいHI。お前の妹クソ狭い路地に全速力で入っていったけど大丈夫か?

 

「ん!?なんかあったら心配だ。とっとと追いついて捕まえるぞ。ついてこい封筒」

 

「おうよ!」

 

僕らも全速力でその後を追った。

しかし、何度か曲がり角を曲がっていくうちに、妹を見失ってしまった。

 

おいおい、まずいぞ。俺の可愛い妹がもしなんかあったら切腹問題だぞ。どうする俺。どうする俺...

 

 

「たすけてぇー!お兄ちゃーん!ふうどうー!」

 

そうこう考えていると、甲高い妹の声がどこからか聞こえてきた。

 

「おい!?大丈夫か!?」

 

HIは全力で声のする方へ走っていった。細い路地ということもあり、ゴミ箱や木の棒が散乱してとても人が通る道とは思えない道を全力で進んだ。

声のする方へ行くと細長い路地の突き当たりに、妹と大柄な男が3人いるのが見えた。

 

「おいおい、お嬢ちゃん、俺らにぶつかって来るなんていい度胸じゃねえかよおい。」

「カンにき?ヤッちゃいますかい?こいつ」

「そうだな、ランクルス、こあ。やっちまいなこんな奴ら」

「了解ですカンにきぃ!」

 

 

「おい!やめろー!!」

 

HIはそう言いながら全速力で妹の方へ向かうが、奴らの攻撃に全く追いつく気配がしない。まずい..と思ったそんな時だった。

 

廃ビルの屋上からフード付きの藁のマントを被った1人の小柄な子が落ちてきたのだ。

 

「!?」

 

HIは目の前の状況を理解できていなかった。

 

 

「何だこいつ?時代にそぐわない服装しやがって。邪魔するならまずお前からだぜぇ!」

 

謎の少女に大男が襲い掛かかろうとした次の瞬間。信じられないことが起きたのだった。

 

ランクルスと名乗っていた男は自分の味方である、こあというやつの頭を思いっきりバットで殴ったのだ。

 

その衝撃でこあはその場で倒れ込んだ。

 

「おい?ランクルス?お前どう言うことだ?」

 

「おらぁあああ!」

 

勢いそのまま、ランクルスはカンにきをも殴り飛ばした。

 

「ぐはっ」

 

もはや何が起きているのかHIには到底理解できなかった。そこにはただただ目の前で起きていることを唖然としながら傍観することしかできずにいる自分がいた。

その後ランクルスと呼ばれるやつも力が尽きたかのようにその場に倒れ込んでしまった。

 

「大丈夫?お嬢ちゃん」

 

「うん!ありがとう!!助けてくれて!」

 

「礼にはおよばないよ、これもまた運命さ」

 

「おい!大丈夫か!!」

 

「お兄ちゃんー!この人がね!助けてくれたの!」

妹は涙ぐんだ声でそう言い、僕の懐に抱きついてきた。

 

「誰だが知らんがありがとう。助かった。」

 

「いえいえ」

 

そういうと、彼女は藁のマントを取ってその場に投げ捨てた。

そこにはHIと同じ高校の制服を着た少女が立っていた。白のブレザーに、赤色の校章。まさしくHIの通っている、私立ランクマ学園の制服だったのだ。

 

「ん?まさかうちの生徒なのか?」

 

HIは不思議そうに彼女に問いかけた。

 

「おーーい!HIどこいってたんだよー!探したぞー!

 

そのタイミングで封筒が僕らを見つけ一目散に走ってきた。

 

「君がHIくんだね。待っていたよ会いたかった。会ってすぐで悪いがもうそろそろ時間だから行かないと。また学校でね。」

そう彼女は告げると驚異的な身体能力で壁を蹴り、ビルを登り、その場を後にしたのであった。

 

「何だったんだ一体...

 

「おいおい、HIどこいってたんだよ。びっくりしちゃったぜ、お前を追いかけてたら、俺も意識が飛んじまってよ。気づいたらファミマでファミコロを買って小学生と投げ合って遊んでたんだからよ」

 

「おまえまじで何言ってんだ。頭でも打ったか?

 

「いや別に正常だけど?多分」

 

まぁとりあえず妹が無事でよかった。あの少女のことは結局よくわからなかったが。僕と同じ制服だったということは、僕と同じ学校か。

待っていたってどう言う意味なんだ?まぁいいか....

 

「よし帰るぞみんな」

「おっけー」

「うん!!楽しかった!2人ともあじがと!」

「おーーデヘッ封筒にいさんに何でも言えよこれからは(^^)

「うん!!」

 

この出来事が今後のHIの人生を大きく変えてしまうことは、この時のHIはまだ知らなかったのであった。

 

第七話 完

 

 

HIDTforever第6話「アモルの秘密」

HIDTfoever6

「アモルの秘密」

 

 

 

「明日からGWや〜。みんなハメ外すことないようになー」

先生の適当な挨拶も終わり、生徒たちは目の前にきたGWに心を躍らせ意気揚々と次々に席を後にしていく。

 

「おい、HI帰ろうぜ。」

封筒がいつものように声をかけてくる。

「そういえばさ、俺の前の席の人、初日からずっときてないけど.....どうしたのかな?

「たしかに、そうだなぁ、おかしな話や。先生に聞いてみるか?

僕が盛大な高校デビューを果たした初日。彼女だけは僕に冷徹な笑いを向けず、優しそうに僕のことを笑ってくれていた。それが何故か少しだけ心に残っている。そんな彼女は学校が始まり1ヶ月が経とうとしている今、未だに姿を見せない。

「せんせぇーー。ここの席の人はどうしちゃったんですか?」

封筒が後ろの席から声を張り上げ、教卓で眠そうに座っている先生に声をかけた。

「そこには、もともと人はいないだろう。何言ってんだ封筒。おまえやっぱアホやな。」

「!?」

よくみると前の席には教科書類が何冊か積まれていた。もう完全に隣の席のやつの物置にでもなっているかのようだ。

「それはおかしくないか?HI。たしかにここには可愛い女の子が座っていたはずだよな?どうなっているんだ?

「俺にもわからない....。まさかあの時あった女の子の話と関係があったりするのかな。」

HIは頭を悩ませる。考えれば考えるほど意味がわからない。何故僕たちだけがそれを覚えていて、周りからの存在が消えているのか。そんなことが本当にあり得るのか。

「封筒。今日はもう帰ろう。明日行きたいところがある。いいな?」

「わかったわかった。何か考えがあるんやな。ほな今日はファミチキでも買って帰ろや👍

いつもの帰り道。封筒は自分のロリコン自慢をしてきたが、一切耳に入ってこない。

すぐにでもこの状況を整理したいと、そう思った。

 

ー翌日ー

GWに入り、世はまさに連休ムード。

僕の中でのこの連休は、いつもの一人家で過ごすものとは一味違う。

僕にも彼女ができた。色のない日常に色がついた、そんな気がするとともにそれが僕にとってまた、大きな足枷になることもなんとなく心の奥で感じていた。

先日の出来事は忘れもしない、今でも鮮明にしっかりと覚えている。

僕は今の状況を整理するため、アモルについての記述が沢山あるとされている書店に封筒と朝早くから向かい、文献を漁ろうと決めていた。

 

 

『この世にある万物、特に人間はアモルと言われる固有の物質を持つ。人同士、このアモルを感じ取り記憶媒体となりしことで他人を認知し、存在を肯定する。99.9の人アモルを認知すること無く死を遂げる。選ばれし人アモルを自由に操り、時には他人の記憶に侵入し存在なしことを埋め込む。選ばれざる者このアモルを維持できず次第にその存在消えゆく定めにあり、つまり皆から忘れられることを意味する。なお、解決策、原因は未だわからず。国としてはあまり深入りして研究する問題でもなさそうだ。』

政府の出している本にはこのようなことが書かれていた。

 

「なるほど....正直よくわからないな。選ばれたもの、選ばれざる者ってなんだ?研究を勧めないってのもどういうことだ。

HIは頭をかきながら、入れ立てのコーヒーを一気に飲み干す。甘苦いこのコーヒーはまさにこれからの運命を悟っている、そのように感じた。

 

「この文献によると彼女は選ばれざる者と呼ばれる特殊な存在。そう言うことになるよな?H I?

「そうっぽいな。そして、いとも簡単にニュースの強盗としての存在を上書きし、何事もなかったかのようにここにいるマスターは少数の記憶を司りしものってことになるわけか」

 

それなら辻褄があう。この世の中はうまくできている。影が薄い、濃いと言う言い方があるが、まさにこのことなんじゃないかと疑ってしまうレベルだ。

「結局のところ、アモルのところに彼女が読んだものに愛という記述があるから、何かそこに病気を救う糸口がある。そのくらいしかわからんってことか?でもここのマスターがその記憶を変えられる能力を持つならなにかわかることがあるんじゃねぇのか?なぁ、マスター?」

 

ついこの間までニュースで題材的に取り上げられた犯罪者が今、目の前でコーヒーを淹れている。こんな状況普通ならありえない。

マスターは40歳くらいらしい。僕にとっては歳のわりにはとても若く感じた。

「私もわかったらそうしているさ。私は、他者の記憶を一時的にではあるが操作することができる。どうやっているのかは僕にもわからない。そう願うとできる、人間が言葉を喋るのと同じような感覚だよ。」

 

「ふーん、そうなんだ。じゃあなんで俺らには強盗の記憶が残ってるんだ?

 

「ぼくの記憶操作は不完全なんだ。君たちみたいに僕が記憶操作が可能だと認識したら効果を持たない。君たちは僕の能力に気づいている。だから僕の力は君たちには及ばない。無論、人によっては、完全に支配できる能力を持つものもいるみたいだがね。」

 

「なるほどなぁー、じゃあ俺の頭の中に妄想でもいいからdtを卒業できた記憶を埋め込むことも無理なんかー残念〜www

封筒はいつもこんな感じだ。マイペースというか、本当に都合がいいというか...

 

「そんなことより、マスターはなんでこのカフェを作ったんや?」

 

「いい質問だね。彼女もしかり、この世に消えるべき存在なんていないとおもうんだよ。人は生まれたら必ず死んでしまう。それは紛れもない真実だしこの運命からは逃げられない。でも記憶は消えない。思い出は消えない。それだけでもこの世界にいた証明になる。でも彼女たちは消えゆく運命にある、生まれた時からね。そんなのはひどい話じゃないか?そんな人たちを助けたい。そう思って立ち上げたのさ。何か情報が得られると思ってな。」

 

「なるほど.....。マスターのほかにも記憶操作をする人って見たことあるの?

 

「そりゃたくさんあるさ。世の中の理不尽の原因はほとんど彼らの無闇な記憶の入れ替えによる秩序の乱れから来ているといわれているくらいだ。その能力を悪用するもの、交渉に使い利益を上げる者。人によってさまざまだよ。」

「なるほど.....。」

人の記憶を操れる人、何故かこの世から生まれた時から消えることが決まってる人。どうしてこんな理不尽な存在がこの世界に同時多発的に存在しているのだろう。未だに僕には信じられなかった。

「彼女に会わなくていいのかい?彼女はここに住み込みんでいるからな。三階の寝室で寝ているんじゃないかな。」

「今日はいいです。家で色々考えてみたいこともありますし....。」

「そうか、気をつけてな。封筒くんもそうしょげるな。元気を出しなさい。」

「べつにしょげてるわけじゃ!!HI!今日はカラオケにでも行ってストレス発散や!」

そう言うと一人でに走り出してしまった。

外の温度は18度程度だろうか。湿度が高いためかじめじめしていて気分が悪い。

Hiはドアを開け、たしかに存在している自分の大きな手を空に透かした。

 

ー完ー

Attachment.png